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最強薬師は絶対誰にも恋しない  作者: 菁 犬兎
第1章カスバール宮廷
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アズニールは恋に敗れる

アズニールは年上ですが、ティファと同時期に騎士に昇格しました。なので同僚です。


その後ベロニカが騎士としてティファ達の前に現れます。


テットとラフィネラはベロニカとティファが居なくなってから騎士になったので二人と面識はないです。


でも、ティファの事は知ってます。


最強騎士だったので。



初めて彼女を見たのは四年ほど前だったろうか。

その年、綺麗な女が兵士として重用されたと皆が騒いでいた。ティファの時以来の大騒ぎだったので、良からぬ事が起きないよう様子を見ろと命が下され渋々彼女に会いに行ったのを覚えている。


「お前がベロニカか?」


「はい。私に何か御用でしょうか?」


一目惚れだった。


涼しげな目元に整った鼻。

少し癖のある長い髪を束ねた彼女の首筋を見て思わず目を逸らした。俺は、今まで女性にこんな気持ちを抱いた事がなかった。当たり前だ。初恋だった。


「お前の実力が知りたい。少し私に付き合え」


剣の筋も思った以上に良かった。


このまま兵士として身を置くよりも騎士に格上げした方が彼女の為になると思った。こんな美しい女があんな獣の巣窟に居たらあっという間に餌食にされてしまう。

それが、俺には我慢ならなかった。


決して自分が彼女を独り占めしたいとかそういう不埒な理由ではない。無かったのだが・・・予想外な出来事が起きた。


ティファだ。


ベロニカを騎士として騎士の住む寮へ連れて行った時、俺はまだ気付いていなかった。


「ティファ。今日からここで騎士として働く事になった、ベロニカだ。ベロニカ、こっちはティファ。ウチで一番腕の立つ騎士だ。お前の上司になる」


「よろしくティファ。女騎士同士仲良くしましょ?」


「はぁ。どうも」


この時、ティファの覇気のない返事にベロニカの顔色が少し変わった気がしたが、俺はまだ知らなかった。


知ったのはこの後、ベロニカと別れ、廊下を歩いていた俺をティファが思い切りスライディングアタックしてきた時だ。


「だぁ!!な、なんだ?」


「・・・・アズニール。どういう事です? なんであの子がこんな危険な場所にいるんです?」


「・・・・は? あの子? 何を言って・・・いでででででで!!」


「ベロニカですよ。あの子は力のない普通の女の子の筈。宮廷の、しかも騎士になるなんて考えられません。一体なんの間違いでこんな所に来てしまったんです?」


この辺りで、ベロニカとティファが実は知り合いで、ティファが、ベロニカを連れて来た俺にご立腹なのだとやっと理解出来た。俺は兎に角、事の経緯をティファに説明し、ティファは暫く考えた後こう言った。


「あの子は今日から私の部下です。部屋も同じにします。勿論行動するのも私と一緒です。あの子は、私が鍛えます」


正直、あの子がティファについていけるなどと思わなかった。ティファは、ベロニカを此処から追い出すつもりなのだと瞬時に悟った。俺は、内心舌打ちした。


「いいですか? 私の部下に不埒な真似をした者は、即刻私の剣の錆になります。貴方の頭の悪い部下達にしっかりと叩き込んでおくように。あと、未だに諦め悪く私の部屋の前で毎晩トボけた顔でフラフラ徘徊するダニ共に次見かけたらアズラエルの門送りにしてやると伝えておいて下さい」


本気の目だった。


ああいう時のティファは、本気で怒っている。

そして、酌量の余地がない。敵味方関係なく殺される。


冗談ではない。本当に実行する。


俺は、抵抗を諦めベロニカを差し出した。


そんな二人に、誰が近づいていけると思う?

