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装虹のエルギア  作者: 谷橋ウナギ
第二章『剣』

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二章 第六話 シーン3〜4



 第二時限目『実戦訓練』──とは書かれていないが、訓練だ。軽い昼食を摂った後、ガルグはエルギアへと乗り込んだ。相対するのはメルフィリス。リリエの操る聖機兵である。

 二機はレグスの外の平原に、距離を取り向かい合って立って居た。

 なおサシャとニノは疲れていたので、素直に街の中で休ませた。


「よし。リリエ、アリス準備は良いな?」


 と、言う訳でガルグは問いかけた。


「はい。ガルグ様」

「大丈夫!」


 するとリリエとアリスが返事した。

 聖剣フィリアリスの本体は、既にメルフィリスに組み込んである。操縦席の床の穴に刺すと、自動でフィッティングされる仕組みだ。尚、聖剣の意思であるアリスは、ティアのように縮んで浮いて居る。この方が会話しやすいだろう──と、言う配慮からの策である。

 とにかく準備は出来ているらしい。


「ではこれより訓練を開始する。まずは、その物騒な獲物を置け」


 よって、ガルグはリリエに言った。

 メルフィリスの武装は槍のような、結晶の刃が着いた杖である。が、そんなもので訓練をしたら、エルギアに何があるかわからない。いくらリリエが初心者と言っても相手は聖剣装備の機兵だ。


「わかりました」


 リリエが従って、メルフィリスが杖を地面に投げる。

 まず最初の授業は格闘戦。徒手空拳による戦闘術だ。


「よし。それじゃあエルギアにパンチしろ。全力でやって構わない」


 ガルグはリリエに向かって言った。

 パンチはアレで全身運動だ。まず足を使い駆け寄って、腕を振り上げて振り下ろす。人間なら簡単な動作だが、機兵でやるのは難しい。

 が、メルフィリスは猛ダッシュするとエルギアに向けてパンチを決めた。ガルグが防御させていなければ、エルギアは吹っ飛んでいただろう。

 現実はエルギアは腕で受け、十数メートルほど後退した。踏ん張った足が平行に、レールのような溝を刻んでいる。


「わあ。アリスちゃん凄いです」

「ふふー。それ程でもありますよ」


 リリエに褒められアリスが照れた。が、これはリリエの力でもある。


「お前、思ったより筋が良いな」

「腕部損傷。修復します」


 ティアが褒めているガルグをよそに、エルギアの腕に魔法をかけた。するとエルギアの腕の装甲が、即座に元の状態へと戻る。


「ティア怒るな。これも訓練だ」


 そこでガルグはティアに向けて言った。

 ただ単に腕を治しただけだが、ガルグの指示無しでは珍しい。ガルグはその小さな違和感が、今回は少しだけ気になった。


「申し訳ありません。ご主人様」


 するとティアが素直に謝った。やはり少し怒っていたらしい。

 しかし訓練はまだ続く。


「次は魔法だ。一旦距離を取れ」

「はい。ガルグ様。ここで良いですか?」


 ガルグがリリエに促すと、メルフィリスは元の位置に戻った。

 百メートルに近い距離があればパンチどころか槍も届かない。もちろん走り寄っても良いのだが、魔法攻撃は一般的だ。


「オーケーだ。それじゃあ始めるぞ。まずは教えた通りにやってみろ」


 ガルグはまたリリエに指示を出した。


「わかりました。ええとこうやって……」


 リリエも、それに素直に応える。捨てた杖をメルフィリスに拾わせ、エルギアに向けて魔法を放つ。


「鋭き結晶よ、闇を撃て! 行きます! クリスタル・アロー!」


 詠唱から魔法を発動する。これが正式な魔法攻撃だ。慣れれば詠唱の破棄も出来るが、リリエにはそれはまだ無理だ。と、言うより魔法も撃てていない。

 確かにメルフィリスの杖の前に、結晶の矢は魔力で造られた。しかしその形状は歪であり、その上真っ直ぐ飛びもしなかった。エルギアの横を通り過ぎ、直後に地面に落ちて突き刺さる。


「あー。最初はまあこんなもんだ」


 しかしガルグが慌てる事はない。


「申し訳ありません。ガルグ様」


 リリエはしょんぼりしているが、結晶が出来ただけで上出来だ。


「大丈夫マスター。次は出来るよ!」


 アリスがリリエを励ましているが、そんなに直ぐに出来るワケがない。

 それに機兵には攻撃よりも、簡単で重要な魔法がある。


「それより今日最後の訓練だ。障壁魔法を使って貰う」


 ガルグは言うと自らして見せた。


「鉄障壁」


 エルギアの手の前に、灰色の魔法陣が現れる。


「これが出来なけりゃ実戦は無理だ。俺みたいに避けられれば別だが」


 ガルグは魔法を消しながら言った。

 いくら聖剣搭載機とは言え、直撃を受け続ければ危険だ。それに相手も魔剣搭載の、機兵バーデルグを所有している。最低限防御が出来なければ、戦場に連れても行けないだろう。


