エルハドはアトレイアと対峙する
デズロめ、目を離すと直ぐに何処かに消えおって。
あれ程側を離れるなと毎回注意しているにも関わらず、無視か! アイツ絶対わざとだ。私に守れと言っておきながら自分は好き勝手か。いい身分だな?
「エルハド」
今、あまり話しかけられたくない者に声をかけられたな?
これ、振り向かないといけないか? まぁ、無視は出来ないか。チッ!
「・・・アトレイア殿、何か用か?」
正直、私はこの男の事が好きではない。
この男と私は似た様な立場だった。
帝国唯一の後継者であり、同じ様な悩みを抱え、デズロを求めた男。本来であれば分かり合える部分が多いと思う。
だが、この男とは分かり合えない。
この男はデズロを生贄にした。
国ではなく、自分達を守る為に。
「・・・・やはり、貴方も私を恨んでいるのだな? まぁ、今更だが」
「恨んでなどいない。ただ好かん。それだけだ」
昔の面影のまま笑うな。やはり殺したくなる。
デズロがアトレイアに手を出すなと言うから生かしていただけだぞ? 私はそれ程甘くない。
「いつあちらに帰るのだ?」
「ベロニカの完治が確認出来次第。三日後ぐらいにはここを出る予定だ。何故そんな事を聞く?」
「リディが、最後ぐらい親善交流の場を作ると言ってな、私もその席に出席しろと言ってきた。逃げ出す前に伝えておこうと思ってな? エルハドは一応親善大使としてここに来ているのだろう?」
そういう事にもなっていたな? 面倒だが仕方がないか。
「そうか、ならばデズロにもそれを伝えておく」
「我が国の伝統舞踊を披露する予定なのだが、私がそれを踊る予定だ、相手にデズロを指名したい」
やはり、コイツはここで息の根を止めよう。
「・・・・あの踊りの相手を務めるのは本来女性の筈だろう? 何故デズロが踊らねばならない」
「貴方達も昔踊っただろう? これが最後だ。それに、他にあれを踊れる者がここにはいない」
ここで殺したら面倒だな。
それに護衛も二人控えている。
だが、私の我慢は限界を迎えそうだ。
「私の答えを聞きたいか?」
「聞かなくても分かっている。だが、貴方はその答えの意味を理解していない」
何訳のわからない事を言っている?
そもそもコイツは何故私に話しかけて来たのだ?
揺さぶりをかける為か?何の為に?
「・・・・・エルハド。いい加減気付かないと、貴方も失うぞ。貴方は本当に、何も気付いていないのか?」
意味のわからない事をグダグダと。
言いたい事があるならハッキリ言え。
お前は昔からそうだった。
いつまでもデズロに執着して鬱陶しい。
そもそもお前は最初からアイツを手に入れてなどいなかった。アイツは・・・デズロは・・・。
「いつまで言い訳を重ねてデズロを側に置くつもりだ?」
「コラーー!! 何話してるの〜? 僕は仲間外れ?」
ドシーーーーン!!
「っ!! お前、今何処から現れた? 」
「カスバールの伝統舞踊かぁ。懐かしいね? 宴に招いてくれるんだから招かれようよ! ドンチャン騒ごうよ!」
お前・・・・お前の脳みそは遊ぶ事しかないのか!!
そして、人の話を聞け!!
「話を聞いていたのだな? では、踊ってくれるのか?」
「いいよー? そういう事は僕に直接聞いてよね? エルハドが了承する訳ないでしょ?」
「いや、お前と踊るのは私ではない。相手はエルハド殿だ」
「・・・・・え?」
本当に、この男何を言っているんだ?
正気とは思えない。
「お前達のあの舞をもう一度見たい。そして、それを最後にする」
かつてベルシャナに見せた私達のあの舞を見たいなどと。趣味が悪いにも程がある。あの悪夢をそれ程思い出したいのか? この男。
「・・・僕とエルハドの舞を見たいんだね? あの時の舞を」
「ああ。私は、あんな状況ではなく、今のカスバールでお前達のあの舞を見てみたい。他の者達にも、アレを見せてやりたいのだ。そして、デズロに何かを望むのはコレを最後にする」
「・・・・僕はいいけど。エルハドはどうなの?」
「ふざけるな。何故私が・・・・」
本当に腹が立つ。
お前、最初から私の意見など聞く気はないな?
私がここで要求を跳ね返しても、絶対決行するだろう?
