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亜人種

 今日も私は血を吸えず、女の子ともお近づきになれない。


 はー、どうしたもんかな。


 ここしばらくがんばって女子生徒と仲良くしようとして失敗し続けたことでわかってきたことがあった。


 戦争がなく、表向き平和で穏やかな『ロマファン』の世界だけど、実際にはちょっと残念な事実がある。


 私たち吸血鬼をはじめ、亜人種と呼ばれる者はうっす~ら差別されてる。


 制度上のあからさまな差別的扱いはないし、先生方や多くの生徒は基本的にそんな態度を取らないんだけど。

 それでも『かつて差別されていた人たちに対する微妙な態度』みたいなのを感じることがある。

 これはされる側じゃないとわからないような感覚的なものだ。


 たぶん亜人種っていう言葉が悪いんだろうな。


『ロマファン』では特に深い考えもなく普通の人間以外のキャラを亜人種って名付けたっぽいけど、そもそもこれって「人間に近いけど人間より劣るもの」って意味だもんね。


 この言葉に整合性を持たせるために、亜人種がかつて差別されていたっていう歴史が生成されたんだろう。


 ま、勝手な想像だけど。


 一方で、亜人種っていうのは総じて普通の人間より能力が高い。


 吸血鬼なら魔力が高くて不老長寿(この世界では不死ではないらしい)だし。

 獣人なら身体能力が高い。

 エルフなら魔法の扱いが巧みだし、ドワーフなら物造りの技術がすごい。


 普通の人間がこの世界で国を形成しほとんどの土地を自分のものにしているのは、単純に人口が多いからに過ぎない。


 総力でいえば人間は圧倒的に強いけど、個人個人の能力は亜人種のほうが上ってわけ。


 その微妙なバランスがかつては差別を生み出し、現代は生徒たちの微妙な態度を生んでいる。


 そして中にはあからさまに差別感情を持っている者もいる。


 もちろん人前で面と向かってはそんな態度は取ってこないけどね。


 でもそういうのも、される側はわかってしまうのだ。


 ちょっとした言葉の端々や、何気ない態度の裏に、こちらを蔑む感情が見え隠れ。


 いや、まあ私の気にし過ぎってこともあるかもしれないんだけどさ。


 吸血鬼じゃなくて、ブラドフィリア嬢が嫌いなのかもしれないし、私個人が嫌いなだけかもしれない。


 ただ、一人。


 私のことを、吸血鬼ゆえに――亜人種ゆえに嫌っているとはっきりわかっている人間が一人だけいる。


 ジャスティン王子だ。


 あの日、私をわざわざ人気のないところへ連れていって、そこで魔法を放って殺そうとしてきた。


 普通に考えてやばい奴だ。

 それとも、ゲームでは詳しい設定が出てきてなかったけど、彼の出身国はそんなに人権意識の遅れている国なのだろうか。


 なんにしろ、絶対に近づいてはいけない相手だ。


 学園に訴えたいところだけど、王子が殺人なんて、と一笑に付されるに決まっている。

 彼ってば、外聞はめちゃくちゃいいからね。


 成績優秀、スポーツも万能。

 男子にも女子にも分け隔てなく優しく、貴族にも庶民にも平等。


 そしてどうやら、庶民も庶民、孤児院出身のルーデシアに惚れているらしく、彼女に積極的に声をかける姿がよく目撃されている。


 校内では「なんであんな地味な娘が!」と陰口がささやかれているけど、みんなルーデシアが可愛いって知らないんだね。


 ほんと彼女は優しいし、気遣い屋さん。

 髪は柔らかくて、肌は滑らかで、いい匂いがして、でも意外と激しく乱れるのよ?


 うふふ……。


 おっといけないよだれが。


 とにかくルーデシアは魅力的なのだ。

 ジャスティン王子が見初めるのもおかしくない。


 あの二人ならお似合いだと思う。

 亜人種嫌いの王子だって、普通の人間のルーデシアになら優しいだろうし。


 それにそもそも、あの二人はゲームのシナリオ通りに行けば結ばれるべき相手。

 もしそれを邪魔してしまえば、悪役令嬢の私には死亡ルートが開けてしまう。


 だからルーデシアのことは諦めなきゃ。

 あの日のことは一夜の夢と思って、私は私で新たな相手を見つけるの。


 そんなふうに思っているはずなのに、なんでこんなことになるんでしょう?


 ジャスティン王子と、ルーデシアを取り合って決闘だなんて!

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