二章 第三話 シーン3〜4
3
その頃。地下に建造された、広大で薄暗い玉座の間。日の光の入らないその場所に、ゼイガスの指導者は座っていた。指導者マドレイ・グラガーン。金の髪を短髪に刈り上げて、鎧を纏った屈強な男。その笑みが紫色の炎で、照らされて余計に怪しく見える。
「戻ったか、コール」
そのマドレイは──跪いたコールに声をかけた。
「はい。我が指導者。帰還しました」
コールは頭を上げずに答える。
それは彼の畏怖の表れだった。司令官を務めるコールですら、マドレイの前では借りてきた猫。マドレイの纏う危険な波動に、やり込められ恐怖を抱いている。
だがマドレイはそれを一笑した。
「ふ。コール。頭を上げて良い。それよりも報告があるだろう?」
そしてマドレイはコールに言った。
するとコールはようやく顔を上げ、マドレイに対し報告をあげる。
「はい。我が指導者。申し上げます。作戦は第二プランで遂行。交易都市レグスは潰しました」
「なるほど。共和国が動いたか」
それを聞いて、マドレイは呟いた。
だがまだ報告は終わっていない。
「我が指導者。その共和国ですが、妙な者が紛れておりました」
コールが汗を垂らしながら言った。しかしマドレイは知っている。
「お前の魔剣を知る者だろう? ガルグ・ブレッドマン──ハーフエルフだ」
「何故それを?」
「我が魔剣に聞いた」
マドレイは言って剣を見せた。最初から鞘に収まっていない、歪な形の、抜き身の剣。
マドレイはその刃を持ちながら、コールに向かって語り出す。
「魔剣と聖剣は掘り起こされた巨人のコアから創られた。十に割れたその巨人のコアから、ガルグは十の剣を打ち出した」
「ではあの男は……」
「魔剣の父だ。伝説の鍛冶師イム・フェルム。その名の方が通りが良いだろう」
マドレイは全て知っていた。敵対するガルグの危険性も。マドレイ自身の危うさも。
「コールよ。楽しい殺し合いになる。お前の魔剣も喜ぶであろう」
言いながら、マドレイは微笑んだ。
4
ところは戻って会議室。ガルグもほぼ同じことを語った。自分が魔剣の制作者であり、伝説の鍛冶師イム・フェルムだと。
「我ながら碌なことしてねえな」
ガルグは頭を押さえて言った。
「なら何故そんなモノを造ったんだ?」
それに対しヘイザーが問い糾す。正確にはヘイザー人形だが。
しかしガルグにもワケがあったのだ。
「魔獣対策だ。メインはな。知っての通り魔獣の一部には人知を越える奴が存在する。アレはそいつらへの対策用で、それだけに性能が高いんだよ」
ガルグは諦め混じりに言った。
「ただその一部が暴走を始め、魔剣と呼ばれる宝具になった。切れすぎる剣は腕を切り落とす。ドワーフ族に伝わる格言だ」
魔剣は想定外の存在で、ガルグが望んで打つはずもない。だが結果としてガルグは造り、ガルグの偽名は伝説となった。
「ではゼイガスは魔剣の支配下に?」
「そいつは覚醒度合いによるな」
ガルグはヘイザーに聞かれ、答えた。
「魔剣が初めて暴走したとき、俺は封印を施した。だが魔剣の力が強すぎてな。奴らは周期的に覚醒し、その期間だけ意思を発現する」
「封印が効いているときは?」
「強力な武器。だから人は頼る」
戦争に革命に魔獣退治。宝具は常に求められている。それに人間は高慢で、自身の力を過信する。
だが今の問題はそこではない。
「まあなんにせよ相手はゼイガスだ。魔剣なしでも和平は望めない」
ガルグは溜息交じりに言った。
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その後もガルグ達はそれぞれに、持っている情報を見せ合った。ガルグは魔剣。アズマは自軍。エルリアはエルフの森の現状。ヘイザーは各国とのやり取りを。リリエラからはレグスの情報を。
そして決断の時は来た。
「で、どうするヘイザー。撤退か? それともここに残って応戦か」
ガルグはヘイザー人形に聞いた。
「戦術的には撤退だろうが、戦略的には残ってほしいな」
するとヘイザーが返事した。
「現在近隣諸国と共に、ゼイガスの対処を検討中だ。もしここで我らが撤退すれば、レグスを見捨てたとも取られかねん」
ヘイザーによれば戦略上は、撤退することも問題らしい。
そこでガルグは更に問いかける。
「援軍は?」
「ツリーランドからならば、手持ちの鉄機兵を全て出せる。研究の結果エルギアの木が、エルフの聖樹だとわかったからだ」
ヘイザーはその質問に答えた。
そしてエルリアがそれを補足する。
「お兄様! これは凄い事ですよ! これで首都もエルフが守れますし、作物の収穫も上がります!」
エルリアは興奮しながら言った。
ウッドエルフが聖樹を離れれば、その魔力は著しく弱まる。しかし首都に建ったエルギアの木がその魔力の低下を防ぐのだ。しかも聖樹には周辺の、植物を育てる能力もある。エルフの森からの供給もあり、食料に難儀することはない。ガルグは複雑な気分なのだが。
何にせよここに留まるためには、もう一つ大きな問題がある。
「後はレグスの主権問題か」
ガルグは言いながらリリエラを見た。
残る王族はリリエラ一人。つまりリリエラがレグスの王だ。しかしリリエラは可憐な少女で、その心は酷く傷ついている。
「俺かアズマがこいつの代理だな。それでも不安は大きいが、こいつに女王は絶対無理だ」
そこでガルグは皆に言った。
「私は……」
「お前の問題じゃ無い。民衆がどう見るかの問題だ」
無論気づかいも忘れない。元々彼女を放っておけずにこの会議室に連れ込んだのだ。わざわざ負担をかけたりはしない。
しかしアズマがそこに割って入る。
「ふん。それならば良い案がある」
アズマは笑って二人に言った。
「そこの二人が結婚すれば良い。ガルグは王として申し分なく、敵は人間至上主義の権化。旗頭としてはガルグ以上に、適任の者などは居ないだろう?」
ガルグは──聞いて目が点になった。
確かにこう言う場合に置いて、政略結婚は珍しくない。強力な国に守られるために、その国の王子へと嫁がせる。極々一般的な戦略だ。
だがエルリアが直ぐさま否定した。
「ダメです! お兄様! 結婚なんて!」
珍しくガルグと意見が合った。
が──
「それならわた……」メキャ、っと。
彼女の声は途中で潰された。アズマが人形を破壊したのだ。
「これで問題は解決したな?」
アズマはニヤリと笑って言った。
しかしガルグには最後の手がある。
「おいアズマ。俺はハーフエルフだぞ。それにリリエラのことも考えろ。いきなり結婚なんて出来るわけ……」
「わかりました」
リリエラが言った。
そうなのだ。リリエラが却下する。そうすれば結婚は破談になる。
だがガルグの目論見は破綻した。
「は?」
「お願い致します、ガルグ様。国王としてこの国の未来を、私達を……お導きください」
リリエラはガルグに向かって言った。その瞳には彼女を動かした、鈍い輝きが宿って見える。
ガルグはそんな彼女の声を聞き、人生の後悔を積み上げた。
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