第五話 シーン1〜2
1
豪奢な洋館のメインホールに、黒いローブを着て佇むガルグ。その周りには複数の死体が、血溜まりと共に横たわっている。
この後ガルグは火を放ち、洋館は焼け焦げた灰になる。
ガルグが何度も見た光景だ。よって結末も知っていた。
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ガルグが目を覚ますと木製の、天井が真っ先に目に入る。ここはエルリアから貰った家だ。エルフの森でも人気の無い場所。そこに建てられた一軒家。
そのベッドの上で汗だくになり、頬を一匹の猫に舐められた。
「ルルか。大丈夫だ。今起きる」
ガルグはその猫に向かって言った。
ルルはガルグの言わば飼い猫で、共に旅をしてきた仲だった。
一方この家にはもう一人、新顔とも一緒に暮らしている。
「おはようございます。ご主人様」
人間サイズの精霊は、椅子に座ったままガルグに言った。その手にはエルフ語で綴られた、本が一冊携えられている。
ガルグが夢など見たのはおそらく、この精霊のせいもあるだろう。
そう言う訳でガルグは起き上がり、彼女に直接問い糾す。
「精霊。お前、元は人間か?」
「人間? 私は精霊です。ご主人様のために生まれました」
「なら、そう言う記憶は無いんだな?」
彼女は元々人間だった──ガルグはそんな疑念を持っていた。
「ありません」
しかし彼女は言った。
これ以上問答を続けても、望む答は得られないだろう。
「そうか。悪い。変なこと聞いた」
「構いません。私は下僕です。ご主人様が望まれる限り、私はその要望に応えます」
ガルグが謝ると彼女は言った。だがそれがガルグの勘に障った。
「お前、その下僕ってのはやめろ。つーか名前とかないのかお前?」
「名前……ですか? ありません」
「だったら今、俺が考える」
ガルグは言うと、スッと目を閉じた。
考えると言うより思いつく。それがガルグの名前のつけ方だ。
そして数秒後、ガルグは言った。
「お前はティアだ。文句はないな?」
「了解。私は今からティアです」
精霊改めティアの返答で、この会話にはピリオドが打たれた。
「じゃ、俺は朝飯を作ってくる。まあ精霊のお前は食えないが」
ガルグは歩いてキッチンに向かう。
しかしその途中珍しく、ティアから言葉をかけられた。
「あの。ありがとうございます」
「なんで礼だ?」
「それは……わかりません」
彼女は胸に手をやりそう言った。
2
所は変わってレイランド。玉座の配された接見の間に、また王とフレイドとアズマが居た。
だが今回フレイドは手を叩き、あろうことかアズマを賞賛する。
「ふふ。英雄の帰還だな。此度は実に良くやってくれた」
フレイドがアズマに向かって言った。
「お前に褒められたいわけではない」
しかしアズマは普段に輪をかけて、機嫌の悪そうな仏頂面だ。それには癇に障った意外にも、もう一つの理由が有るからだ。
「それで捕虜の奪還はどうやった? ぜひぜひ聞かせて欲しいのだがね?」
案の定フレイドは聞いてきた。
これが彼のご機嫌な原因だ。そしてアズマの不機嫌な理由だ。おそらく「取引した」とでも言わせ、アズマを陥れたいのであろう。
アズマもそれは理解していたので答は既に用意してあった。
「実は言いたくても言えないのだよ。間者の身を危険に晒すのでな」
アズマはニヤリと笑って言った。
「間者だと!? 貴様、エルフにか!?」
「そうだ。エルフの中でも一部は、森を離れ旅をすることがある。それ以上、詳細は言えんがな」
「我が王にもか!?」
「ああそうだ」
アズマとフレイドは言葉の剣をぶつけ合い、互いに戦っていた。
一方肝心の王はと言えば、ずっと玉座でおろおろとしている。とは言えさすがに怖くなったのか──
「ま……まてまて! そのくらいにしないか!」
王はようやく争いを諫めた。
「フレイドお前の気持ちもわかる。だがアズマは父の代からの臣。それに捕虜を取り返してきたのだ。少しはその功績をかえりみよ」
頼りない言葉だが、彼は王だ。フレイドとしても従うしかない。
「はい。申し訳ありませんでした。確かに王の言われる通りです」
フレイドは拳を強く握ると、暫くして王へと謝罪した。
「わかってくれればいいのだフレイド。アズマ、此度は大義であった」
「お褒め頂くことではありません。当然のことを成したまでのこと」
「さすがはアズマだ。ははは。ははははは……」
毎回この調子では身が持たん。王は内心で呟くのだった。
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