第五話 シーン3〜4
3
人間側がもめていたその頃。エルフの重要人物達は、森の香り漂う場所にいた。
重要人物とはガルグとティア、エルリアとミアの四人組である。四人が今居るのはエルフの森。その中でもやや開けた場所だ。
ガルグはこの場所へと呼び出され、ティアを伴ってやってきた。
「それで、俺は何をすれば良い?」
故にガルグはエルリアに聞いた。
「お兄様。焦りは禁物です。二人共、出て来ても良いですよ」
しかしエルリアは答を避けて、代わりに誰かを呼びつけた。
すると少し離れた木の裏から、二人のエルフが現れる。二人共一見すると少女だ。一人はゆるふわロングヘア、もう一人は長髪を結っている。
「隠れるのがエルフの趣味なのか?」
「サプライズです。ですけどお兄様。お兄様なら気付いていたでしょう?」
「まあな。いつ殺ろうかと思ってた」
ガルグはエルリアに皮肉を言うが、相変わらず通じていないらしい。
「殺されてしまっては困ります。二人はお兄様の部下ですから」
「はあ?」
「二人共、自己紹介を」
エルリアは二人に向かって言った。
するとまず自己紹介をしたのはゆるふわロングヘア方だった。
「あ、はい! 私はサシャ・コートツリー! ガルグ様の部下になることができ、本当に本当に光栄です!」
彼女は右拳を胸に着け、緊張ぎみの早口で言った。
この姿勢はエルフの敬礼だ。と言うことは確かに軍人か。しかしその目はキラキラとしており、ガルグを慕っているらしい。
一方、もう一人居たエルフは、サシャとは逆のつれない態度だが。
「私は……ニノ・ハートツリーです。それにしてもなんの冗談ですか? 私がハーフエルフの部下なんて」
一応敬礼はしているものの、その言葉には露骨に棘がある。
「冗談ではないですよー、ニノさん」
「はあ。まったく貧乏くじね」
その上姫にも不遜な態度だ。ミアなどは口に出さないものの、彼女をじっと睨み付けている。
もっともガルグの方から見れば、ややニノのほうが好感が持てる。二人の意見が合っているからだ。
「俺も冗談と思いたいんだが?」
「事実です! 事実ですお兄様」
だがエルリアはあえて二度言った。
「二人はブラッドエルフです。お兄様と一緒に戦うには、とても大切なことなんですよ?」
その理由は単純明快だ。
「エルフの社会では常識ですが、ウッドエルフは森のエルフです。自分の生まれた森を離れると、その力は弱まってしまいます」
聖樹から生まれるウッドエルフが、出来るのは森を守ることだけだ。
「ですがブラッドやホーリーエルフはその弱点が全くないのです」
一方、エルリアの言った種族は確かに森を離れて生きられる。正確には魔法を使用出来る。
「つまり俺が小娘共を率い、人間を襲撃しろってことか?」
ガルグはあきれ顔でそう言った。
「はい! お兄様、想像通りです!」
しかし予想は当たっていたらしい。エルリアは両手を合わせて言った。
「仲良くしてくださいね、お兄様」
「いや断る。全力で断る」
ガルグは彼女に訴えたのだが、ガルグ自身無駄だと知っていた。
4
そしてガルグは操縦席に居た。
ガルグはティアと共にエルギアに。サシャとニノは量産守護機兵──ククロアの操縦席へと座る。当然サシャとニノは別々にだ。
エルギアと二機のククロアは、向かい合い距離を取って立っていた。三機で演習を行うために。
「サシャにニノ。お前らの情報は、だいたいエルリアから貰ってる。が、俺は人を信じない主義だ。よって実力を見させて貰う」
「はい! 精一杯、頑張ります!」
「ニノ機も了解。いつでもどうぞ」
ガルグが聞くと二人が返事した。熱血系のサシャとクールなニノ。正反対だが実力は──戦うまではそれは解らない。
二人の機兵は基本、同じ物。エルフがククロアと呼ぶ、守護機兵。ヘイザーと戦ってやられていた、ガルグもその時に見ているものだ。
人間型。素材は木と甲殻。ただし見た目より頑丈だ。その佇まいはどことなく、硬い殻を持つ虫を思わせる。
サシャ機はエルフ語で肩に2と書いてあり武装は両手持ちの杖。
一方、ニノ機の数字は3で、武装はエルギアと似ている剣だ。
「では一応ルールを説明する。俺が合図を出したらお前らは、二人共エルギアに仕掛けてこい。連携しようが個別に来ようが自由だが、俺を殺す気で来い。次の合図で演習は終了。全機攻撃を停止する。それと念のため伝えて置くが、俺も反撃をする。こともある」
