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装虹のエルギア  作者: 谷橋ウナギ
第一章『回帰』
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第四話 シーン3〜4



 一際大きなログハウス。その中に彼女は腰掛けて居た。自然を感じさせる調度品に、護衛のエルフが傍らに二人。人間の王ほどではないにせよ、立場の高いエルフだとわかる。

 ガルグは静かに扉を開けて、その部屋へと一人で立ち入った。


「遂に来たのかい」

「まあな。来たよ。別に来たかった訳じゃないんだが」


 そのエルフに問われガルグは言った。

 彼女は一見子供のようだが、その喋り口は老人の物だ。普通のエルフは長寿と言っても、外見は十代後半になる。そう言う意味では彼女はとても、周囲から浮いた存在だった。


「二人共外に出ておいで」

「ですが、貴方様を残しては……」

「この子とはサシで楽しみたいのさ」

「わかりました。では離れています」


 少女は護衛を家から追い出し、間も無くガルグと二人になった。


「ふふ。待たせたね。弟君」

「エルフ的にはそうなるんだろうが──不愉快だ。ガルグと名前で呼べ」

「ガルグか。大きく育ったものよ。私は……」

「エルフの長老だろう? 名前はラナ・ホーリーツリーだな」


 ガルグは彼女を知っていた。

 その理由は非常に単純だ。


「俺の母親を処刑した、いわゆる親の仇って奴だ」


 彼女はガルグの母を処刑する決定を下したホーリーエルフ。

 しかし姫でなく長老なは、その一件が深く絡んでいる。


「あの日の事は今でも夢に見る。お姉様はただ優しく微笑み、大聖樹に私は呪われた。お姉様は禁を犯していても、罰されるべきではなかったのよ」


 ラナは目を閉じて静かに言った。


「あれ以来私は姫にもなれず、木の営みにも戻れていない。エルフの子達は慕ってくれるが、裁かれるべきはこの私」


 彼女はきっと罰を望んでいた。


「だから人払いしたってわけか。殊勝な心がけだ。泣けてくる」


 その執行者に相応しいのは──姫の息子。つまりはガルグである。

 一方、ガルグもエルフ側に付く。その条件としてこの場所に来た。

 そして──ガルグは一人家を出た。


「お兄様……。終わったのですか?」


 その前ではエルリアが待っていて、悲痛な顔をしてガルグに聞いた。


「まあな。部屋は片付けておけよ。これからは俺が使わせて貰う」

「わかりました。ではそのように」


 彼女は全て知っていたのだろう。立ち去るガルグに更に問いかける。


「ラナ様は、救われたのでしょうか?」

「さあな。俺が知るか。興味も無い。俺は次の仕事に取りかかる」


 しかしガルグは振り返りもせずに、欠伸しながらその場を立ち去った。



 一面草の茂る草原に、機兵が向かい合って立っていた。片方はガルグの乗るエルギアで、もう片方は鉄で出来た機兵。鉄機兵はやや大きな機体で巨大な剣を肩に担いでいる。ヘイザーの物とは違うタイプだ。

