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装虹のエルギア  作者: 谷橋ウナギ
第一章『回帰』
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第六話 シーン4



 夜。虫達が歌う頃。起伏のある山岳地形の中、三機の機兵が進軍していた。一機はガルグのエルギアで、もう二機はサシャとニノのククロアだ。

 つまり、エルフ特殊部隊の任務。それも演習でなく実戦だ。


「ここまでだな全機停止しろ」

「サシャ機、了解」

「ニノ機了解」


 その中でガルグは二人を止めた。


「ここから先は奴らの罠がある。解除しながら慎重に進むぞ」


 これは夜襲だ。それならば静かに、隠れて攻め入るべきだろう。


「いや。まて……人が来る」


 しかし直ぐにトラブルが訪れた。

 道のむこうから二人ほど、明かりを持った人間が迫る。その速度からまだ気づいていない。おそらく彼等は哨戒だろう。


「隊長。どうします?」

「良い質問だ。お前らはそこで待っていろ」


 ガルグはニノに聞かれそう答えた。

 そしてエルギアのハッチを開けて、操縦席から飛び降りる。更に素早くガルグは物陰へ。


「おい! それじゃ賭けにならねえだろう」

「はは。じゃ、別のネタを持ってこ……」

「っ!」


 刹那、ガルグは人間の横を、影となって瞬時に通り過ぎた。

 すると二人の人間の首から、鮮血が線の形で吹き出す。彼等は言葉をあげることもせず、魔法など当然使用出来ない。

 無言のまま大地に転がって、やがて物言わぬ屍となった。


「すごい……」

「本当に、見事です」


 サシャとニノもこれには驚いて、素直に感嘆の、声を上げた。

 しかしガルグは二人とは違い、既に次のことを考えている。


「お帰りなさいませ。ご主人様」

「二人共。作戦変更だ。戦闘時の魔力レベルに上げて、俺のエルギアの後ろに続け」


 ガルグは直ぐにエルギアに戻ると、ティアは無視して部下二人に言った。


「えーと……」

「奇襲をかけるのですか?」


 ニノの方がより頭が回る。


「そうだ。奴らが戻らなかったら人間側も俺達に気付く。だったらゆっくり近づくよりも、一気に襲って混乱を招く」


 作戦変更。ガルグは言うと、直ぐさま魔力を引き上げた。のんびりしている暇は無い。


「魔力を戦闘レベルに上昇」

「「了解」」


 それを受けて残り二人も、魔力のギアを一段引き上げる。

 そして──夜襲が始まった。


「行くぞ。ティアはマッピングを頼む」

「うけたまわりました。ご主人様」

「サシャ機も続きます!」

「ニノ機、同じく」


 三機は轟音を響かせながら、人間の砦へと進軍する。


「対人罠魔法、発動します」

「構わん。デカいのだけ消し飛ばす」


 ティアが報告してきたが、ガルグはそれにも動じない。

 エルギアは罠を踏みつぶし、魔法を当てて──爆発させていく。

 すると当然人間も気が付く。


「敵襲ー! 敵襲だー!」

「木機兵がくるぞ! 隊列をくめ!」


 まず見張りが警鐘を打ち鳴らし、兵士達は壁の上に整列。そして炎や雷の魔法を一斉にガルグ達に向け、放つ。


「混合障壁。このまま突っ込む。二人は兵士共を薙ぎ払え」


 ガルグは直ぐさまそれを感知して、障壁を作り出し指示を出した。


「「了解!」」

「土塊連弾! 押しつぶせ!」

「風刃閃。隊長。これで後は……」


 サシャ機は土塊を次々飛ばし、ニノ機は風の刃を解き放つ。

 それぞれ兵士を吹き飛ばし、彼等は叫びを上げて死んで行く。


「ふん!」


 そして、ガルグの一声で、エルギアが砦へと突っ込んだ。

 砦は籠城するための物だ。一度侵入すれば脆くなる。鉄機兵が居なければ尚更に、抵抗する力は低くなる。


「二人共後はわかっているな?」

「はい! 同胞の仇を討ちます!」

「いや違う。逃げる者は放置しろ。抗う者を優先的に殺れ」


 ガルグは一抹の不安を覚え、昂ぶるサシャの精神をいさめた。


「サシャは私がフォローしておきます。隊長は目的を」

「ニノ。任せる」


 幸いニノが申し出てくれた。残った敵は問題無いだろう。


「よし。ティア。マッピングはどうなった?」

「完了しました。今表示します」

「なら俺は目標を破壊する。徹底的に、完膚なきまでに」


 ガルグが言うとエルギアの剣──その切っ先に火球が現れる。


「保管庫1。保管庫2。保管庫3。魔動バイク小屋」


 そしてガルグは攻撃を始めた。砦の重要施設に向かってその火炎球を解き放ち、焼き払う。

 最早人間の兵士には──抗う力は残されていない。

 戦意を維持していた者達も、サシャとニノに無力化されて行く。


「む」


 しかしその途中──ガルグだけが、敵の反撃に気が付いた。


「ふん。歩兵を囮にするとはな」


 ガルグは二人をフォローする位置へ。次の瞬間金属球が来る。それは遥か遠くから放たれて、サシャ機に向かって飛んできた。

 もしガルグが気付いていなければ、サシャ機は深手を負っていただろう。


「捕獲魔法・水」


 だが気が付いた。ガルグのエルギアがそれを受け止め──


「そら。持って帰れ。鉄パンチ」


 そのまま拳で返してやった。今度は全く逆の方向へ。

 狙撃してきた鉄機兵に向かい、激突して機体を破壊する。


「あ、ありがとうございます。隊長──その、すみません」

「謝るなサシャ。それよりも終わりだ。目標は全て破壊した」


 ガルグは二人に対して言った。


「帰還する。全機引き返せ。しんがりは俺だ。早くしろ」

「「了解」」


 するとニノ機サシャ機共に、踵を返して歩き出す。

 しかしガルグはその後数秒だけ、遥か遠くを見ながら考えた。

 こんな辺境に狙撃鉄機兵? こちらの動きを知られていたか──それはあくまでも疑念に過ぎない。単に以前から配備していたか、または作戦が被ったか。可能性はいくらでもあるのだが、どうにも、不信感がぬぐえない。


「ご主人様?」

「いや。帰還する」


 ガルグはティアに心配されて直ぐ、エルギアの足を動かした。考えを誰にも悟られぬよう。

 それと──


「ティア。今回は良くやった」


 ガルグは横に浮かぶティアを褒めた。


「私はご主人様の下僕です」

「だとしても素直に受け取っておけ」

「はい。了解しました。ご主人様」


 ティアは少し困惑したらしい。

 だがガルグはその様子が何故か、おかしくて少し笑ってしまった。


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