第六話 シーン4
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夜。虫達が歌う頃。起伏のある山岳地形の中、三機の機兵が進軍していた。一機はガルグのエルギアで、もう二機はサシャとニノのククロアだ。
つまり、エルフ特殊部隊の任務。それも演習でなく実戦だ。
「ここまでだな全機停止しろ」
「サシャ機、了解」
「ニノ機了解」
その中でガルグは二人を止めた。
「ここから先は奴らの罠がある。解除しながら慎重に進むぞ」
これは夜襲だ。それならば静かに、隠れて攻め入るべきだろう。
「いや。まて……人が来る」
しかし直ぐにトラブルが訪れた。
道のむこうから二人ほど、明かりを持った人間が迫る。その速度からまだ気づいていない。おそらく彼等は哨戒だろう。
「隊長。どうします?」
「良い質問だ。お前らはそこで待っていろ」
ガルグはニノに聞かれそう答えた。
そしてエルギアのハッチを開けて、操縦席から飛び降りる。更に素早くガルグは物陰へ。
「おい! それじゃ賭けにならねえだろう」
「はは。じゃ、別のネタを持ってこ……」
「っ!」
刹那、ガルグは人間の横を、影となって瞬時に通り過ぎた。
すると二人の人間の首から、鮮血が線の形で吹き出す。彼等は言葉をあげることもせず、魔法など当然使用出来ない。
無言のまま大地に転がって、やがて物言わぬ屍となった。
「すごい……」
「本当に、見事です」
サシャとニノもこれには驚いて、素直に感嘆の、声を上げた。
しかしガルグは二人とは違い、既に次のことを考えている。
「お帰りなさいませ。ご主人様」
「二人共。作戦変更だ。戦闘時の魔力レベルに上げて、俺のエルギアの後ろに続け」
ガルグは直ぐにエルギアに戻ると、ティアは無視して部下二人に言った。
「えーと……」
「奇襲をかけるのですか?」
ニノの方がより頭が回る。
「そうだ。奴らが戻らなかったら人間側も俺達に気付く。だったらゆっくり近づくよりも、一気に襲って混乱を招く」
作戦変更。ガルグは言うと、直ぐさま魔力を引き上げた。のんびりしている暇は無い。
「魔力を戦闘レベルに上昇」
「「了解」」
それを受けて残り二人も、魔力のギアを一段引き上げる。
そして──夜襲が始まった。
「行くぞ。ティアはマッピングを頼む」
「うけたまわりました。ご主人様」
「サシャ機も続きます!」
「ニノ機、同じく」
三機は轟音を響かせながら、人間の砦へと進軍する。
「対人罠魔法、発動します」
「構わん。デカいのだけ消し飛ばす」
ティアが報告してきたが、ガルグはそれにも動じない。
エルギアは罠を踏みつぶし、魔法を当てて──爆発させていく。
すると当然人間も気が付く。
「敵襲ー! 敵襲だー!」
「木機兵がくるぞ! 隊列をくめ!」
まず見張りが警鐘を打ち鳴らし、兵士達は壁の上に整列。そして炎や雷の魔法を一斉にガルグ達に向け、放つ。
「混合障壁。このまま突っ込む。二人は兵士共を薙ぎ払え」
ガルグは直ぐさまそれを感知して、障壁を作り出し指示を出した。
「「了解!」」
「土塊連弾! 押しつぶせ!」
「風刃閃。隊長。これで後は……」
サシャ機は土塊を次々飛ばし、ニノ機は風の刃を解き放つ。
それぞれ兵士を吹き飛ばし、彼等は叫びを上げて死んで行く。
「ふん!」
そして、ガルグの一声で、エルギアが砦へと突っ込んだ。
砦は籠城するための物だ。一度侵入すれば脆くなる。鉄機兵が居なければ尚更に、抵抗する力は低くなる。
「二人共後はわかっているな?」
「はい! 同胞の仇を討ちます!」
「いや違う。逃げる者は放置しろ。抗う者を優先的に殺れ」
ガルグは一抹の不安を覚え、昂ぶるサシャの精神をいさめた。
「サシャは私がフォローしておきます。隊長は目的を」
「ニノ。任せる」
幸いニノが申し出てくれた。残った敵は問題無いだろう。
「よし。ティア。マッピングはどうなった?」
「完了しました。今表示します」
「なら俺は目標を破壊する。徹底的に、完膚なきまでに」
ガルグが言うとエルギアの剣──その切っ先に火球が現れる。
「保管庫1。保管庫2。保管庫3。魔動バイク小屋」
そしてガルグは攻撃を始めた。砦の重要施設に向かってその火炎球を解き放ち、焼き払う。
最早人間の兵士には──抗う力は残されていない。
戦意を維持していた者達も、サシャとニノに無力化されて行く。
「む」
しかしその途中──ガルグだけが、敵の反撃に気が付いた。
「ふん。歩兵を囮にするとはな」
ガルグは二人をフォローする位置へ。次の瞬間金属球が来る。それは遥か遠くから放たれて、サシャ機に向かって飛んできた。
もしガルグが気付いていなければ、サシャ機は深手を負っていただろう。
「捕獲魔法・水」
だが気が付いた。ガルグのエルギアがそれを受け止め──
「そら。持って帰れ。鉄パンチ」
そのまま拳で返してやった。今度は全く逆の方向へ。
狙撃してきた鉄機兵に向かい、激突して機体を破壊する。
「あ、ありがとうございます。隊長──その、すみません」
「謝るなサシャ。それよりも終わりだ。目標は全て破壊した」
ガルグは二人に対して言った。
「帰還する。全機引き返せ。しんがりは俺だ。早くしろ」
「「了解」」
するとニノ機サシャ機共に、踵を返して歩き出す。
しかしガルグはその後数秒だけ、遥か遠くを見ながら考えた。
こんな辺境に狙撃鉄機兵? こちらの動きを知られていたか──それはあくまでも疑念に過ぎない。単に以前から配備していたか、または作戦が被ったか。可能性はいくらでもあるのだが、どうにも、不信感がぬぐえない。
「ご主人様?」
「いや。帰還する」
ガルグはティアに心配されて直ぐ、エルギアの足を動かした。考えを誰にも悟られぬよう。
それと──
「ティア。今回は良くやった」
ガルグは横に浮かぶティアを褒めた。
「私はご主人様の下僕です」
「だとしても素直に受け取っておけ」
「はい。了解しました。ご主人様」
ティアは少し困惑したらしい。
だがガルグはその様子が何故か、おかしくて少し笑ってしまった。
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