二章 第五話 シーン3〜4
3
ガルグとリリエは今まさに、聖剣の前に立っていた。一方、聖剣の方はと言えば刃を下に宙に浮いている。
聖剣フィリアリス──その宝具は、細く整った諸刃の剣だ。微かに青みがかった刃には美しい装飾が成されている。
「久しぶりだなフィリアリス」
ガルグがその剣に声をかけると、刀身から粒子が吹き出した。青く、輝くパーティクル。それは流れるように集結し、やがて人の形を作り出す。ティアの出現と同じ現象だ。つまり精霊が現れる。
「お久しぶりです、お父様ー!」
その少女は現れるが早いか、ガルグに向かって抱きついた。が、ガルグがヒョイッと躱したので、空中で停止して振り返る。
「ふえーん。相変わらず、つれないです」
彼女は騒がしくガルグに言った。
見た目は十四、五歳の女の子。青い髪が非常に美しい。しかしその実態は人ではなく、聖剣に宿る意識その物だ。
「この女の子が聖剣の……」
リリエがその少女を見て言った。
「はい! 聖剣のフィリアリスです! でもアリスって呼んでくださいね」
するとフィリアリスが挨拶をした。聖剣だが実にざっくばらんだ。だがガルグは問題も知っている。
「おいアリス……」
「私の持ち主なら、私と仲良くしてくれないと!」
しかしガルグが指摘する前に、アリスはリリエに向かって言った。
「私が貴方の?」
「はい持ち主です! 今ビビッと来て決めました!」
アリスは勝手にリリエに言った。
これがこの聖剣の問題だ。作り手の言うことを聞く気が無い。もっとも魔剣と呼ばれる物より、これでもまだまともな性格だが。
一方リリエにも問題はある。
「アリスを使えば私でも……魔剣に対抗できますか?」
リリエはアリスに向かって聞いた。
それに対する答えはシンプルだ。
「出来ます! 私は聖剣ですから!」
二人の利害は一致した。
ガルグも薄々気付いてはいたが、リリエの目的は復讐である。故に見知らぬ男と結婚し、今聖剣に心を奪われた。
「ガルグ様……」
リリエは懇願した。
復讐に向かう衝動は、ガルグも嫌と言うほど知っていた。だが同時にその危うさと、無益さも全て知っている。
だからこそガルグは溜息一つ──
「良いだろう。俺の指揮で動くなら」
リリエの目を見て静かに言った。
「ありがとうございます。ガルグ様」
彼女はそのガルグの言葉を聞き、少しだけ悲しそうに微笑んだ。
4
翌朝。ガルグはリリエとティアと、聖剣のフィリアリスと共に居た。レグスの首都にある、城壁の外。そこで四人は機兵を待っていた。
ヘイザーが送ると言った援軍。その到着を向かえるためである。
すると見たことのある守護機兵が、ガルグ達に大きく手を振った。
「お兄様! エルリアが来ましたよ!」
エルリアの機兵フレーリアである。
彼女が今度の援軍を、レグスに率いてきたらしい。
「ガルグ様。妹がいたのですね」
「まあな。相当な問題児だが」
ガルグはリリエに聞かれて言った。問題児はガルグも同じだが。
なんにせよガルグが待っていたのは、エルリアでも機兵の群でもない。
「おいエルリア。例の物はどうした?」
「はーい。台に乗せて、持ってきました」
魔法で聞くとエルリアが答えた。
それを確かめたガルグ一行は、その台に向けて四人で歩く。正確にはアリスは浮いているが。その台に、間も無く辿り着いた。
車輪の着いた巨大な鉄の台。その上には鉄機兵のパーツが、バラバラの状態で置かれている。見たことの無い鉄機兵のパーツ。それがワイヤーで固定されている。
「ガルグ様これは?」
「機兵のパーツだ。これをお前の機兵の元にする」
ガルグは答えて台に飛び乗った。
わざわざパーツを所望したのには、もちろんガルグなりにワケがある。ガルグはそのまま他の三人も、台の上に上げ胸部のパーツへ。そしてコクピットハッチを開くと、リリエに向かって指示をした。
「良いぞ。リリエは座席に座れ。俺も中で操作を支援する」
「あの、私その、スカートが……」
「今更か? いいから早く入れ。アリス本体も忘れるな」
するとリリエが渋々と座った。と、言ってもパーツは寝ているので、リリエも寝ている状態だ。
「よっと」
その横にガルグとティアが、入って操縦席は狭くなる。もっともティアは小さくなったのでそれ程ぎゅうぎゅう詰めでもないが。
とにかくこれで準備は整った。
「おいアリス。行けるな?」
「もちろんです!」
「なら盛大にやれ。俺が許す」
ガルグは機兵のハッチを閉じると、アリスに言って体を踏ん張った。
すると直後にパーツを留めていた、ワイヤーが外れ浮き上がる。魔力を纏ったパーツにワイヤー。そこに周囲の土が流れ込む。
そして巨大な土の球が出来た。空中に浮かぶ土の球。その光景は相当にシュールだ。
「はーい! 盛大に行きますよー!」
だがアリスの言葉でその球が、爆発して機兵が現れる。
機兵のパーツを元に造られたリリエ専用の鉄機兵。機体各所に結晶が配され、朝日を受けて青色に輝く。
「完成! 聖機兵メルフィリス!」
アリスは元気いっぱいに言った。
白く美しいメルフィリス。それが造られた機兵の名前だ。
しかしその操縦室の内部で、問題が一つ発生していた。
「おいリリエ起きろ。終わったぞ?」
「きゅう」
リリエは魔力を使いすぎ、コクピットシートで気絶していた。
「おいアリス。盛大にと言ったが、操縦者を気絶させてどうする」
「てへへ」
「笑って誤魔化すな」
ガルグはアリスにチョップした。
とは言えこれで戦力は揃った。並び立つ機兵達を前にして、ガルグは大戦争を予感した。
五話終了です。
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