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最強薬師は絶対誰にも恋しない  作者: 菁 犬兎
第1章カスバール宮廷
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宰相は目撃する

メリルがこの宮廷に連れて来られたのは本当に偶然だった。襲撃された山の調査に向かった者が偶々メリルを発見し事情を聞く為連れて来たのだ。


その滞在期間中にメリルがアースポントと干渉できる事実が発覚し、我々はメリルにここに留まる様、説得していた。


我がカスバール国は昔から神に見捨てられた国と呼ばれる程、ありとあらゆる厄災に見舞われてきた。


その国を代々治めて来られたディムレムの一族が治めていた。彼等の努力のお陰でこの国は何とか維持出来ていた。


しかし、それも先々代の皇帝陛下ベルシャナ・ディムレムによって終わりを告げた。


アレは地獄だった。


彼は自らの欲に忠実に、望むままこの国を壊していった。


逆らう者は皆殺し、欲しい物は奪ってでも手に入れた。


贅の限りを尽くし。この国の飢えなど気にも止めはしなかった。


この国を思う、まともな人間の殆どは、ここを去るか、抵抗して殺された。


残ったのは黙って傍観できる者。そして、欲に塗れた人間だけだった。


そういえば、あの方も、ある日フラリとここに現れた。


かつて、この国の最高魔術使いと呼ばれ、今やこの国の命綱となっているアースポントを作った人物。


そして、我々をあの地獄から救い出す代わりに、隣の国に奪われた・・・我等の、希望。


「ポーションを何の見返りもなく民に与えるのですか?そんな、貴重な物を?」


「タダじゃない。こちらで色々調べたい事があるの。薬作りに関する事で。それに協力してくれる人に渡すだけよ。宮廷から、その御触れを出して欲しい」


あの方もそうだったが、魔法使いは皆、変人ばかりなんだろうか?突然訳のわからない行動を起こしたりする。


本来なら罵声を浴びせてやる所だが、メリル相手ではそうはいかない。我々には、この娘に逆らえない事情がいくつかあった。一つは今現在アースポントに魔力を貯める事が出来る貴重な人間がメリルしか見つかっていない事。


「駄目なの?私の言う事何でも聞いてくれるんでしょ?」


「かしこまりました。しかし、実際その場に行くのはおやめ下さい。貴女にもしもの事があってはなりませんので」


「・・・・人手が足りないんじゃ?私達だけでも大丈夫だけど?」


そんな事をして、逃げられでもしたら大変だ。

この娘をここから逃す訳にはいかない。

この国の、未来がかかっている。


「大丈夫です。ご心配なら、中から様子をご覧になっていては?」


そしてもう一つ。

かつてこの国にいた最高魔術師デズロ・マスカーシャ。

その方の子供が、この国から逃げ出したメリルの姉、ティファだった事がつい最近分かったのだ。


それを聞いた時の先代皇帝陛下アトレイア様の血の気が失くなった顔を見た時。我々は理解した。


二度と彼の助けは期待出来ないのだと。


それは何故か?

それは、我々が彼の娘にした事を彼が知ったからだ。


メリルの村の山に風穴を開けたのは他でもないデズロ様だった。逃げてきた娘を保護し、その娘をあろう事か、取り返そうとカスバールが隣国サウジスカルに戦争を宣告。


挙句、その隙に前々からティファに執着していた、我が国の第一皇子ナシェスがティファを攫ったのだ。


そして、ナシェスはそれに失敗し、デズロ様はとうとう我々を見限られた。


今まで何度も彼を取り返そうと戦争を仕掛けて来たが、彼が直接我々を攻撃した事などなかったのだ。


そして、彼の血縁者の可能性がメリルにはある。

いや、きっと彼女はデズロ様の血縁者の筈だ。


もしかしたらデズロ様までとはいかないが、彼女にも類稀なる力が秘められている可能が非常に高い。


彼女の姉と呼ばれる人物も魔力は操らなかったがとても強い騎士だった。この国で彼女に敵うものなど存在しない程。


「大丈夫かなぁ?テットいまいち頼りにならないからー」


それにしても、こんな子供みたいな女がアースポントに干渉できるとは。子供と聞いて容易く操れるかと思えば中々・・・好き勝手し放題。


こんな事をしている暇など本来はないのだぞ。


「あ、始まった・・・結構並んでる。うんうん?あ、やっぱり半信半疑で受け取った。まぁ、それも直ぐに変わるよね?混乱しないよう兵士にちゃんと列を整えるよう伝えてくれる?」


本当に腹立つこの女。


お前この国の宰相にタメ口で命令するんだな?


いやいや、いかんいかん。


これにも慣れなければ。デズロ様だと思うんだ。

そうだ私!頑張れ私!


「列を整えさせろ。順番を守らない者には与えるな」


しかし、あれは本当にポーションなのか?

飴玉の山にしか見えないが?


ん?人々の様子が、変だぞ?何故か皆、驚愕の顔をしているが・・・・。


「あちゃー!しまった・・・もしかして病気の症状が治まっちゃったのかな?薬じゃないから勘違いしないといいけど・・・」


泣き出すものまで現れたな?

列が段々と乱れて来た・・・場が混乱しそうだな?


「・・・リディいる?ちょっと、やばそう」


私はね。さっきまでの自分を深く反省しているんだ。


「皆の者、落ち着きなさい。このポーションは皆に平等に配られているものだ。一度使えば使用した者がこちらには分かる。安心し、落ちついて配給を待つ様に。これは、君達が受ける最初の私からの支援物資になる」


カンッ!


「本日より、私リディ・ディムレムはカスバール国再生への活動を本格的に開始する! 君達カスバールの民にも、その協力を求めたい! この国を本気で立て直す、その助力を我々は求めている!我こそはと思うものは宮廷へ赴くがいい!その思いが真実であれば、我々は喜んで迎え入れよう!」


「・・・・・リディ様・・・リディ様ー!!」


「陛下! 皇帝陛下が我々の前に!!」


「あああああ!!なんて事!こんな事って!」


これは、メリルの我儘でポーションを配るだけの作業だった筈なのだ。それなのに、何故か正装されたリディ様が宮廷のテラスから多くのカスバールの民の前で高らかと宣言している。もう何十年もこんな事あり得なかった。


「陛下!!我々をお助け下さい!!どうか!どうか!」


「リディ様!私の村をお見捨てにならないで!」


「ああああ!奇跡だわ!こんな事が生きている間に起こるなんて!!ああ!神様!」


・・・・・・・・・・・どうして。


こんなになるまで放っておけたのだろうな?


「・・・・あーあー。後戻り出来なくなっちゃったなぁ」



私は、決めた。


メリル。いや、メリル様が例えデズロ様と何の繋がりがなかったとしても、私はこの方を信じる事にする。


例え勘違いだったとしても構わない。

彼女がここに居続けてくれると言うなら、私は陛下と彼女の為に、この身を削ろう。


「薬さえ調合出来れば、幸せなんだけどなぁ。私」


そうですか。

では、お好きなだけどうぞ。


ですから、その調子で少しだけ我々に希望を与え続けて欲しい。我々の心が決して折れないよう。


我々が立ち続けている為に、貴女には我らの都合の良い希望の女神になって頂きます!!


メリル様万歳!!

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