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装虹のエルギア  作者: 谷橋ウナギ
第一章『回帰』
16/194

第六話 シーン1〜3


1


 地下に作られたレンガ積みの部屋。揺れる魔法の炎で照らされた、堅牢で殺風景な空間。そこには机一つと椅子四つ。簡素な家具が並べられていた。

 そしてその椅子の一つには、窮屈そうにアズマが腰掛ける。普段と違い服を着ているが、そもそも体が大きすぎるのだ。

 と、その部屋にある唯一のドア。そこから一人、男が現れた。

 アズマに助けられたあの男。ローブを纏ったヘイザーだ。


「ふ。来たか」

「申し訳ありません。少々聴取が長引きまして……」

「だろうな。相手はあのフレイドだ。色々引き出したかったのだろう」


 アズマはヘイザーに向かって言った。

 その顔は揺れる灯りに照らされ、笑みも少しだけ歪んで見える。


「それで、奴からは何を聞かれた? まあ想像など容易につくが」

「アズマ様が何か取引したか。またはエルフの間者を見たかなど」

「ふむ。まったくの予想通りだな」

「それと戦った相手について」

「あのハーフエルフか。何と答えた?」

「見たとおりのことを。問題でも?」

「いや。それで良い。さすがヘイザーだ」


 アズマはヘイザーから聞き取って、彼の行いをねぎらった。

 だが、ヘイザーは不満があるらしい。


「いえ。カッシスを失いました。私は批難されても仕方ない」


 ヘイザーは悲しみを浮かべ、言った。


「お前の性格ならそうだろう。だが戦時中だ。まだ耐えよ」


 それでもアズマは評価を変えない。


「ヘイザー。いずれ戦いは終わる。その時にこそお前が必要だ」

「終わるのでしょうか?」

「ああ必ずな。だが終わり方でこの国は変わる」


 アズマは先を見て戦っていた。それはおそらくフレイドも同じだ。


「我がロロドール家は争ってきた。奴のマスダン家と、長きにわたり」

「ええ。知っています。有名です。特に相克の夜の逸話など……」

「あれか。数百年前の話だ。今でも、それを引き摺っているがな」


 アズマは壁の向こうを見て言った。


「良い機会だ。ヘイザー。お前にも、あの日の真実を教えて置こう」


 それはロロドール家に伝えられる『相克の夜』の真実だ。

 アズマは自虐的に少し笑い、それからヘイザーに語り始めた。



 時は五百年近く前のこと。

 レイランドの首都。首都レイランドでその惨劇の夜は幕を開けた。

 レンガ道を歩く一人の男。貴族特有の派手な服を着て、彼は暗い夜道を歩いていた。彼を照らすのはまだ薄暗い、魔法を使った街灯だけだ。

 悲劇はその途中に始まった。


「……!?」


 彼は声すらも上げられず、瞬時に命を奪われた。

 倒れ伏した彼はミード・マスダン。当時のマスダン家の当主だった。

暗殺者は仕事の証として、彼の身につけたロケットを奪う。

 この事件だけでも悲劇なのだが、話はこの場所で終わらなかった。


 ===============


 その夜。ミードが殺された後。より大規模な惨劇が起こった。

 舞台は対立するロロドール家。その当主が住む巨大な屋敷だ。そこでは何人もの人間が、一夜にして死体へと変えられた。

 子供や一部の使用人以外、ほぼ皆殺しの惨状だ。

 それは現在までも語り継がれ──相克の夜と称された。



「これが事件の概要だ」


 アズマはヘイザーに向かって言った。

 だがこれは、確かに概要だ。この程度なら誰でも知っている。


「皮肉な話として有名です。両家が暗殺者を雇い入れ、同日に暗殺を行った。数日後の会議で決められる、大臣の座を掴み取るために」


 ヘイザーは悲しそうに呟いた。


「残念だが、それは間違いだ」


 だがアズマはそれを聞いて笑った。


「ではいったい……」

「我がロロドール家だ。腐敗した我が家は暗殺者を、雇いフレイド家当主を暗殺。その上で暗殺者を殺害し、口封じを目論むも……失敗。暗殺者からの報復を受けた。見せしめの意味もあったのだろうな」


 アズマの口から語られたのは、数百年越しの真実だった。

 いくら昔のことだとは言っても知られればアズマには痛手となる。もっとも証拠など何処にも無いが。

 それでもヘイザーは不審を感じ、故にアズマへと聞いてみた。


「何故……そんな話を、今私に?」

「お前も知るべき歴史の闇だ。腐敗。暗殺。挙げ句の報復。みな他者を頼った故に生まれた」


 するとアズマはその問いに答えた。


「自らを磨き、自らを信ず。それが上位に立つ者の責務だ」

「私に上に立つ者になれと?」

「ふん。なるさ。だから言っている」


 そしてアズマは少しだけ笑うと、席を立ち扉へと歩き出した。


「いつも通り、時間をずらして出よ」

「了解。アズマ騎士団長」


 ヘイザーに背を向けて去るアズマ。


「貴族でない私が、人の上に? 団長の考えは読めないな」


 ヘイザーは彼が去った後、暗がりの中ぽつりと呟いた。


感想、ポイントお待ちしてます!


それと第一話シーン2に、挿絵を一枚追加しました。見て頂けると嬉しいです。

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