表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
装虹のエルギア  作者: 谷橋ウナギ
第一章『回帰』
19/194

第七話 シーン3〜4



 それから少し経ったエルフの森。幻想的な風景の中を、ガルグは当て所も無く歩いていた。

 エルフ達は変わらずつれないが、ほんの少し敵意は和らいだ。今までガルグが行った、戦いの結果と言えるだろうか。子供や頭が柔らかい者は偶に近寄って来たりする。

 しかし現在の問題は、その彼等に潜んでいる物だ。


「さーて。どうしたものかなこれは」


 露骨に疑って当てを外した。故にガルグはぶらぶらとしていた。

 もしスパイがこの森に居るのなら、行動は慎重にするべきだ。探っていることがバレてしまえば、スパイは姿を消すだろう。

 ガルグはそんなことを思いながら、ゆっくりエルフの森を散歩する。

 すると──


「水の流れ落ちる音?」


 ガルグはその音に直ぐ気付いた。

 水の流れ落ちる美しい音。その音は心を癒やしてくれる。ガルグはそれに導かれるままに、茂みの奥へと分け入った。

 しかしそれは軽率な行動だ。直ぐにガルグはそれを思い知る。


「おっと」


 ガルグは瞬間的に、流れ落ちる水から目を逸らした。

 確かに滝は在った。美しい──煌めく流れと苔むした岩が。しかし問題はその下で、エルフが水浴びをしていたことだ。

 幸い彼女は背を向けていたが、悪いことにガルグは狩人だ。観察眼も記憶力も良い。


「きゃ!」

「すまない。人が居るとはな」


 とにかくガルグは謝った。もちろん彼女に背を向けたままで。


「あ……あの。私こそごめんなさい。今直ぐに服を着ますので」


 すると彼女からは許しが得られ、ついで衣擦れの音が聞こえ出す。

 そして暫く時間が経った後──


「あの……もう見ても大丈夫ですよ」


 彼女は鈴のような声で言った。

 見ろと言われてそれを無視するのも、それはそれでかなりの失礼だ。そんなわけでガルグは振り返り、挨拶だけでもする事にした。


「どうも」

「えっと……はい。こんにちは」


 すると彼女は挨拶を返した。

 可愛らしくも美しいエルフ。その態度は非常に控え目で、ガルグに対してもじもじしている。


「私。あの、えっと、ルエルです」

「ガルグだ。知ってるとは思うがな」


 だが自己紹介されたので、ガルグも釣られて自己紹介した。

 非常に気まずい雰囲気だ。何か話題を作るべきだろう──そう思ったとき、ガルグは気付いた。


「ふむ。お前ホーリーエルフだな?」

「えっと。はい。あの、そうです……」


 どうやら当たっていたらしい。ルエルはうつむき加減で答えた。

 ガルグが何故気が付いたかと言えば、それはオーラを観察したからだ。


「ホーリーは他のエルフとは違う、魔力のオーラがあるからな」

「わかるんですか?」

「注意して見ればな。俺もオーラのせいで苦労した。変装しても直ぐにバレちまう。偽装できるように修行をしたが、上手く行くまではでは大変だった」


 ガルグは何故かだらだらと語った。

 オーラとは常に生き物が纏う、魔力で作られた薄いバリアだ。その属性比率は種族ごとに、違うので種族を判別できる。

 因みにたとえ同じ種族でも、個体ごとオーラは微妙に違う。


「ご苦労を──されてきたのですね」

「ああ。今は今で苦労しているが」


 そこまで言ってガルグは気が付いた。

 立場の高いホーリーエルフなら、作戦の内容も調べられる。その上エルフの森が焼かれても、そこから離れて生きていけるのだ。

 まさにスパイには打って付けだろう。


「つーわけで俺はそろそろ行くわ」


 ガルグはルエルにヒントを貰って、その場を去るため踵を返した。

 しかしその途中ルエルから、思わぬ言葉がかけられる。


「あの……私、応援しています!」

「ありがとさん。心に留めておく」


 ガルグは少し照れくささを感じ、振り返らずにその場を立ち去った。

 しかしその途中、ガルグの記憶が意識に何か訴えかける。