「はい! 行きます! 鉄障壁!」


 そんな訳でリリエは使用した。

 攻撃魔法の時とは違い、無詠唱だが発動はしている。そもそも障壁は魔法の基本。子供でも使用出来る者も居る。


「ふむ。なんとか様になってるな」

「は……はい。辛いですけれど」


 リリエは発動しながら答えた。障壁は発動も大事だが、その維持はもっと重要だ。連続して撃たれる魔法もある。だがどうやら問題はなさそうだ。


「よし。良いぞ。その辺で切り上げろ」

「ふう。私、上手に出来ましたか?」

「上出来だ。が、一応気をつけろ。今のは金属性の障壁だ。効果が無いとは言わないが、火や雷には効果が薄い」

「わかりました。肝に銘じます」


 リリエが素直に返事した。

 彼女は生徒として理想的だ。真面目な上に呑み込みも早い。この調子で訓練を重ねれば、数日後にはマシになるだろう。それで勝てるかは知らないが、少なくとも戦力には使える。

 しかし思い通りにならないのが、この世の理と言う物である。


「隊長。少し良いですか?」

「ニノか。どうした? 休んでいただろ?」

「いえ。問題が発生しました」


 ニノが通信でガルグに言った。


「見張りの兵が敵軍を発見。アズマが既に出撃しています」


 襲撃はいつも突然だ。ガルグの都合などは気にしない。


「わかった。俺も直ぐ向かう。ニノ。お前は街に残ってろ」


 ガルグは言った。

 問題は、それを聞いていたリリエの方だ。


「ガルグ様。私も参ります」


 リリエは言って、拳を握った。聖機兵メルフィリスの拳だが。

 なんにせよガルグがここで止めても、彼女はどうせ着いてくるだろう。


「良いだろう。ただし見学だ。アリスを奪われても困るからな」


 ガルグは座席に背をもたれ言った。



 太陽が徐々に落ち始めた頃、丁度紅茶が飲みたくなる時間。共和国軍の機兵の部隊は横一列に並んで待っていた。機兵はガルグのエルギアと、アズマの専用機兵ドラーゼン。そこにリリエのメルフィリスを加え、残りは二種の鉄機兵が並ぶ。

 起伏のある地形で見えないが、そろそろ敵が通りかかるはずだ。ガルグ達はその敵を待っていた。

 だがこうも手持ちぶさただと、会話の一つもしたくなる。少なくともアズマはそうらしい。


「ふ。仲良きことは美しきかな」


 アズマがリリエを見て言った。


「黙れアズマ。脳天をかち割るぞ」

「いやなに。お前達を見て居ると、若き日を思い出すと思ってな」

「そう見えないかも知れないが、俺はお前より年上なんだよ」


 ガルグはなんとか反論したが、状況的に説得力が無い。一方リリエは照れているらしく反論すらせず無言のままだ。

 そこでガルグは話題をすり替えた。


「それよりお前の機兵、戻ったな」

「ドラーゼンか? 援軍が持ってきた」


 アズマが応えて機兵を動かす。ツリーランド建国戦争で、最後に戦った赤い機兵だ。

 それと量産機も種類が増えた。


「あっちの鉄機兵は?」

「イッシキだ。正式名は別にあるのだが、通称の方がよく使われる」

「一年目に出来たからイッシキか。まあ確かに解り安い名前だ」


 ガルグは納得して腕を組んだ。

 だがここで話を終えてしまえば、またアズマにねちねちと弄られる。と、言う訳で次の話題である。


「敵の本拠地は? わかったか?」

「まだだ。おそらく東方だろうが、ゼイガスの領地はガードが堅い。部下も尽力してくれてはいるが」

「結果はサッパリか。それは困るな」


 ガルグは頭を巡らせた。

 敵の本拠地がわからない以上、そこを攻撃するのも不可能だ。コールは炎の魔法で逃げるし、今は守勢に回らざるを得ない。

 事実、敵の機兵が悠々と──崖の横を通り抜け、現れた。黒いオーラを纏う鉄機兵が、ワラワラとこちらへと歩いて来る。


「ち。こりゃ面倒な事になったな」


 ガルグはそれを見て、気付いて言った。


「おいアズマ。喜べわかったぞ。ゼイガス共のガードが堅いワケ」


 機兵に纏わり付く黒いオーラ。その現象を引き起こす魔法を、ガルグは経験から知っていた。


第六話終。

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