四章 第十一話 シーン3〜4
3
帝国の空を飛ぶ間。ガルグは苦い過去を想っていた。
夜。とある村に在る一軒家。そこに一人の男が駆け込んだ。
瞬間、魔法が発動し──男は蔦で体を縛られる。
「お帰りか。遅かったじゃないか」
ガルグは椅子に腰掛け足を組み、ナイフを眺めながら彼に言った。
罠を仕掛けたのはガルグであった。その理由は男の罪にある。
「家族は!?」
「気絶させ、封印した。この後の事はお前次第だが……」
ガルグは男の問いに答えると、立ち上がって男を見下ろした。
「お前は俺の友を拷問し、俺に対して刺客を差し向けた。まあ刺客は全員殺したが、問題はお前らの行いだ」
そしてガルグは男に言った。彼の罪。それに伴う罰も。
「とある国にこんな法律がある。犯罪で被害を被ったとき、報復は同じ内容に限る。でないとちょっとした小競り合いから、戦争にまで発展するからな。合理的に考えた結果だよ」
ガルグも、その法に従おう。そう考えて今この場所に居た。
「よって──お前は懇願するまで俺の友達と同じ事になる。大切な人を殺してくれと、言わされた俺の友達のように」
「ハーフエルフは呪われし種族だ! お前と関わることが犯罪だ!」
「それ今言って何か意味あるか? ま、良いか。それよりも始めるぞ」
ガルグは抵抗する彼を、引き摺って行って座らせた。
そこから先はガルグ自身でも、より思い出したくない過去である。
重要なのはこの時の記憶が、ラファを形作ったと言う事だ。そしてラファはガルグの友である、男性を模した姿になった。
4
広大な円形の公園に、エルギアはゆっくりと降り立った。そこは帝国の最重要地──玉座の間の真上に当たる場所だ。それ故権威を示すため、非常に美しく作られている。白薔薇が咲き誇る白亜の園。
そして、当然その場所に、ラファの機兵ジールは立っていた。白い金属製の機兵であり、金の縁取りが権威を示す。頭には王冠が象られ、武器として剣と盾を持つ。
エルギアとそのジールが向かい合い、ガルグとラファが互いに語り出す。
「何故だ? 私はどこで間違えた?」
「だからだよ。当然の結果だろ」
ガルグはラファの問に回答した。
「優れた者が正しく行えば、必ず結果は良い方に向かう。それがラファール。お前の考えだ」
「だとしたら何が間違いだ?」
「その考え自体が間違いだ。世の中どうにもならん時もある」
ガルグはそれを生まれて直ぐ知った。しかしガルグとて立場は同じ。
「お前に限らず殆どの奴が呑み込めない、悲しい現実だ。知っていても心の何処かでは、上手く行く──と思い込んじまう」
「僕は普通の賢論種と違う」
「それもだ。もうちょっと賢くなれよ」
ガルグは、眉をひそめて言った。
他の個体より強力で、思考能力が高く不老不死。奢るなと言う方が無理だろう。それでもこの世界の中で見れば、ただの石ころ以上の価値はない。
「俺もお前もこうしてここにいる。そこには正しさも、間違いもない」
「いいや違う! 僕は勝利する!」
ラファが言うとジールが構えをとる。盾を前に出し、剣を下げる。
エルギアへと突っ込むつもりだろう。ガルグも──覚悟を決めるべきだ。
「ま、そうなるか。ティア。こっちもやるぞ」
「わかりました。行きますご主人様」
「「魔力融合」」
二人が唱えると、エルギアが虹の魔力を放つ。
そして──決戦の幕が開いた。
「おおおお!」
ジールが急加速して、エルギアへと向かって突撃する。
一方のエルギアは杖を構え、そのジールを思い切り迎え撃つ。文字通り、思いっきりである。杖の先を持ち、振り抜いて、ジールを文字通りに弾き飛ばす。
「ぐ!」
ジールは盾で杖を受けたが、パワーは遥かにエルギアが上だ。盾の中央は衝撃で凹み、ジールは地面を削って下がる。
それで何とか減速していくが、ガルグはそこに魔法を連射する。
「ガルグ流・暗黒槍、乱れ撃ち」
丸い黒色の球体が、次々に現れ形を変える。細長く伸びて槍の形状に。それがジールに向かって飛んで行く。
「光障壁!」
ジールは障壁を──展開するが全ては防げない。
やがて障壁は貫かれ、ジールは文字通り蜂の巣になる。
「一方的すぎてつまりませんの」
それを見たルナが溜息をついた。
「ショーでやってるワケじゃねーからな」
だがガルグはまだ気を抜いていない。
ラファの勝利への執念は、信念に基づいた強い物だ。そう言う敵は決して諦めず、敗北を認める事などしない。
ジールは最早胴体しかないが、それでもエルギアに向かって飛んだ。
「敵機の魔力上昇を確認」
「自爆だな。まあ当然か」
ガルグはその結論も読んでいた。
「僕は正しい! 常に! 絶対に!」
輝く魔力をその身に湛え、ジールの胴体だけが飛翔する。
ガルグはその哀れな聖剣に、トドメを刺すため魔法を使う。
「ガルグ流・暗黒集束槍」
杖の尖端に細く作られた、闇魔力の矛先が現れる。
そしてエルギアはその槍を構え、一瞬でジールを串刺しにする。確実に、聖剣の本体を、ラファを貫き破壊するために。
「俺は間違ってるかも知れないが、死にたくない。今も、昔もな」
こうして帝国を牛耳っていた、最大の聖剣は砕け散った。
「これで戦争は終わりでしょうか?」
「いいや。まだラスボスが残ってる」
ティアに聞かれてガルグは返事した。
すると同時に地面が震動し、突き破って剣が現れる。機兵より巨大な諸刃の剣。正しさを司る帝剣だ。
それは強烈な魔力と共に、青い空に浮かんで停止した。
「お前の願い通りにしてやるよ」
ガルグはそれを見上げて呟いた。
十一話完。