第一話 シーン3
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舞台は戻って森の中。ハーフエルフのガルグは早足で、巨大樹を横目に進んで行った。エルフの姫──エルリアとミアを連れ。
巨大樹の乱立するこの森はエルフ達が集まり暮らす場所。通称コロニーと呼ばれる場所だ。
ほぼ真円状に広がる森に、エルフは生まれて一生を過ごす。中心部にそびえる大聖樹。その恩恵にすがり続けながら。
切り出した木々で家を建て、他種族から隔絶された場所で。
そこに三人が歩いていれば、それだけで自然と目立ってしまう。特にハーフエルフのガルグなら。
「は。たまらねえなこの殺気」
「気をつけることだな。ハーフエルフ。エルフは皆貴方を嫌っている」
「迫害しているの間違いだろう? それと俺はガルグだ。ガルでも良い」
「ハーフエルフとなれ合う趣味は無い」
「奇遇だな。ミアちゃん俺もだよ。ところでその仮面は手作りか? でなきゃエルフの民芸品なのか……」
まさに、売り言葉に買い言葉だ。ガルグとミアは種族を抜きにして、それでも反りが合わないようだった。
エルリアが止めていなければ、一生これを続けていただろう。
「二人共、喧嘩はいけません。これから私達は手を取り合い、困難へと立ち向かうのですから」
エルリアは優しく二人に言った。
しかし彼女にも問題はあった。
「そいつはお前の妄想だ」
ガルグは彼女を袖にした。無意味だと解ってはいたのだが。
「でもお兄様は話も聞かずに、私達に着いてきてくれました」
「興味本位。何度も言ったがな」
「それだけでこのエルフのコロニーに?」
彼女はガルグの話を聞かない。誰の話なら聞くか知らないが。
「お兄様のおっしゃる通りです。今日までハーフエルフに対し、エルフの態度は酷いものでした。ハーフの多くは赤子の内に、捕らえられ処刑されてしまいます。もし私の指示が出ていなければ、お兄様も狙われていたでしょう」
「いや実際、今も狙ってるだろ。俺もいつもなら先に殺してる」
「でも私達はまだ生きています。つまりお兄様は優しいのです」
一応会話は成立するが、考えを曲げることがない。頑固にも程がある性格だ。
「おい仮面の。こいつを何とかしろ」
「無理だ。私も苦労をしている」
これにはミアも溜息を吐いた。
結局二人が喧嘩する限り、エルリアからの仲裁も続く。そういうわけで利害が一致して、三人は静かに歩いて行った。
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そして──それから数時間。急に周囲の雰囲気が変わった。一部が結晶と化した巨大樹。輝く川に宙を舞う粒子。幻想的と言って良い景色だ。
「聖域か。俺も初めて見るな」
ガルグも流石にこれには驚き、瞳だけで周囲を見渡した。しかし二人は慣れているらしく、聖域に対する反応は無い。
むしろエルリアは振り返り、全く関係無いことを言った。
「ガルグお兄様は知っていますか? エルフにも分類があることを」
それはガルグへの質問だった。
「ハーフやビーストエルフのことか?」
「いいえ。そうではありません。普通のエルフの中でのことです」
少し暗くなった声のトーンでそれが大切な話だと解る。
「まずエルフの誕生の仕方には、大きく分けて二種類があります。一つは聖樹から生まれるエルフ。もう一つは人間と同様に、母の体から生まれるエルフ。ウッドエルフとブラッドエルフです」
エルリアは両手を背にして言った。
「常識だ。もちろんエルフのな」
ウッドエルフ。そしてブラッドエルフ。その違いはガルグも知っている。
基本的にエルフは聖樹と言う種類の木に依存して生きている。その聖樹から誕生するエルフ。それがウッドエルフと言うことだ。
エルフが生まれる二日前ほどに聖樹はにわかに光り出し、やがてはその光が集束して──エルフの赤子を創り出す。このタイプがエルフの八割だ。マジョリティのエルフと言っても良い。
一方エルフの男女が交わり生まれてくるのがブラッドエルフ。
そもそもエルフは殆ど女性で、故にブラッドエルフは希少種だ。とは言え差別されることはなく、ウッドよりも優れる部分もある。
ウッドと違ってブラッドは、森を離れても生きられるのだ。そのため遠くの地方まで、旅に出たりする者もいる。
「それがどうした?」
「いえ、まだあります」
エルリアの話は尚も続いた。
「コロニーの中で最古の聖樹。大聖樹から生まれたエルフです。ホーリーエルフ──と呼ばれています。普通のエルフよりも強力で、政治的にも立場が強いです。人間に例えると、貴族ですね」
少し寂しそうに彼女は言った。その理由はガルグも知っている。
「お前もそうだろ。なんせ姫だしな」
「はい。私もホーリーエルフです。姫はホーリーエルフから選ばれ、エルフを導く責務を負います。望むと望まざるとに関わらず」
彼女は悲しそうに微笑んだ。
この短時間に話しただけでも、彼女は優しいエルフだと解る。つまりは指導者には向いていない。普通の少女ということだ。
しかし問題はそこではなかった。
「そして、お兄様もそうなのです」
「おい。俺はハーフエルフだぞ?」
「そうですね。ですから正確には、ホーリーブラッドハーフエルフです。お兄様を生まれたお母様。彼女もホーリーエルフでしたから」
今度は嬉しそうな笑みを浮かべ、エルリアはガルグを見つめて言った。
「それで俺を追跡できた訳か。まあそうだろうとは思っていたが……」
ガルグにとってはいい迷惑だ。
同じ樹から生まれた血統は、エルフでは皆兄弟と呼ばれる。そして強い魔力を持つ者は、その兄弟を探すことが出来る。もちろん制限は色々あるが、実際こうして見つかった。
そしてそこが話の本題だ。
「姫。ではまさかこの者が!?」
「そうです。ガルグお兄様こそ姫。私達エルフの最高位です」
驚くミアに彼女はそう言った。
そしてまさにその時三人は、ようやく目的地に辿り着いた。
「ようこそ……ガルグお兄様。コロニーの核である大聖樹に」
まさに大いなる樹。聖なる樹。それは聖域の中心に、一際大きくそびえ立っていた。
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