二章 第七話 シーン3
3
一方、策が成功したガルグ。さぞかし意気揚々と思いきや、眉間にギュッとシワを寄せていた。その原因はレグスの首都にある。
夕陽に照らされたレグスの街に、多くの民衆が集まっていた。彼等は勝利を祝うためでなく、怒りをぶちまけるため、そこに居る。実際、エルリアとミアの機兵の足下を武器で攻撃していた。と言ってもクワや木の棒などで、抗議の意を示すのが目的だ。
ガルグはまだエルギアに乗ったまま、その場所に向けて近づいた。
「お兄様! お帰りなさいませ!」
「おいハーフ! 奴らをどうにかしろ!」
するとエルリアとミアが言ってきた。
エルリアの方はともかくとしても、ミアの言葉には一理ある。こうなった原因はガルグなのだ。ガルグは戦闘が始まる前に、ニノに屍の始末を命じた。彼等は敵の魔法により動く、傀儡に等しい存在だ。しかしその家族や友にとっては、紛れもなく親しい人である。
「よーし。良く聞けレグスの民よ。お前達が怒るのもよくわかる」
よってガルグは民衆へと言った。
「だが俺もワケがあり命令した。それを今から降りて説明する。せめて、その間だけで良い。攻撃は止めてくれないか?」
すると民衆も理解して、一度武器を降ろして少し下がる。機兵に乗っていれば安全だが、民衆を止めるのは不可能だ。
しかしティアには不満があるらしい。
「ご主人様。それは危険です。エルギアなら、一掃できますが?」
ティアはマイクを切った上で言った。だがそれがゼイガスの思惑だ。一度信頼を失えば、取り戻すのはひどく難しい。
「俺がそうするのが敵の狙いだ。だったら俺は逆を行ってやる」
ガルグは言うとエルギアのハッチを、開けて地上へと飛び降りた。
民衆はガルグに敵対的だ。一定の距離はあるものの、視線は殺意に満ちて居る。かつてハーフのガルグに向けられた、差別的な視線とよく似ていた。
しかしガルグがここで怯んだら、余計に疑われるだけである。よってあくまでガルグは堂々と──
「お、良い所に居やがった」
足下に居た虫を捕まえた。それは大きめのカマキリで、逃れようと必死に足掻いている。とは言えこれは必要な道具だ。
「民達よ。まずはこれを見るが良い」
ガルグはカマキリを握りつぶした。
すると威圧されたと感じたのか、民衆がザワザワと騒ぎ出す。
「見ての通りこの虫は死んでいる。当然、二度と動くことは無い」
しかしガルグは気にせずに続けた。
カマキリはガルグの手の平の上。体液を流し、ひしゃげ死んでいる。
「だが……ガルグ流・屍傀儡!」
ガルグはその虫に魔法をかけた。するとみるみる体が再生し、闇の魔力を纏って生き返る。ゼイガスの雑魚機兵その物だ。
「おいお前、そこを動くなよ?」
ガルグは民衆の一人に言うと、カマキリを男の方に飛ばした。
カマキリは彼の頭へと乗って、ぺしぺしと蟷螂の鎌を振るう。しかしこれがもし人間ならば、襲われた男性は死んでいた。
「これが俺が下した指示のワケだ。他者を蘇らせて傀儡とする。無論これは禁忌に触れる物だ。だが敵はこれを人に使用した」
ガルグは、カマキリを見て言った。
これで多くの民は怯んだが、まだ納得できない者も居る。
「それでも俺の娘は生きていた!」
涙を流した男が言った。
しかしこの魔法には続きがある。
「いや。それは大きな間違いだ」
ガルグが言って指を一つ鳴らす。すると同時に闇のオーラが消え、カマキリはバラバラに砕け散った。
「これは屍を操る魔法だ。規定された指示を守りはするが、魔力を切ればこの通り壊れる。それをこのまま放置しておけば、いつか隣人を傷つける」
ガルグの言葉で民が静まった。しかしガルグにはまだ仕事がある。
「聞け! 王国の民達よ! 俺はお前達に感謝している!」
ガルグは力強い声で言った。
「お前達は困難に遭いながら、国に戻り復興を手伝った! 街には新たな家が建ち並び、商店も徐々に増え始めている! お前達の努力の賜物だ!」
まず民の上げた成果を労い──
「しかし未だゼイガスはこの国を、民衆を脅かし続けている! だからこそ俺は何度でも誓う! ゼイガスを倒し、レグスを守ると!」
そしてゼイガスを批難する。
すると民衆の一人から、『レグス』のコールがにわかに上がった。それは次々と広がって、最後には全員が叫び出す。
ガルグはそのレグスコールを受けて、エルギアのコクピットに飛び乗った。
「お兄様。私、惚れ直しました」
「今回は認めざるを得ないな」
そこにエルリアとミアが言う。
しかしガルグは言葉を返さずに、座席に背を預けて天を見た。
「クソ。最悪だ。また馬鹿を言った」──ガルグは心の中で吐き捨てた。
感想評価等お待ちしてます。




