ある女官の記憶
私は本当に恵まれている。
人が暮らし難いこのカスバールで幸運にも宮廷の女官としての職につけた。
それもこれも私を採用してくれた女官長様のお陰だ。
「落ちついて。早くこなそうとせずに一つ一つ丁寧に取り組みなさい。慣れれば仕事の効率もよくなりますわ」
私にお姉ちゃんがいたらこんな感じかな?
そんな事はないか。
テニア様は本当に素敵な女性だもの。
こんな人中々出会えないよ。
それに、私の職場の人達は皆いい人ばかり。
一部の兵士や、お偉方は危険だけど、それさえ気を付ければ概ね平和。
そもそも外にいたら私なんて直ぐ襲われて殺されちゃうもの、少しぐらい危険なのはしょうがないよね?
「あれ?」
あの男の子またテニア様を見てる。
確か、最近ここに来た新人の兵士さんだよね?
あれ? よく見るとテニア様と似てるかも。
もしかして、テニア様のご家族かな?
「こんにちは! サボりですか?」
「は? あ、いや。別に」
あ、やっぱりテニア様と似てる! この人絶対テニア様の弟だ!
「テニア様に会いに来たの? 呼んで来ようか?」
あれ? 何でそんな驚いた顔、してるんだろう?
「何で女官長を? 別に彼女に用はないが・・・」
「え? そうなんですか? てっきりお姉さんに会いに来たのかと・・・」
「・・・・・・似てるか?」
え? 顔が似てるか? そうだね、似てる。
「うん。目元とかソックリ。髪の色も同じだし・・・」
「・・・・黙っててくれないか」
「・・・・え?」
「テニアは知らないんだ。黙ってて欲しい」
詳しい事は聞かなかったけど二人は別々の場所で育ったみたい。だったら教えてあげればいいのにと思うけど、余計な事言わない方がいいよね?
みんな色々な事情があるもん。
「おい、邪魔だ。道を開けろ」
「あ。申し訳ありません」
いけない。またボーとして失敗しちゃった。
ん? 何この人キラキラしてる。
えーとえーと。誰でしたっけ?
「何だ。ジロジロ見るな無礼者」
「申し訳ありません。余りに眩しかったので」
「・・・・まぁ。私の姿を見て目が眩む気持ちは分かるが、素直に呟かれたのは初めてだな。お前面白い。おい!コイツを私の世話係にしろ!」
え? マジですか? それは困った。
私、仕事驚く程出来ませんが?
「貴女は何をやっているのです。よりにもよってナシェス様に目を付けられるなんて・・・それでは私でも貴女を庇いきれないではないの」
「すみません。でも、ナシェス様それ程悪い人じゃないですよ? ちょっとヒステリックで我儘な三歳児ですけど」
「そこが問題なのですわ!」
大丈夫ですってば。
この間だって大好きな女性騎士様に思いっきり振られたみたいで影で落ち込んでいたので目一杯励ましておきました。そしたら直ぐ復活しましたもん。あの人チョロい。
「本当に・・・・お気をつけなさい? 危険を察知したら直ぐに私の所へ逃げて来るのですよ?」
「はい。ありがとうございますテニア様」
あれ? 私抱きしめられてる?
嬉しいな。テニア様にこんな風にハグされるのは初めてかも。テニア様凄く優しいのにいつもどこか一線を引かれてる気がするから。
「・・・・・・テニア様?」
なんだろう。見つめられてるその瞳がいつものテニア様のものとは違う気がする。気の所為じゃ、ないよね?
あれ? あれれ? テニア様まさか? いや、そんな。
「ごめんなさい。いきなりこんな事を。職場に戻りなさい」
「いえ・・・・・し、失礼致します」
えーーーーー!? あ、あのテニア様があんな熱い眼差しで私の事を? 嘘だよね? 私自惚れてる?
でも、私女の子だしなぁ。テニア様って、そういう?
「ナシェス様、いい加減あんな野蛮な騎士の事はお諦め下さい。貴方にはもっと相応しい相手がおります。どうしてもと仰るならティファは側室にしたら宜しいかと」
ハッ! いけないいけない。
また仕事中にボーとしちゃった。
私のいけない癖だよね? 気を付けないと!
「冗談を言うな。私はティファを正妃に迎える。それがどうしても叶わないというのなら、そこにいる女官を正妃にする。それが嫌ならティファを手に入れる方法を考えろ」
ちょっとちょっとナシェス様? いくらそこにいるご令嬢様方が嫌いでもそれはないでしょ? 私を巻き込まないでよ!酷いよ!
「・・・・・・本当・・・酷い、なぁ・・・」
お陰で私散々嫌がらせされて、こんな所に落とされたちゃったよ。あの馬鹿皇子め!
足も怪我してるし、身体に力も入らないや。
これは、もう助からないな。私。
「最後くらい・・・テニア様の側で死にたかったなぁ」
テニア様とラフィネラ、大丈夫かなぁ。
私が居なくなって泣かないかな?
こんな事ならちゃんと聞くべきだったかな?
勘違いで笑われても良かったから。
テニア様、私の事を好きでしたよね?って。
「お前の所為で俺までこんな所に落とされたじゃないか! お前の、お前の所為で!!」
それで、私もそうですって言えば良かった。
ずっと貴女が好きだった。
私幸せだった。
貴女に出会えて過ごした日々は私の宝物になったから。
「なんとか言えよ!! 俺は、こんな所で死にたくない!」
どうか、悲しまないで。
テニア様。
貴女を愛しています。
だから絶対にお幸せになって下さいね?
そうじゃないと、私死んでも死に切れないかもしれないもの。




