二章 第十話 シーン1〜2
1
ガルグのエルギアを先頭にして、平原を進み行く機兵の群。その装甲が朝の日を浴びて、キラキラと眩しく輝いている。四十機もの機兵が集まって、歩み進む姿は圧巻だ。
その上に共和国連合の、エースがほぼ全員揃っている。ガルグのエルギア。アズマのドラーゼン。エルリアとミアの姉妹の機兵。そして──リリエのメルフィリス。
だがその彼等の行く手には、更に多くの機兵が待ち受ける。黒いオーラを纏った鉄機兵。屍の機兵軍団だ。彼等はクーダーの街の中から、外にかけて多く布陣している。その街もまるで廃墟のようで、尚更彼等の拠点は不気味だ。
「ご主人様。あと五十秒程で、敵魔法の射程に入るかと」
「知ってる。各員、備えは良いな?」
ガルグはティアに言われ、皆に聞いた。
「ま、良くなくても始めるが」
ガルグはこんなことを言っているが、思いの外、兵士の士気は高い。彼等はガルグの質問に、叫びにも近い返事を返す。
それなら遠慮する必要も無い。
「今から俺がカウントをするから、ゼロで全機が魔法を発射しろ。前列の者は水平に、それ以外は上から落とすように。その一斉射が終わったら、各部隊ごとに役割を果たせ」
ガルグは言うとエルギアを止まらせ、魔力をその左手へと集めた。
他の機兵達も言われたとおり、武器や腕に魔力を収拾する。一方、未だ敵に動きはない。結界による防御も起動せず、本当に全てが止まって見えた。
だがなんにせよここまで来た以上、殺し合う以外道は無い。
「では……カウントを開始する。三、二、一、ゼロ!」
ガルグのカウントゼロで一斉に、魔法が放たれ機兵を倒す。それと同時に敵もその全てが、眠りから覚めたように動き出す。
「よし。突っ込むぞ。全機抜かるなよ」
ガルグはその様子を確かめて、エルギアを前方に走らせた。連合軍の機兵達も続き、一斉に敵に向けて走り出す。
しかし──ここで敵のエースが来た。コールが駆る機兵のバーデルグだ。背中から赤い炎を吹き出し、一足飛びにエルギアへと迫る。
「その首を貰う!」
コールが言った。彼はここでガルグを打ち倒し、戦争を終わらせるつもりだろう。生き物も軍も同じ事。頭を落とせばそれで死ぬ。
そんなことはガルグも知っていた。故に敢えて先頭に立ったのだ。
「残念。外れだ」
ガルグは言うと、エルギアを宙へと跳躍させた。
するとその後ろからメルフィリスが、現れてバーデルグを受け止める。聖剣の使い手であるリリエと、魔剣を操るゼイガスのコール。
「捕らえました! コール・マークマン!」
「ち! この前の機兵か! 舐めるなよ!」
二人の機兵がその手足となり、杖とハンマーが火花を散らす。コールのバーデルグは強力だが、メルフィリスも受け止めて下がらない。
それが数秒間続いた後に、ようやくバーデルグが停止した。黄金の角を持つ鉄機兵が、炎を消して一歩後退する。
その彼を尻目に連合軍は、クーダーの街へと突っ込んでいく。
「一騎打ちです。それとも逃げますか?」
リリエがコールに向かって言った。
最初からこの形を取るために、ガルグはこの配置を選んだのだ。魔剣に対して聖剣をぶつけ、リリエの復讐を──成就させる。
「だれが。君を粉砕した後で、彼等の背後を突かせて貰う」
しかしコールは涼やかに言った。自慢の前髪を、かき上げながら。
2
リリエはメルフィリスのコクピットで、バーデルグをその目に捉えていた。横にフワリと浮いているアリスも、今ばかりはおしゃべりを止めている。それ程リリエから強い殺気が、バーデルグに向けて放たれていた。
そのリリエが、コールに問い糾す。
「貴方がレグス王を殺したとき、少しでも心が痛みましたか?」
「ふ。アマチュアか? 誰かは知らないが、五人も殺せば慣れてくるものさ。しかしあまりにも一方的だと、つまらなさを感じることはある」
コールがその言葉をせせら笑う。
その対度がコールの本心か、それとも冷静さを奪うためか。
「そうですか。それは、良かったです。安心して貴方をいたぶれます」
何にしてもリリエは冷徹に、コールの言葉に返して見せた。
そして横に居るアリスに向かって、今度は優しく協力を仰ぐ。
「アリスちゃん。私に力を貸して」
「当然! あんな奴、ぶっとばーす!」
するとアリスもやる気満々だ。
一方コールはもう既に、戦闘の準備を開始していた。
「それでは一撃で消えて貰おう」
ハンマーの柄がにわかに長く伸び、その尖端がバラバラに展開。それが巨大な炎の鎚となり、上方からメルフィリスへと向かう。
「叩き潰せ! メテオ・クラッシャー!」
機兵を丸ごと潰せるほどの、巨大なハンマーがリリエに迫る。
だがリリエはあくまで冷静に、防御用の魔法を展開した。
「結晶防壁」
その技は──メルフィリスの機体を包み込む、結晶にも似た防壁だ。
そこに炎の鎚が振り下ろされメルフィリスの姿が飲み込まれる。炎は地を溶かしてガラスと化し、周囲の草木を焼き払う。
だがメルフィリスは無傷であった。
「温いですね。それで本気ですか?」
リリエは防壁を解除しながら、コールに向かって冷たく言った。
彼女の駆るメルフィリスの機体は、掠り傷一つ負ってはいない。
「前とは違う、と言う訳か。だが大義のためには、消えて貰う!」
それでコールにも火がついたらしい。
しかしリリエはもう気が付いていた。
「貴方は、私には勝てません」
リリエが言うとメルフィリスが杖を、地面に向かって突き立てた。
「結晶甲拳」
リリエの魔法。それは巨大な腕を作る物だ。拳の部分が結晶で出来た、金属製の宙に浮かぶ腕。左右一対のその腕は、機兵の物より遥かに巨大だ。
「行きますよ?」
リリエはその腕を、目の前の機兵バーデルグに向け──振り下ろし、叩きつけ、吹き飛ばす。その度に強烈な衝撃が、操縦席に居るコールを襲う。
「ならば……ハンマートルネード!」
コールもまだ抵抗を続けるが、二人の力量差は明かだ。
高速回転するバーデルグ。
「合掌」
その横から腕が挟み、回転を無理矢理に止めにかかる。勢いはみるみるうちに弱まり、バーデルグは巨腕に掴まれる。
「えと、その腕が邪魔ですね」
そして今度はバーデルグの腕を、掴んで左右に引きちぎる。
「こんな……馬鹿なことが。有り得ない」
コールは唖然として言った。まだバーデルグは動けるが、腕が無ければただのでくの坊だ。
しかしリリエの方からしてみれば、この結果は当然の物である。
「貴方はその魔剣の持つ力を、一割ほどしか引き出せていない。私も完全とは言えませんが、貴方程度には負けません」
リリエは言って宙に浮かぶ腕で、バーデルグを何回も殴打した。
「大丈夫です。私はアマチュアで、殺す事には慣れていませんから」
そして、最後にリリエは言った。
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