第九話 シーン1〜2
1
夕陽で赤くなった野営地に、多くの人間が集まっていた。皆、鎧を纏った兵隊だ。会話したりカードを楽しんだり、思い思いの時を過ごしている。
その端でヘイザーは腕を組み、副官の男と会話していた。ヘイザーの方は指揮官らしく、金属の鎧をその身に纏う。
そのヘイザーが副官へと聞いた。
「兵士の集結具合はどうか?」
「は。八割と言ったところです」
すると副官は直ぐ返事をした。
しかし質問はまだ続く。
「野営地ごとの差は?」
「ありますが。最低でも七割は越えました」
「鉄機兵は?」
「全機、配備済みです。メンテナンスも終了しています」
副官は全てはきはき答えた。内容も特段問題は無い。
「では宴の準備を。士気を上げる。ただし、警戒は怠るな」
ヘイザーは副官に向けて言った。
「は! ヘイザー様! 了解しました!」
当然、副官はそれに応えて、敬礼をしてその場を後にする。
そしてヘイザーは一人になると、溜息を一つ大きく吐いた。こんな大きな戦の指揮官を、任されるのは生まれて初めてだ。緊張するのも無理は無い。
しかしヘイザーはそれよりも、一つ気になっていることがあった。
===============
それはアズマがヘイザーに対して、指揮を執るよう伝えに来たときだ。
用件をつらつらと言った後に、アズマは最後にこう言った。
「ヘイザー。お前はお前で考え、思うように成すべきことをしろ。それが兵達を預かる者の、最低限持つべき心得だ」
それだけ言うとアズマは背を向けて「ではな」とその場を立ち去った。
===============
しかしヘイザーはアズマの言葉に、違和感があるように感じていた。あの団長なら当然のことを、後付けしたりはしないはず──
「団長が私に託した物を、この戦いで必ず見つけ出す」
ヘイザーは思いを込めて告げると、夕焼け空を一人睨み付けた。
2
翌日。昼になるより少し前。
鉄機兵と兵士達は既に、その全てが配置についていた。歩兵は鉄機兵を中心に、少しだけ離れて左右に並ぶ。上から見ると点と四角形が、規則正しく並んでいるようだ。
その彼等は今ヘイザーの、鶴の一声を待っている。
ヘイザーもまた野営地ではあるが、譲り受けた鉄機兵の中だ。そこから全軍へと指示を出し、また副官からの連絡を聞く。
「頃合いだ。全軍、攻撃開始! エルフの森を焼き払え!」
そのヘイザーが遂に命令した。
すると鐘がガンガン打ち鳴らされ、同時に兵士達が声をあげる。そして炎の魔法が群れを成し、エルフの森へと降り注ぐ。
しかし──火の手は上がらなかった。エルフの森に生える木々の一部。そこから魔法障壁が現れ、炎の魔法を防ぎきったのだ。撃ち方止めの声が響くまで、その状況は変化しなかった。
「ヘイザー様! 効果ありません!」
「慌てるな。エルフも対策はする。木が燃えぬなら、斬れば良いだけだ」
もっともヘイザーは慌てていない。むしろ冷静に考えている。
「では部隊を突撃させますか?」
「ああ。ただし第二、第九部隊。その二つだけまず突撃させよ。残りは敵襲に備えて待機」
ヘイザーは新たに命を下した。部隊は第一から十まであり、それぞれ鉄機兵が二体ずつ。エルフの森を取り囲むように、一から順に配置されている。
つまり第二と第九の部隊は、端からそれぞれ二番目にあたる。
「は! 第二、第九部隊の者! 敵地に乗り込み木々をなぎ倒せ!」
その命令によって兵士達が、叫び声を上げて突っ込んで行く。
無論、配備された鉄機兵もだ。ズガン、ズガン、と足音響かせ、エルフの森へと一気に攻め入る。
だがしかしこれも想定内だ。エルフの側にも。そしてヘイザーも。
罠は当然のように発動し、歩兵達を次々吹き飛ばす。
だが予想外の出来事もあった。
「歩兵部隊! 俺達が先に行く!」
鉄機兵の操縦者が叫んだ。
罠は対人間用の魔法で、小さい威力の物が大半だ。ならば鉄機兵によって踏みつけ、あるいは魔法で薙ぎ払えば良い──と、考えたがそれは甘かった。
「く! 木から棘が! 避け切れん!」
操縦者の言葉の通り木々から、棘が次々と突き出した。それは巨大でその上に鋭く、鉄機兵に集中して伸びる。鉄機兵も避け、剣で防ぐが、全てを凌ぎきれるわけもない。
実際、それは鉄機兵の腕の付け根をグサリと貫いた。
「第九部隊、二番機小破! 両部隊、損耗率増加中!」
副官がヘイザーに向けて告げる。
「エルフ側の被害は?」
「木が数本! それと木の罠は発動すれば、二度は使えない模様です!」
今のところまだ互いに様子見。被害は大した事も無い。副官からの報告もそれを、非常に正確に裏付けている。
ここで押し込むか。それとも退くか。それが一番の問題だ。
「一度部隊を元の位置に下げ、兵達に息を整えさせよ」
ヘイザーは即座に指示を下した。
「よろしいので?」
「ああ勿論だ。それと負傷兵、破損した鉄機兵は後退だ。急がせよ」
「了解! 第二、第九部隊……一度初期の位置へと後退せよ!」
ヘイザーの指示を元に副官が、兵士達に向かって指示を出す。
その騒がしさを聞きながら、ヘイザーは静かに考えて居た。
おかしい。いくら持久戦とは言え、あまりに反撃や追撃がない。普通なら遠距離からの魔法や、伏兵からの奇襲があるはずだ。
「エルフ兵や木機兵の姿は?」
そこでヘイザーは副官に聞いた。
「いえ……。報告はありません。奇襲の可能性も高いかと」
すると副官は自分の意見も、含めヘイザーに報告を上げる。
その報告を聞いたヘイザーは、確信に近い物を得た。
この戦には何か裏がある。
「兵達は暫しその場で待機。休息と回復を図らせろ」
「は。ですが、少々危険では?」
「問題無い。警戒していればな」
ヘイザーは脳をフル回転させ、副官に指示を追加した。
感想設定変更しました。ログインしなくても書けるはずです。
感想レビュー評価お待ちしてます。