 あのルエルのオーラ、確かどこかで──ガルグは彼女を知っている。少しだけそんな感覚があった。

 しかしそれは小さな疑念であり、直ぐにガルグは本題に戻った。



 良い子も悪い子も寝静まる夜。ガルグは一軒の家を訪ねた。

 この森の中で最も大きく、もっとも豪華な作りの家だ。つまり、この家に住んでいる者はエルフの最高権力者である。それはガルグの苦手な奴だった。

 ガルグがリビングへと通されると──彼女がガルグを出迎える。


「まあお兄様! ようこそ我が家へ! 今、お紅茶を入れてまいりますね」


 寝間着を纏ったエルリアだ。つまりはエルフの姫である。


「茶は良い。エルリア、相変わらずだな」

「はい。エルリアは元気です」


 寝ぼけていても良さそうなものだが、エルリアは目を輝かせて言った。

 一方、その傍らの人物もガルグにとっては苦手な相手だ。


「貴様も相変わらず無礼だな?」


 仮面のエルフはガルグに言った。エルリアの護衛、ミアである。


「あー。ミアも元気そーでなによりだ」

「棒読みするな。斬り付けたくなる」

「お前じゃ無理だな。諦めろ」


 早速二人は喧嘩になった。

 そしてエルリアが仲裁に入る。


「ミア。お兄様。仲良く、ですよ」


 ここまでが鉄板の流れである。

 前座が終わったところで本題。


「エルリア。ほんとに茶はいらんから、俺の疑問に答えてくれないか?」


 ガルグはエルリアへと要求した。


「わかりました。お兄様。なんなりと」


 幸いエルリアは協力的だ。これなら話は簡単だろう。


「特殊部隊の夜襲を知っていた、ホーリーエルフを全員教えろ」


 よって、ガルグは端的に聞いた。

 だがその瞬間エルリアの、表情が驚きに変化する。


「えーと。はい。良いですよ」

「明らかに嘘を吐いてるな」


 エルリアは目を泳がせていたので、当然ガルグに直ぐバレた。

 しかしガルグに協力できるのは、この件においてはエルリアだけだ。


「まあ良い。とりあえず言ってみろ」


 そこでガルグは一応聞いてみた。


「うう。今このエルフの森に居る、ホーリーエルフは少ないですね」

「具体的には?」

「私とお兄様。それともう一人。マミ様です」


 すると案の定、明らかに嘘だ。


「ルエルは?」

「ええ? 誰ですかそれは?」


 エルリアは何とか取り繕うが、ガルグと目が全然合っていない。

 嘘が下手すぎるにも程がある。とは言え話は進めるべきだ。


「じゃあ聞くが、マミはどう言う奴だ?」

「お姉様ですか? そうですね。芸術家肌のエルフです。普段は自宅に籠もってばかりで、でも絵は凄く上手なんですよ」


 エルリアは今度は普通に言った。本当に嘘が下手である。


「作戦については、知っていたか?」

「え? そう言えばあの夜見ましたね……。あのお姉様が夜歩きなんて、珍しいので覚えていたんです」

「ビンゴだな。そのマミとやらが黒だ」


 だがガルグはしっかり答を得た。スパイはマミに間違い無いだろう。


「じゃ、行くぞ。エルリア、直ぐに着替えろ」

「え? ここでですか? それはその……。もう少しステップを踏んでから……」


 エルリアは頬を赤らめた。わざとやっているのかも知れないが。


「んなわけないだろ。自室でだ。マミの家に出向いて確かめる」

「では正装で。直ぐに戻りますね」


 ガルグに言われてエルリアが去った。

 するとガルグとミアの二人きりだ。幸いミアは姫の護衛らしく、いつもの仮面と服である。

 ガルグは──そのミアをじっと見た。


「なんだ? 私に何か文句でも?」

「いいや。ただ警戒してるだけだ」

「それはお互い様だ。ハーフエルフ」


 相変わらずミアはガルグに対し、強い敵愾心があるらしい。

 しかし仕方なく二人はそのまま、しばしエルリアの着替えを待った。


評価感想お待ちしています。

ポイントがつくとやる気上がります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