第七話 シーン5〜6
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エルフの森の夜は良い景色だ。昼は地味な発光生物に──夜になると一斉に色が着く。そして魔法でもかけたかのような、幻想的な景色を作り出す。その明るさは街灯が無くても、深夜に散歩出来る程である。
その中をガルグ、エルリア、ミアの、三人は歩きやって来た。ホーリーエルフ『マミ』の家の前だ。
大きく装飾もかなり派手だが、ホーリーエルフの家ならあり得る。
三人はそのドアの前に立ち、エルリアがドアをドンドン叩いた。
しかし今は夜の遅い時間だ。直ぐにはマミも家から出てこない。
「マミお姉様! エルリアですよー!」
エルリアがなどと言いながら、ドアを叩き続けること一分。ようやく足音がバタバタとして、続いて目の前のドアが開いた。
「ふあ。どうしたのです、エルリア様。私になにか御用がありまして?」
出て来たのは髪を緩く結んだ、エルフの大人の女性であった。と、言ってもエルフは長生きだ。見た目通りの歳ではないだろう。
「実はお話がありまして、少し上がっても良いですか?」
「お話? こんなお時間に?」
「少しだけ急ぎの用でしたので。それと、出来れば中で話せます?」
エルリアはすらすら彼女に言った。先ほどと違う華麗な嘘で。
一方、マミの方はどう返すか──
「エルリア様は歓迎致します。ですが護衛の方を入れるのは……。特にそこの下賤なハーフエルフ。我が家の空気が穢れます」
かなり不遜な態度ではあるが、こちらも嘘ならそこそこ上手い。
しかもエルリアの感情を煽り本音を引き出す効果も見込める。もちろん彼女がスパイなら、だが。
「むう。お兄様もミアも決して、下賤な者などではありません! と言うか下賤な人なんて……!」
「まてエルリア。俺は外で待つ」
ガルグはふくれるエルリアを、途中で制止し素直に退いた。
「私も外で待機しています」
そしてミアも直ぐさま同意する。
こうなればエルリアが一人だけ、文句を言う必要性も無い。
「むむむ。わかりましたお姉様。では二人だけでお話します」
「そう来なくては。では参りましょう。目が覚めるお茶もありますわ」
こうしてエルリアとマミの二人が、マミの家の中に入っていった。
するとリビングに達したところで、遂にマミがその本性を晒す。
「それでエルリア。本当のところは、ここにはなにをなさりに来られたの?」
マミの手にナイフが握られていた。
一見すると包丁に見えるが、その刃には文様が浮かぶ。おそらく魔法の発動機──杖のような物体なのだろう。
「えーと、なんの話でしょうか?」
しかしエルリアはとぼけて言った。
「知らないのなら申し上げますわ。私はレイランドのスパイですの。これから貴方を人質にとって、エルフの森からサヨウナラします」
すると遂にマミが真実を吐く。
「あらら。やっぱりそうですか」
エルリアは悲しそうな目で、マミの瞳を見つめながら言った。
「気付いておられたのね。でもそれなら、武器くらいは持ってくるべきですわ」
「武器ならちゃんと持って来てますけど。でも必要は無いと思います」
そしてエルリアが告げるとにわかに、彼女の手首が輝きを放つ。
だがそれは本命の武器ではない。
「ブレスレット型発動機!? ですがまだ……!」
「ふふふ。お仕置きです」
エルリアが障壁を作り出すと──その瞬間、家の壁が崩れた。と、言うより突き破られたのだ。巨大な機兵の手によって。
その手は驚くマミをすくい上げ、掴み取って空中に引き上げた。
「いよう。スパイのエルフ。迂闊だな」
ガルグはその間抜けなスパイへと、家の屋根の上から笑い、告げた。
その横にミアも立っており、ガルグと違って憤る。
「まさか姫とエルフを裏切るとは! ホーリーエルフと言えど、許されん! この私が八つ裂きにしてくれる!」
ミアは直ぐマミを切り刻みそうだ。
が、それではガルグが少し困る。
「まあ待てよ。俺の話が先だ」
ガルグはミアを制止して言った。
