第十一話 シーン3〜4
3
ガルグとアズマが話していた頃、フレイドはドアに駆け込んだ。それは長い建物の入り口で、中には鉄機兵が寝転がる。
そこでは複数の技師が働き、その鉄機兵を作り上げていた。つまりはまだ未完成の機兵だ。
「予に隠れてこんなものを作るとは」
続いて入った国王が、その光景を眺めて呟いた。だが今は責めている暇など無い。
実際、フレイドは技師を無視して、梯子を登り胸の上に立った。
「フレイド様!? バラノアはまだ……」
「ええい五月蠅い! さあ王! こちらへ!」
そのフレイドに導かれるままに、王もその機兵の上へと登る。
すると操縦席は幸いにも、既に殆どが完成していた。
飛び降り椅子に座ったフレイドを、王も追ってその椅子にしがみつく。
「いきますぞ」
そして建物を壊し、鉄機兵バラノアは立ち上がった。装甲はまだまだ足りていないが、四肢は既に接合されている。
つまり歩けると言うことだ。
「ふふふ。動くではないかバラノア!」
フレイドが王の前で喜んだ。
そして逃げ惑う技師達を無視し、バラノアは逃げようと歩き出す。
しかしその前途には問題が──
「ええい! 敵と味方もわからんか!」
フレイドが言って憤怒した。理由は味方からの攻撃だ。
街の逆側に居た兵士達が、火炎弾をバラノアへと放つ。まだ未完成の機兵にとっては、歩兵からの魔法も脅威となる。
しかし王にしてみれば当然だ。
「お前が勝手をしたからだ! エンブレムも掘られていないのだぞ!」
王はフレイドを叩いて言った。
兵士にすれば敵がいると言われ、探していたところにバラノアだ。周知されてもいない兵器など、敵と疑われても仕方ない。
だがフレイドは『そんなことは知るか』とばかりになんと、味方を撃った。炎の魔法で吹き飛ばしたのだ。
「おおい! 味方になんと言うことを!」
王は当然それをいさめるが、最早フレイドが聞くはずも無い。
「我が王が生きていれば良いのです! それよりも早く脱出を!」
フレイドはバラノアを走らせる──が、逃亡は成功しなかった。
「なにい!?」
緑色の大きなツタが、バラノアに巻き付いたからである。
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その魔法はエルリアのものだった。
エルリアのフレーリアと、ミアのアリアールが遂に、追いついたのである。
「捕まえました! もう逃がしません!」
ツタはフレーリアの右手から伸び、左腕でそれを引っ張っている。ただでさえ未完成のバラノアに振り解いて逃げることは出来ない。
フレイドもそれは直ぐに勘づいて、エルリア達に情けなくも言った。
「わかった! 王は今直ぐに渡す! だから私のことは助けてくれ!」
最低最悪の言い分である。王が怒らないはずもない。
「フレイド貴様! 恥を知れ!」
「黙れこのお飾りが! お前など……!」
そして遂に王をお前呼ばわり。見るに堪えない醜い光景だ。
だからではないが──
「風花閃!」
ミアのアリアールが大地を蹴った。
その魔法は疾風にも等しく、瞬時にバラノアへと接近する。そしてその胸を槍で貫いた。操縦席を。確実に。誰一人生きて残らぬように。
哀れ国王とフレイドは、血を吹き出してやがて息絶えた。
そこで驚いたのはエルリアだ。
「ミア!? 貴方が私の指示も無く、いきなり攻撃するなんて。しかも投降しようとする方を……」
エルリアはミアに対して言ったが、その途中であることに気が付いた。
「ああ! まさかあのときの!?」
エルリアは思い出したのだ。違和感のあった一つの会話を。ガルグがミアに『妹を頼む』と言い、ミアが『了解』と返事した。
二人は皮肉屋で仲が良くない。少なくともそう振る舞っている。しかしこの会話には皮肉も無く、ミアは『任務は果たす』などと言った。
つまりこれは予め決められた、決行のサインだったのだ。
「ずるいミア! 私もお兄様と、秘密のサインとかしたかったのに!」
「はあ。そこですか。まったく姫は」
それにミアが半ば呆れて返す。
「あのハーフからの伝言です。『嘘つきへの攻撃は躊躇うな』。だ、そうですよ。良かったですね」
「ふふ。そうですね。でも私なら、攻撃を躊躇ったりしませんよ?」
エルリアは聞いて、笑って言った。
二人はとぼけた様子だが、王は死に戦争は終結した。
4
王城の前のガルグとアズマ。向かい合うエルギアとドラーゼン。
