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"閉果"書庫の管理人  作者: ボタン脳死連打
はじまり
2/3

一話  変わらない

 埃、木の香り、頼りなく揺れる蝋燭の火、堆く積まれた本、どこまでも続く暗闇、

 

 目覚め。


「んぅ......」


 私はレイラ。ちょっとした理由で、この"辺境"の"図書館"で暮らしている。

ずっとずっと前から。

 

 いつからそうしているかは思い出せない。

でも、これが当たり前だと思って今日も過ごしている。

 

 何をすれば、この暮らしが終わるのかはわからない。

でも、どうしてこうなったのかは覚えている。

 

 覚えている。覚えている。

でも、思い出そうとすると、もやがかかってしまう。


「見ないで」と言うかのように、消えて、どこかに行ってしまう。

 

 どうにか思い出そうにもぼんやりとしか見えない。

映るのは、黒い、短い髪のようなものと、キャンバスに書きなぐったかのような肌色だけ。

 

 ずっとこのことを考えていると、決まって頭が痛くなる。

頭が、体が、心が、思い出すのを拒む。割れそうになる。

 

「今日も、か」


 私は、夢をみる。いつもいつも同じ夢をみる。

起きた時、その夢はやっぱり、もやがかかってわからなくなる。

 でも、ずっと同じ夢を見ていることだけは、わかっている。


 夢だけじゃない。私の暮らしはずっと変わっていない。

いつも同じ。いつもと同じ。


 カーテンを引く。窓を開ける。陽が差す。そして、空が見える。

いつもと同じ青空。いつもと同じ雲。


  ここには空なんてないのに。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 私の仕事は、この"図書館"の司書だ。と行っても、ここには基本誰も来ない、と言うか来れないので、およそ普通の司書とは違う仕事だ。

 稀に、人が迷い込むこともあるが何かに弾かれるように、元の世界に返されてしまう。

 

 当然、掃除だとか、本の整理だとか、目録だとか、いかにも司書らしい仕事だってあるにはあるのかもしれないけれど、掃除をするにも広すぎる、整理するにも多すぎる、目録なんて、本の数に限りがあるのかすら未だわかっていないのだからつけようがない、なんともひどいものだ。

 

 だから私の仕事はただ一つ。本を"読む"こと。

 それも、ただ読むだけではない。


 この図書館は、ごまんと存在する、あらゆる世界に接しているそうだ。実際に接しているところを見たわけではないけれど、信じるに値するだけの経験はしている。

 この図書館は、そういった世界から去っていった人々の、記憶や人生を本にして保管する場所だ。

 

 人には、それぞれ物語がある。

 人の数だけ冒険がある。

 命の数だけ思い出がある。


 私の仕事は、人知れず幕切れを迎えたそんな物語たちをしっかりと読んで、覚えておくことだ。

 

 世界中の人が忘れてしまっても、「私は覚えている」と手を取るため、胸を張って見送るために。


 誰からも忘れ去られるような人は一人だけでいい


 そんなことを思ったのはいつだったか。


 色々な考えを巡らせながら、大書庫からもう一つの私の職場へと足を運ぶ。

重たい鉄の扉へと。


「閉果書庫」


 そう書かれた札のある部屋に入る。


 この部屋は少し特殊だ。ここの本も、物語なのだが、終わっていない。

 

 ここの本は、どれも、志半ばで朽ちていった人、大事なものを失った人、信じるものを失くした人。

そんな人たちの物語だ。

 

 私は、そんな物語を終わらせないといけない。ここの人々を笑顔で見送るため、笑顔で行ってもらうために。

 新たな本の表紙に、私は手をかけた。


 表紙には、絵があった。確かドラゴンとか言う生き物だったか。


 ページをめくる。

 

 しばらくして、私の意識は闇に沈んでいった。


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