そういう顔をしている。・・・逆らうだけ無駄なのか。
「勝手にしろ。どうせやりたいようにやるのだろう?」
「エルハド?」
もう、カスバールを離れて随分経つ。それなのにお前は未だカスバールに囚われている。
ここがお前の故郷でなければ、この手で滅ぼしてやったものを。
「では、衣装を後で届けさせる。デズロ、あまりエルハドから離れるな。わざとなのか?」
なんだ? 何の話をしている? お前達私がいない所で実は会っていたのではないだろうな? おい? デズロ貴様。
「あのさぁ、僕自分の身は自分で守れるぐらい強いの知ってるよね? 二人共いい加減にしてよ。あと、僕は誰の物でもないよ?今はまだね?」
そうだ。デズロは誰のものでもない。
今はサウジスカルに閉じ込めているが、いずれ私がそこから解放してやる。デズロが自由に生きていけるように。
「じゃあ行くねアトレイア! また宴会の席で会おう」
「ああ。楽しみにしている」
なんだかとても気分が悪くなったな。
きっとアトレイアと話した所為だ。
サッサと面倒事を終えてサウジスカルに帰ろう。
帰って愛する妻や息子達と戯れよう。うん。そうしよう!
「・・・はぁ。全く余計なことしてくれちゃって・・」
デズロ? 何ブツブツ言ってる?
お前更に面倒な事企んでるのか? コイツ本気でカスバールの深い谷に捨てて行こうか。そうしたら積年のうさも晴らせるだろうか?
「それで? お前はどこに行っていたのだ?」
「ああ! ササラから連絡が入った。大樹の事で重大な秘密が分かったらしいよ?大樹に動きが見られたみたい」
大樹の秘密だと?
何故私達が離れている間にそんな事になっているんだ?
大樹をどうにか出来るのは、デズロではないのか?
「セルシスが大樹に接触してしまった可能性がある。エルハド。覚悟を決めてね」
「何故、セルシスが・・・そんな筈・・・」
いや。私の父の時も大樹の樹液が突然空から降って来た。
それに触れた父はおかしくなったのだ。
だが、それならば今すぐにでもデズロを連れて帰らねば・・・・。
「ゼクトリアムはやっぱり、まだ僕達に重大な秘密を隠していたみたいだよ? 最悪の形で君の願いが叶うかもね?」
やめてくれ。
私達がどれ程あの大樹に苦労させられたと思っているんだ。私が自分の人生をお前に捧げるキッカケになった物だぞ。最悪な形でのピリオドなど認めん! 断じてな!
「大樹の核がハイトの中にあるみたい。それを操られたセルシスが血眼になって探しているみたいだね。しかも、ゼクトリアムとレインハートの秘密にギャド達が辿り着いたようだよ? 皆、そのハイトを守る為に作戦を練ってるんだって」
なんだそれは!!
何故そんな重大な秘密が漏れた?
それは、皇家とゼクトリアムしか知り得ない内容の筈だぞ!! しかも、大樹の核がハイトの中にあるだと?
どうなったらそんな事が起こりうる?
「おかしいねぇ? 秘書庫の入り口には僕の術が掛けてある。開けたなら直ぐに分かるし、エルハドでさえ、あそこには入れないもんね? レインハートの所有庫なのに入る事が出来ないんだもん、本当怪しいよねぇ?」
そうだ。
恐らくあれも大樹の力か何かなのだろう。
あそこには、核の取り出し方を記した書物が置いてあったと伝え聞いている。私達が大樹に下手に手を出せない理由がそこにもある。そして、ゼクトリアムの沈黙。
「本当に忌々しい。私が直接手を出せないお陰でどれ程苦労したと思っているんだ。挙げ句の果てに、巻き込んだお前も関係ないと言うのではあるまいな?」
「それは、ないと思う。僕は何度も大樹の声を聞いたからね? ただ、役割を果たすのは僕ではないのかも・・・」
役割を果たす者が別にいると? それは、一体?
「とにかく、一度ちゃんとササラと話しをしよう。エルハドも来て。あと、もうバレちゃったんだから、この際開き直ろうよ。皆を信じよう」
軽いな? お前は本当にお気楽だ。
だが、そうだな。
私達ではどうにも出来なかったのだ。
最初から私達以外の者達に頼れば良かったのかも知れないのだな。
「それに、あっちにはティファもいるしね? 意外とあの子の思い切りの良さがいい方向に進んで行くかもよ?」
そうだな? そうなればいいのだが・・・・何だろう。
今、その名を聞いてなんだか胸騒ぎがしたのは、やはり心配だからだろうか?皆、どう思う?




