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装虹のエルギア  作者: 谷橋ウナギ
第二章『剣』

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二章 第一話 シーン1〜2



 草の生い茂る清流のほとり。長い木の竿をヒュンと振り、川の真ん中に釣り針を落とす。

 そして暫くすると浮きが沈み、ガルグは魚を手に入れた。

 ツリーランドの東にある川は、夏は釣りの穴場になっている。


「ふむ。たまには釣りも良いもんだ」


 ガルグは言うとナイフを取り出して、早速その魚を捌きだした。

 連れてきたルルにやるためだ。ルルは猫でガルグの友である。ガルグは魚を捕ったとき、まずルルにやると決めていた。

 切り身を紙に乗せて置いてやると、早速ルルはそれにかぶりつく。


「気持ちはわかるが、あまりがっつくな。今日中にあと五匹は釣るからな」


 ガルグはまた川へと竿を振った。

 だが──まさにその瞬間だった。ルルが食べるのを止め、振り返った。


「おいルル。まさか、とは思うんだが……」


 まだガルグには感じ取れないが、ルルはガルグより耳が良い。

 実際直ぐに蹄の音がして、それが一直線に向かってくる。


「魚は俺に恨みでもあるのか?」


 ガルグはそれに備えて身構えた。

 すると馬が草むらから現れ、ガルグに向かって走り寄る。そしてガルグの横を通り過ぎ、馬は川に驚いて停止した。

 問題は上に居た人間だ。足を上げた馬から振り落とされ、砂利になった地面に投げ出される。

 幸い暗殺者ではなかったが、無視するワケにも行かないだろう。


「あー。おーい、生きてるか?」


 ガルグは彼女に近づいて聞いた。

 その人物は十代の少女で、おそらく種族は人間だ。服は草で切れたのかボロボロで、意識も無く地面に横たわる。

 今もし彼女を見捨てたら、明日の寝覚めは最悪だろう。


「あー。晩飯はまた果物か」


 ガルグは言うと少女を担ぎ上げ、乗ってきたバイクの後ろに乗せた。



 朝食はとても大切だ。一日の始まりに活力を。そして脳味噌に栄養を。

 そんなわけでガルグは目玉焼きを、魔法のフライパンで焼いていた。火の魔力を込めれば温まる。非常に便利なお料理グッズだ。

 するとたちまち芳ばしい香りがガルグの家の中に充満する。

 それがどうやら謎の客人の──気付け薬代わりに、なったらしい。


「ん……」


 ベッドの上で寝ていた少女。彼女が寝ぼけ眼で目を覚ます。

 ガルグも直ぐそのことに気が付いて、朝食を彼女の元に運んだ。


「よう。お姫様。お目覚めか」


 ガルグの手には木の皿が一枚。目玉焼きオンザ・パンである。

 しかし少女は未だに状況が、今ひとつ呑み込めていないらしい。数秒間ガルグや家の中を、ゆっくりぐるりと見渡した。


「そうです! 私はツリーランドに……!」


 そして何かを思い出したのか、今度は急にベッドから落ちた。

 おそらく落ちたかったワケではなく、立つ力がまだ無かったのだろう。


「急に動くなよ。ホントに死ぬぞ?」


 ガルグは言って少女を抱きかかえ、ゆっくりとベッドの上へと戻す。

 すると少女はガルグを仰ぎ見て、少々怯えた表情で聞いた。


「あの……あなたは?」

「ハーフエルフだ。ガルグっつー名前もあるけどな?」


 ガルグはそれに皮肉で返事した。


「それと恩を売るわけでもないが、お前の命の恩人でもある」


 ガルグは少女を家へと運び、嫌々ながらも看病したのだ。

 幸いエルフの森は薬草や、体に良い果物で満ちている。知識があれば人間の少女を回復させるくらいワケはない。


「わかったら、取り敢えず飯でも食え。それから話を聞かせて貰う」


 そんなワケでガルグは少女に向け、朝食のプレートを差し出した。


「えと、ありがとうございます。私は……人間のリリエです」


 すると、少女はおずおずと、そのプレートを両手で受け取った。


 ===============


 それから朝食を済ませた後で、ガルグは彼女の事情を聞いた。もっとも状況を勘案すれば、全てが真実とは限らないが。

 曰く彼女はリリエと言うらしい。


「なるほど。つまりツリーランド王、ヘイザーに会って話がしたいと」


 ガルグはその話を聞いて言った。


「はい。ここから、ツリーランドへは……」

「バイクを飛ばせば夜には着くな。まあその体じゃ絶対無理だが」


 ガルグの見立ては正確だ。そもそも魔法を使うには、精神状態が重要となる。彼女の疲弊具合を見る限り、それが出来るとは思えない。

 リリエもそれは分かっているようで、しばし沈黙が支配した。

 さすがに気まずい雰囲気だ。ガルグもそんなことは望まない。


「あー仕方ねえ。乗りかかった船だ。俺がバイクに乗せて行ってやる。エルフにゃバイクは使えないからな」


 溜息を一つガルグは言った。

 だがなんとリリエは不満のようだ。


「あの、失礼を承知で聞きます。本当にただの善意なのですか?」


 どうやら彼女はガルグのことを、全く信用していないらしい。しかしガルグは正直者──とは言えないが、今回は他意は無い。


「そうだ。つーかホント失礼だな」

「すみません。ただその、ハーフエルフは……」


 リリエは謝りながらも言った。


「狡猾で、嘘つきな種族だと」


 全くもって酷い偏見だ。が、同時にガルグも理解出来る。


「いかにも人間らしい見解だ。まあ常識だが。面白い」


 ガルグは言って一つ伸びをした。

 理解は出来るが面白くは無い。それに彼女には選択肢も無い。


「ま、ここに居たいなら好きにしろ。三食飯くらいは出してやる」

「いえ。申し訳ありませんでした」


 ガルグが袖にすると案の定、慌ててリリエは手の平を返す。


「改めて、お願い致します。私をツリーランド王の下へ、運んでください。お願いします」


 彼女は悲痛な顔をして言った。

 ガルグもその表情を見て、さすがに言い過ぎたと反省した。


「オーケーだ。ならさっさと行くぞ」


 だがそこはガルグの性格である。言うが早いかリリエを抱きかかえ、バイクに向かって運び出す。

 彼女は赤面しているが、これ以上文句も言えないだろう。結局バイクに到着するまで、彼女は一言も発しなかった。


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