 だが少なくともまだ双方に、殺し合いをする気配は無かった。

 そう──これは取引だ。


「ホントに一人で来たのか? 馬鹿だろ」

「ふ。貴様に言われたくはないな」


 ガルグが言うと、相手は返事した。

 目の前の鉄機兵を操るは、レイランド王国の騎士団長。アズマ・ロロドールその人だ。その心臓には毛が生えており、恐怖を感じる事もないらしい。


「馬鹿はお互い様か? ま、良いが。だったらさっさと取引だ」


 よってガルグは面倒ごとを避け、エルギアの手の平を差し出した。

 その上にはまるで蛾の作り出す繭のような物体が乗っている。


「それは?」

「エルフの封印魔法だ。こいつ自害しようとしたからな。逃げられても困るし封印した」

「ヘイザーらしい。だがその言いようは」

「俺が、こいつを捕まえた。良いからさっさと終わらすぞ」


 ガルグは機嫌が悪そうに言った。

 すると同時に繭がほどけ始め、その中から人間が現れる。ガルグが言った通りヘイザーだ。


「ぐ。ここは……」


 彼は最初は目を閉じていたが、直ぐに覚醒し言葉を発した。

 すると直ぐにアズマが話しかける。


「起きたかヘイザー?」

「アレは、ドラーク!? アズマ騎士団長、なのですか?」

「そうだ。私だ。元気そうだな?」

「はい。申し訳ありません。ハーフエルフに後れを取りました」


 ヘイザーはアズマへと謝罪した。

 だがアズマは気にしていないらしい。


「かまわん。それよりこれに乗れ。それくらいの気力はあるだろう?」


 彼は笑顔で機兵を動かした。

 ヘイザーがドラークと呼んだ機兵。それはしゃがんで左手を前へ。そして拳をゆっくりと開く。

 するとその中には機械があった。タイヤが二つ着いた乗り物だ。


「魔動式バイクですか?」

「そうだ。お前はこれで首都に帰還せよ」

「了解しました。アズマ団長」


 ヘイザーは直ぐに指示を理解して、エルギアの手から飛び降りた。

 そしてふわりと魔法で着地して、バイクに跨がりエンジンをかける。


「お気をつけて。奴は手練れです」


 最後に一言アズマに言うと、ヘイザーは急いでその場を去った。

 さてこれでこの場には機兵が二機。ガルグと精霊と、アズマだけだ。


「さあ、ハーフエルフ取引だ。好きなことを何でも聞くが良い」


 アズマはガルグに向かって言った。

 ヘイザーを返還したその対価。アズマはガルグに情報を渡す。


「俺はガルグだ。それと聞くことか──ならまあ答えて貰おうか」


 ガルグは少し考えて聞いた。


「アズマ・ロロドール。調子はどうだ? ロロドール家の奴らは幸せか?」

「なに?」


 アズマはそれを聞いて驚いた。てっきり機密や国の内情を、問われるとそう思っていたからだ。

 だが彼に選択の余地は無い。


「これは取引だ。答えろよ?」

「ふ。まあそれが望むものならば」


 アズマが訝しみながら答えた。


「私は武人だ。闘争を好む。だが息子達は穏健派でね。今の状況を好まないらしい。孫が逝ってからはそれが進んだ」

「噂で聞いたが、残念だったな」

「あれは私に懐いていたのでね。美しい銀髪の娘だった。が、戦場を甘く見すぎたな」


 それを聞いてガルグは驚いた。そして傍らの精霊を見た。

 おそらくこれは偶然のはずだ。だがあの残骸。あの鉄機兵。


「どうした?」

「いや。別に何でもない」


 だが今は取引の最中だ。ガルグは直ぐにアズマへと応えた。


「とにかく、これでもう用事は済んだ。王国に帰っても構わない」


 ガルグは緊張を全く解かず、アズマの方を睨み付けて言った。

 確かにこれで取引は済んだ。だがアズマに帰る気配など無い。むしろ鉄機兵ドラークを立たせ、魔力のギアを一段引き上げた。


「悪いがガルグとやら。まだだ。もう少しだけ付き合って貰う」

「まあ、そうなると思っていたけどな」

「何も無ければフレイドが疑う。それに私も君に興味がある」

「なら、一太刀だ。アズマ・ロロドール」

「良いだろう。ガルグ。では、行くぞ?」


 アズマが嬉しそうに呟くと、ドラークは剣を両手で構えた。

 一方ガルグもエルギアに、半透明の剣を構えさせる。

 そして──


「おおおおお! ぬん!」


 アズマのドラークは大地を蹴って、接近しその大剣を振るった。

 だがガルグはその上を行く。エルギアを少し構えさせた後、高く空中にバク宙させた。地面に鋭い衝撃が走り、機兵の巨体が宙を舞う。


「飛空閃!」


 そしてガルグは更に、その途中で魔法を繰り出した。

 それはエルギアの剣から放たれ、空気の刃となり飛翔する。隙の出来たアズマのドラークへ。


「活!」


 だが今度はアズマが防いだ。ドラークの前に魔法障壁が、現れ刃を阻んだのである。

 エルギアがそして着地した。約束通りこれで一太刀だ。


「無詠唱の障壁で止めたのか。お前、ホントに人間か?」

「それはお互い様だ。ガルグとやら。跳躍時に罠まで仕掛けるとは」


 アズマが地面を示して言った。跳躍の土煙に紛れさせ、作られた青い魔法陣。もしエルギアを追撃していれば引っかかり、爆発していただろう。


「そっちもバレてたか」

「当然だ。だが惜しいな。これで終わりとは」


 アズマは約束を律儀に守り、ドラークが背を向けて去って行く。


「後ろから討たれるとは?」

「思わん。ふはははは! ふはははははははは!」


 笑いながら、決して振り返らず。


「これが因果か? 付き合いきれん」


 ガルグはそれを見送ってこぼした。

 しかし問題はまだ一つある。


「ご主人様。もう、喋っても?」

「ああ良いぞ。スッカリ忘れてた」


 可愛らしい銀髪の精霊に、ガルグは溜息交じりに答えた。


第四話 終です。

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