二章 第十話 シーン3〜5
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リリエがコールを倒したその頃。まだ戦争は終わっていなかった。
襲い来る屍の機兵達と、それを盾にして戦う機兵。両方かなりの数を倒したが、敵の方もまだ持ちこたえている。一方、ガルグ達連合軍も全く無傷というワケではない。エース級は全員生きているが、他の機兵には被害が出ている。
とは言えコールが倒れたことで、形勢は連合に傾いた。
しかし問題はマドレイだ。彼の駆る闇機兵シュリーゼルは、まだ戦場に現れてはいない。彼が指導者である以上、終戦にはその首が必要だ。それに通常の兵士はともかく、屍が投降するワケがない。
「コールが倒れたか。潮時だな」
そのマドレイがぽつりと呟いた。そして海沿いの倉庫から、闇機兵シュリーゼルが現れる。右手に大きな杖を持つ、細いシルエットの怪しい機兵。
ガルグがその姿を捉えたとき、誰もが目を疑う事が起きた。屍と化した機兵が全て、力を失い崩れ落ちたのだ。これはガルグが前にやってみせたカマキリに起きたのと同じ事。つまり魔法を解除したのである。
そうなれば残る機兵は僅かだ。瞬く間にそれは殲滅された。これで残るはシュリーゼル一機。事実上決着は着いている。
マドレイ自身が招いたことだ。だがガルグは納得していない。
「どう言うつもりだ? 降参か?」
「「もう十分義理は果たしましたの」」
ガルグが問うとマドレイは答えた。いやマドレイの他に女が居る。マドレイの声に少女の声が、重なって奇妙な音を奏でた。喋り口もマドレイと言うよりは、おそらく少女の方の物だろう。
その少女をガルグは知っていた。
「クルエルナか。まさかと思ったが……」
「お父様。お久しぶりですの。お察しの通りルナですの」
少女はガルグに向かって言った。
魔剣クルエルナ──通称ルナの、精霊体は金髪の少女だ。黒いゴスロリ風の衣装と言い、一見すると可愛らしく見える。
シュリーゼルの操縦席内部に、彼女はフワリと浮いていた。その横に座るマドレイは、最早魂の抜けた人形だ。いや、初めからマドレイは──魔剣に操られていたのだろう。
「つまりゼイガスはお前の組織か」
「あらお父様。それは誤解ですの」
だがルナはガルグへと言ってきた。
「私はただこの子の願望を、叶えて差し上げたそれだけですの」
そしてマドレイのほっぺをつつく。反応を返すことすら出来ない、哀れな男の抜け殻だ。
ルナはそれをガルグに説明した。
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マドレイがゼイガスを作ったのは、魔剣と出会う十年も前だ。彼は些細な諍いが元で、子供の頃に獣人を憎んだ。その憎しみが増大し歪んで、ゼイガスを生み出すに至ったのだ。
しかしクーダーを治める領主は、その考えを良しとしなかった。ゼイガスは活動を取り締まられ、同志集めも上手く行かなかった。
そんな時だ、ルナと出会ったのは。疲弊しきった指導者マドレイは、魔剣に自分の魂を売った。ゼイガスの拡大を条件に、自らの全てを投げ打ったのだ。今や彼はルナの手足同然。意識の欠片も残っていない。
こうしてルナがマドレイに代わって、人知れずゼイガスを率いてきた。
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以上が、ルナの説明である。
「と、言うワケですの。お父様」
「なにが『と、言うワケ』だ。このなまくら。要はお前が組織を乗っ取って、好き放題やってただけじゃねーか」
ガルグは彼女の説明を、一太刀でバッサリと斬って捨てた。
だがルナにも反論があるらしい。
「それは、お父様も同じですの。ご自分の目的を果たすために、お国を率いて戦ってますの」
ルナが本当に、無邪気に微笑む。
「時代が私達を求めている。この世に偶然なんてないですの」
ルナは何か知っているようだった。
それともう一つ。言い分を語る。
「それにお父様もご存じでしょう? 私達はお父様の気持ちや、記憶が創り出した物ですの。つまりこれはお父様の願望。お父様は人と人が醜く、争い会う姿が好きですの」
つまり全てはガルグの自演だと。
「お姉様! それは違います!」
だがそれを彼女の姉妹が止めた。アリス──聖剣フィリアリスである。
「確かに私達の人格は、お父様の気持ちが作った物。でも自由意志がある以上、責任は自分達にあるんです!」
「あらあら。アリス生意気ですの」
聖剣と魔剣は兄弟姉妹。つまり姉妹喧嘩と言うことか。
もっともガルグにはどうでも良いが。
「もう良いお前ら。どっちも黙れ。なんにせよルナは破壊する」
「ふふ。お父様。それは無理ですの」
ガルグが言うとルナが微笑んだ。だが状況は連合の有利だ。
ゼイガスの機兵はたったの一機。いくら魔剣が強力と言っても、連合側の勝利は揺るがない。
しかしそれは勢力争いで、ガルグとルナの争いとは別だ。
「シュリーゼルが何故この場所に居るか。お父様。貴方に分かりますの?」
ルナがガルグにまた笑って言った。彼女のシュリーゼルが出て来たのは、海沿いに在った倉庫の一つだ。つまり機兵は今海沿いに居る。
それで、ガルグも気が付いた。
「ち。逃がすか!」
「うふふ。遅いですの」
シュリーゼルが手に持つ杖を構え、槍投げのように海へと放つ。魔力を込めて投げられた杖は、ぐんぐん海上を進んで落ちる。遥か遠くの海に落ちた物を探し出すのは最早困難だ。
一方シュリーゼルは力なく、その態勢のままで崩れ落ちた。魔剣は杖に内蔵されており、ルナはそれを投げマドレイを捨てた。
それでも探したい気持ちもあるが、ガルグはレグスの国王だ。
「全機、敵兵力を拘束せよ。それと負傷兵は即時回収。レグスに運んで治療する」
言ったガルグの耳に波の音が、忌々しくも何度も打ち寄せた。
第十話終。
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