ガルグは二人に演習の、ルールを大雑把に説明した。
「以上。説明終了だ。なお質問も変更も無しだ。それと木は出来るだけ倒すなよ。一応お前らエルフの森だろ?」
「サシャ機、了解です! ガルグ様!」
「ニノ機了解。準備は出来てます」
二人はルールを理解したらしい。ならば躊躇う理由も無いだろう。
「ではこれより演習を開始する。全機用意……」
ガルグが指示すると、二人のククロアの魔力が上がる。それに合わせガルグもエルギアの、魔力を増大させ対抗する。
「初め!」
そして演習が始まった。
「吹き渡る風よ、集まり切り裂け!」
初めに動いたのはニノだった。
ニノ機が胸の前に構えた剣。その刃に風の魔力が集う。
「風刃閃!」
そしてニノの言葉で──風の刃が放たれた。
当然エルギアへと向かってだ。
「鉄障壁」
しかしそれはガルグの、障壁に激突し霧散する。
「人間の魔法!?」
「俺はハーフだぞ? 当然、全ての魔法が使える」
ガルグにとっては当然の事だ。ニノは多分に驚いたらしいが。
さて、次はサシャが仕掛ける番だ。
「たああああああ!」
「ほー。杖で格闘か。まあ意外性はそれなりにあるが……」
なんとサシャ機は杖を持ちながら、エルギアに向かいただ走ってきた。
「あ……!」
その上途中で躓いて、転んで大地をずざざと滑った。
「そこで転けるなよ! 問題外だ」
しかし──
「でもここから挽回です! 母なる大地よ棘となり、無数に飛び出し天を突け!」
なんとサシャはうつぶせになったまま、魔法を詠唱しはじめた。
「その詠唱は……」
「土柱連撃波!」
魔法は地面を這って次々と、巨大な棘を作り出す物だ。
それは高速でエルギアに迫り、やがてはその足下に辿り着く。
「やるな。よっと」
しかしエルギアは、大地を蹴って横にステップした。
すると少し軌道を変えつつも、棘の流れは通り過ぎていく。
「発想は良いが、誘導が甘い」
「えい!」
サシャは切り替えが早い方だ。
魔法が外れたのを見るやいなや、軽い魔法で地面を殴打した。おそらくその反動で立ち上がり、次の行動をとる気なのだろう。
だがその隙を、ガルグは突いた。
「風衝弾!」
ガルグが唱えると、エルギアが風の球を繰り出した。
それは起き上がり際のサシャ機へと直撃し、今度は仰向けにする。
「きゃ! あわわ!」
サシャも踏ん張るのだが、流石に魔法には敵わなかった。
「痛たたた……」
「サシャ機。そこまでだ」
「はい。すいません」
「謝らなくて良い。別に俺は怒っちゃいないからな」
ガルグは天を仰ぐサシャに言った。
これで──残るはニノだけだ。
「さてニノ。お前、何故援護をしない? 一応隙は見せてやったはずだ」
「サシャ機の邪魔になってしまうかと」
そのニノにガルグが聞くと答えた。
だがガルグはそれに納得しない。
「意外と真面目だな。だが俺には、仲間を見捨てたように見えたがな」
「心外ですね」
「まあそう言うな」
ガルグの考えではこうだ。ニノはサシャ機を捨て駒に使った。エルギアの情報を得るために。
兵隊にはあるまじき考えだ。
とは言えまだニノ機は生きている。
「では、行きます! 風刃閃!」
ガルグの言葉が気に障ったか、語気を強めニノは魔法を撃った。
前回と同じ魔法だが、無詠唱なので威力は低い。
「ふん」
当然、ガルグはその風を、軽々障壁を作って防ぐ。
しかしそれはただの、目眩ましだ。
「土風跳躍!」
ニノ機は走り出し──途中で大きく空へと舞った。跳躍魔法。使い方次第で魔法は移動や回避に使える。
ガルグはその意図に気付いていたが、あえて攻撃を受け止めた。
斜め上から斬りかかるニノ機を、剣を上げて無理矢理弾き飛ばす。
「やるな」
「防がれた!?」
ニノ機はエルギアの後方にそのまま着地。する瞬間に──
「風衝弾」
ガルグが放っていた魔法。風の弾を食らって転がった。
「まいりました」
「だな。ここまでだ。演習終了。全機帰投せよ」
「「了解」」
そして演習は終了。二機のククロアは背中を向けた。
ガルグもエルギアを自宅の横に、戻すためゆっくりと歩かせる。その直後、ティアがガルグに言った。
「ご主人様」
「なんだ?」
「お見事でした」
「やめろ。今自己嫌悪してるんだ」
だがガルグは、頭が痛かった。
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