「実はお前の件で間違って、疑っちまったエルフが居てな。それが今機兵に乗ってるんだが、疑いを晴らしたいらしいんだ。そこで聞くが他にスパイは居るか? 他の情報も持ってたら、情状酌量してやれるかもな」
そしてガルグはマミへと聞いた。
だがそこは腐ってもスパイである。そうそう本音は話さない。
「知らない! 私はなにも知らないわ!」
マミは偉そうにガルグへと言った。
だが彼女の命は操縦者──つまりニノが見たまま握っている。少しだけ力を強めてやれば、マミは為す術無く締め付けられる。
「ぎゃあああ! 潰れる! 潰れますわあああ!」
「あー怒れるエルフが暴走した。このままだと、ぐしゃっと行くかもな」
ガルグは楽しそうにマミに言った。するとマミも観念したらしい。
「もう居ません! 私の知る限り! 渡した情報も! 話します! だから潰さないで! お願いよおおお!」
こうなってはまな板の上の鯉。最初から言えば良かったのである。
「じゃ、後は尋問官に任すか。ニノ。封印してやってくれ」
「了解。裏切り者。さようなら」
「ちょ、ま……!」
こうしてマミは包まれて、同情の余地無く封印された。
「これで用事は済んだ。はい終了」
そしてガルグは手を叩いて言った。
「なら早く姫を家へと帰せ。お前とは違い繊細なのだ」
すると直ぐさまミアが噛みついた。
しかしガルグにはもう一つ、確かめなければならないことがある。
「もちろん。ただしミア、お前は別だ。エルリアを家に戻した後で、この紙に書いてある場所に来い」
そう言ってガルグはミアに向かって、小さい紙のメモを差し出した。
「逃げるなよ?」
ガルグの双眸は──鈍くも鋭く、輝いていた。
6
水の流れ落ちる涼しい音が、ガルグの心を少しだけ癒やす。
ここは昼にルエルと会った滝。夜になると尚更良い景色だ。小さな光に大きな光。それらが美しく輝いている。
「しかしまあ、お前があのルエルとは」
そんなイリュージョンの中でガルグは、現れた人影に向けて言った。
彼女は仮面の剣士──ミアだ。しかしルエルと、ガルグはそう呼んだ。
「私も変なのは理解している」
するとミアは意外にもあっさりと、ガルグの話を素直に認めた。
ミアとルエルは同一のエルフ。同じ存在と言う事だ。
実に衝撃的な事実だが、ガルグは気にせず続けて聞いた。
「で、どっちの方が本心なんだ? それとも二重人格ってやつか?」
「両方が私だよ。だがしかし……元の性格はルエルの方だ」
ミアはその問いに続けて答えた。
「私とエルリア様は双子だが、エルフの掟で私が姉だ。しかし才では姫が優れていた」
「なるほど。話が読めてきた」
「そうだろう? 故に私は隠され、ひっそりと育てられてきた。エルリア様を守る護衛として。だが元があんな性格だ」
「そこで仮面か?」
「ああそうだ。ただの暗示だが強くはなった。それに仮面にはオーラを変えて、ホーリーを隠す意味もある」
ミアは仮面を触りながら言った。
「なるほど。そんなことを企むのは……」
「ラナ様だ」
「ろくなことやらねえな……」
ガルグの予想通り仕掛け人は、長老エルフのラナらしい。かつてガルグの母を処刑した、呪われしエルフ族の長老だ。
「私はラナ様に感謝している。妹の側にいられるからな」
ミアは境遇を受け入れている。少なくともそれは本音に見えた。
しかし懸案も在るらしい。
「このことが皆に知られれば、エルリア様の力は低下する。故に聞こう。ハーフ、いやガルグよ。この件を公表する気はあるか?」
故にか──ミアは聞いてきた。かなり強い殺気を伴って。
しかしガルグにそんなつもりは無い。
「いや。お前を戦力にはするが、公表する気なんて全くない。そんな暇も俺には無いんでね」
ガルグは言いながらミアに背を向け、欠伸をしながら歩き出す。
「感謝する」
「やめろ。気持ち悪い。ルエルにならまだしも、お前だぞ?」
ガルグは去りながらそう返事した。
七話終了です。
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