二章 第二話 シーン3〜4
3
ガルグ達、混成機兵部隊が出発してから半日後。ようやくレグスの首都に着いた時──ガルグ達が目の当たりにしたのは、想像を超える惨状だった。
まだ家が小さく見える距離だが、視力の低い者にでもわかる。街のあらゆる所が燃えさかり、空には煙で雲が出来ている。最早、交易都市と呼ばれていた首都レグスの名残は何処にも無い。
「そんな……。間に合わなかったなんて」
ガルグの隣でリリエラが言った。
強い衝撃を受けたのだろう。それ以上は言葉が出ないらしい。
「戦えぬ者まで焼き払うとは」
アズマの方は敵の蛮行に、素直に憤っているようだ。
だが、ガルグは二人と違っていた。
「機兵が一機、街の中に居る」
ガルグは燃える街を見て言った。
するとその直後計ったように、ガルグ達の機兵に声が届く。
「やあ。ツリーランド軍の諸君だね。私は、コール・マークマン。この作戦の指揮を執った者だ」
彼は自らをコールと名乗った。
だが、問題はその後だ。
「現在私はこの国の、国王の命を預かっている。助けたければ広場まで来るんだ。もちろん逃げても構わないけどね」
コールは楽しそうに言ってのけた。
「ガルグよ。これは……」
「罠だ。わかってる」
アズマに言われてガルグは応えた。
こんなに解り安い罠も無い。コールの正気を疑うほどだ。或いは逆に罠を疑わせ、ガルグ達の足止めを計ったか。
「エルギアが行く。お前らは待ってろ」
ガルグは部隊の者達に言った。
指揮官機一機で受けて立つなど、こちらも正気ではない決断だ。だがガルグはそれなりにワケがあり、この指示を部隊へと出している。
それに今、指揮官はガルグである。
「アズマ。俺が戻らないときには、お前がこの部隊の指揮を執れ」
「良いだろう。しかし、出来れば死ぬなよ」
「楽しみが減るからだろ。わかってる」
ガルグはアズマに笑って返すと、エルギアを街に歩かせる。
「あの……ありがとうございます」
その途中、リリエラが感謝した。
「別に。お前のためじゃない」
しかしガルグは振り返りもせずに、燃えさかる街を見て言った。
4
炎に包まれた街の広場に、機兵が一機ガルグを待っていた。
全身紫色の装甲の屈強さを感じる鉄機兵。その何より目を引く特徴は、頭に生やした黄金の角だ。それはまるで牛の角の形で、美しく天を突いている。武器の巨大なハンマーも含めて実に力強い印象である。
エルギアとその牛の鉄機兵は、炎と煙の中で向かい合う。
「一人で来るとは、君は馬鹿なのか? それとも余程の大物か」
するとコールがガルグへと言った。
「黙れ。それより王は何処に居る?」
だがガルグに答える義務は無い。それはコールの方も同じだが。
「ああ彼か。ほらこの手の中だよ」
コールがガルグの質問に答え、牛の機兵が腕を前に上げる。
するとその手の中に王は居た。
「お父様!」
それを見たリリエラが、ガルグの隣で大声を出した。
しかし直後には言葉を失う。
「すまない。実はもう死んでいるんだ」
牛の機兵が指を緩めると、王の死体がそのまま落下した。
死体は変な形で落下して地面にぶつかり転がるのみだ。もちろん二度と動くことは無い。
そのことはガルグも勘づいていた。
「だろうな。生かしとく意味が無い」
それでもガルグが単機で来たのは、リリエラにも言ったがワケがある。
「そんなことよりコールとか言ったな。お前、そいつをどこで手に入れた?」
ガルグはコールに向かって聞いた。
「そいつ? レグス王の死体かな?」
コールがガルグにとぼけて言った。だがガルグはもう確信している。
「機兵に魔剣を内蔵しただろ。俺の目を誤魔化せると思うのか?」
ガルグは話の核心を突いた。
瞬間、コールの声色が変わる。
「君。何故それがわかったのかな?」
「魔剣に聞け。それには意思がある」
ガルグは魔剣を知っていた。
魔剣は非常に危険な武器だ。いや武器と呼べるかもわからない。
「ま、なんにせよそいつは破壊する。もう二度と悪さ出来ないようにな」
故に、ガルグはコールへと言った。そしてエルギアが剣を構える。
するとコールも牛の鉄機兵に、両手でハンマーを持ち上げさせる。
「ふ。バーデルグを倒せるとでも?」
その名はバーデルグと言うらしい。ガルグにとってはどうでも良いが。
「そうだ。悪いが、悪く思うなよ?」
そしてエルギアが大地を蹴った。
だがバーデルグが振るハンマーに、エルギアは寸前で後退する。それは後ろから炎を吹き出し、信じられない速度で振るわれる。
命中しなければ問題ないが。
「ふはははははは! 美しいだろう?」
バーデルグはそのまま回転した。それは加速して竜巻となり、ガルグのエルギアへと迫り来る。
「舐めるなよ」
しかしガルグは言って、エルギアの剣を地面に刺した。
「蛇竜根!」
そして魔法を放つ。すると根が地面の下を進んで、バーデルグの足へと絡みつく。地上では吹き荒れる竜巻も、地中まで届くことは無い。
「く……!」
バーデルグは転がった。物凄い勢いの回転だ。当然転がる速度も速い。
しかしバーデルグも大したものだ。
「とう!」
コールの的確な操縦で、その途中に態勢を立て直す。その上、派手に転がった割りには大した破損も見られない。
「ふむ。想定外の強さだね」
そしてコールがガルグに言った。
「だが残念だよ。もう時間切れだ」
するとバーデルグの背中に向かい、炎の魔力が集まって行く。
そして次の瞬間──それは弾け、爆発的な推進力を生む。
「ち!」
飛び退いたエルギアの横を、通りバーデルグは、飛んでいった。
地を這うように東の方角へ。恐ろしく速く。真っ直ぐに。
「ティア、他に敵は?」
「感知できません」
ガルグが聞くとティアはそう答えた。
コールは最初から逃げるつもりで、街に一人残っていたのだろう。その手段があの炎の魔法だ。
結果コールが逃げ去った後には、リリエラの涙だけが残された。
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