そんな事が出来る者は頭の悪いクズだけだ。


そして、ティファはベロニカ相手にそんな自分を完璧に隠していた。


「ベロニカ〜!一緒に行きましょう! 」


「一人で行きます。お先にどうぞ」


「え? 上司の命令には従うのがルールです。ベロニカ行きますよ?」


「・・・・・・・ッチ」


ベロニカは、何故がティファに反発的だったが、逆らえないようだった。その隙を突いて彼女に近づこうと何度も試みたが、全て失敗した。何故かティファに先手を打たれる。鉄壁の守りだった。


ただ、二人が居なくなる前に何度かベロニカと二人だけで話す事が出来たんだ。


ナシェス様のティファへの嫌がらせが苛烈を極めた頃に。


「アズニール! ティファを知りませんか?」


焦った様子のベロニカに俺は知らない振りで答えた。

彼女と少しでも長く話す為に。

だが、その日はいつもより様子がおかしかった。


「どうしたんだ? そんなに焦った様子で、ティファに何かあったのか?」


一瞬、ベロニカの瞳の奥が揺れた気がした。

明らかに誰かに助けを求める目だった。


ティファとベロニカは此処で孤立していた。

数少ない女性の騎士でしかも美しいのに、思い通りにならない二人に他の騎士達は内心苛立ちを溜め込んでいた。


その矛先は鉄壁の強さを誇るティファではなく、ベロニカに向けられる事の方が多かった気がする。


「なんだ?言いたい事があるならハッキリ言え。もしかしたら力になれるかも知れないぞ?」


そして、俺もその一人だった。


当時、自分では全く気付いていなかったが、俺は彼女から求められたかったのだと思う。ただ一言でいい。

私を助けてくれ、と。


だが、彼女はそんな事は口にしなかった。


「・・・・貴方も、同じなのですね」


次の瞬間、ベロニカの瞳から一気に色が失くなったのを俺は見た。


「・・・・・なんの事だ?」


「いいえ。お忙しい所、呼び止めてしまい申し訳ありませんでした。失礼致します」


彼女と話したのは多くはなかった。

だが、その時までベロニカは俺の事を嫌ってはいなかったと思う。少なくとも少しは信用されていたのだと、あの時初めて知った。その信頼を、失った瞬間に。


最初、鬼の様なティファの扱きに直ぐ根を上げると思っていたベロニカは、それを耐え抜き彼女の側に居続けた。


彼女は、ティファを追いかけてここまで来たんだ。

何故、気が付かなかったんだろう。

ベロニカは、ティファの助けになりたかったのだろう。

その為に、自分の命を懸けてここにやって来た。


そのティファの危機を見て見ぬ振りした俺を、ベロニカは軽蔑した。そんな俺を彼女が好きになる訳がない。


俺はその日、告白をする事が叶わないまま、ベロニカに振られる事になった。





「お久しぶりです。また、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」


いや。俺は別に迷惑じゃない。

ただ、ダメージが半端ない。

ベロニカ、前より更に綺麗になったな。


「・・・陛下が歓迎している者を邪険に扱いなどしない。気にせず体を労われ。ティファは元気なんだな?」


「はい。相変わらず無駄に。そして、周りを振り回しています」


だろうな。

彼女も黙って立っていれば綺麗な女性なのにな。

あの女は凄かった。だからこそ、無事に生き残ったのだろうが。出来れば、俺はもう会いたくない。


「・・・一緒に来た貴族の男と婚約したんだな? 良かったじゃないか、お前面食いだったんだな?」


「何言ってるんですか!! たまたまです! からかわないで下さい! 」


グフッ!!

いや、お前のそんな顔して否定されても説得力ないからな? すまん、もう、帰っていいか? 辛くなって来た。


「ベロニカ? こんな所に居た。こちらは?」


「フィ、フィクス! あ、この人は私の騎士時代の上司のアズニール。ティファの同僚で、今はここの騎士隊長よ」


「・・・アズニールだ。お前達とは何度も剣を交えているがな。ベロニカは扱い難いだろう? 本当に良いのか? お前貴族のボンボンなんだろう?」


しまった! つい、余計な一言を。

コイツら今は客人としてここに来ているというのに。


「そんな事はありませんよ? 彼女は聡明で周りに気遣いが出来る素晴らしい女性です。おまけに美人だ。彼女と結婚できる私は幸せ者ですよ」


けっ・・!! 結婚。ベロニカ、この男と結婚するのか、そうだよな。そ・・・・うぐっ!


「け、けけけけけけっこ・・? フィ、フィクス?」


何故ベロニカまでそんなに狼狽えているんだ?

さては、あの男の満面の笑みに見惚れているな!!

チキショウ! 俺も美形に生まれたかった!!

シクシクシク。


あと俺が居るのに二人の世界入るのやめろ!!

俺、暫く傷心の旅にでも、出ようかな?


だってよ? ここにいるの辛い!!

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