その元にも国王達の死は、情報としてもたらされていた。
「終わったな。まあ当然か」
ガルグは興味がなさそうに言った。
ここに居るアズマを見つけたときに、この結末には──気が付いていた。
「貴様の描いた絵図の通りだろう?」
「お前にだけは言われたくねーな」
アズマに言われてガルグは応えた。
二人は互いの心を読み合い、結果的に今こうなった。
だがまだ戦いは終わっていない。終わったのはレイランドとエルフ、その間で起こった戦争だ。しかし、二人共まだここに居る。
「それじゃ。そろそろ始めるか」
ガルグはアズマに向かって言った。
「俺と闘らなきゃ終われねーんだろ?」
「そうだな。伝説との戦いだ。我が人生を賭けて受けて立とう」
「ち。大げさな。ただの喧嘩だよ。お前もせいぜい楽しみやがれ」
殺し合う目的は何なのか。それは二人にもわからない。今ここに至ったその原因も。
五百年前の暗殺か。種族の軋轢、そして迫害か。
それでも二人は決着を、目に見えない何かを求めている。
「ティア。お前を巻き込んで悪いな。だが最後まで、付き合っては貰う」
「ご主人様……。私は喜んで」
ガルグはティアから返事を得ると、エルギアの剣で一つ風を切る。
「ふん。体が震えておるわ」
アズマもまたドラーゼンの剣を、両手で大きく振って構える。
そして──争いは始まった。
「うらあ!」
「ぬん!」
二人は魔法を、使わず剣をぶつけ合う。エルギアとドラーゼンが打ち合って、巨大な火花が弾けて落ちる。
その圧倒的迫力を前に、割っては入れる者は誰もいない。
「は。やるじゃないか若造のくせに」
「貴様こそ老体で良く動く!」
切り込み、弾かれ、下がり、また戻る。
そして剣と剣をぶつけ合い、頭と頭で睨み合う。
「どうした! 伝説はこの程度か! それとも迷いが弱さを生んだか!?」
その途中にアズマが言い放った。
しかしガルグに弱さなどは無い。
「迷いだ? んなもん、いつでもあるわ!」
ガルグは心底笑顔で言った。迷いが弱さに繋がるなどとは、若き者の拙い発想だ。
そしてエルギアは魔力を増やし、輝きながらドラーゼンを押す。
「ぐ! この圧力は……この魔力か! これが我が祖先の求めた物か!」
アズマもそれに喜び高め合う。
しかし一つだけ問題があった。
「ご主人様。これ以上の魔力は、エルギアの機体が……もちません」
ティアが申し訳なさそうに言った。
事実、エルギアの木製部分が形を保てずに蠢いている。このまま戦い続ければ、ティアの言うとおり自壊するだろう。
しかしガルグ決して止まらない。
「あああああああアアアアアアア!」
魔力を極限まで生成し、それを全力で解き放つ。
すると遂に崩壊が始まった。エルギアから木の蔓や根が伸びて、アズマのドラーゼンに絡みつく。
「なに!? これは……!」
アズマは驚くが、こんな物ではまだまだ終わらない。
「お前も! 少しは! 勉強しやがれええええ!」
ガルグが言うとエルギアは、完全に崩れ周囲を巻き込む。
根は美しい広場を食い破り、蔓は幹となって大空を突く。瞬く間にそれは大樹となって、やがて王城すらも破壊する。
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そして──ガルグは気が付くと、木のてっぺんで風に吹かれていた。
「ち。どうなった? つーかここ何処だ?」
「ここは、木の上です。ご主人様。金属部分だけ運ばれました」
「ティア。お前も生きてたか」
ガルグの質問にティアが答えた。
彼女は既に人間大であり、操縦席のガルグを引き上げる。するとそこは大樹の枝の上。ティアの答えた通りの光景だ。
「ふん。まさか、こんな決着とは」
そこにまた、アズマも現れた。彼のドラーゼンも壊されながら、操縦席は無事であったらしい。
彼はガルグの隣に来て座り、眼下に広がる都市を見た。
「小さいものだ。我が王国は」
そしてアズマは一つ呟いた。
おそらくは彼もこんな高さから、街を眺めたのは初めてだろう。
それはガルグも全くの同じだ。しかしガルグはアズマへと言った。
「だな。昔からなにも変わらない。小さくて賑やかな、良い場所だ」
戦争は既に終結し、やがていつもの日常が戻る。人間は都市で。エルフは森で。しかし今はこの大木を、人々が見上げているのが見えた。
第十一話終。
感想評価等お待ちしてます。
追記:文章修正しました。展開自体は変わっていません。




