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最強薬師は絶対誰にも恋しない  作者: 菁 犬兎
第1章カスバール宮廷
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リディは心配症である

あの人はいつだって人に囲まれていた。


容姿端麗でカリスマ性があり大胆な発言は人を惹きつける。皆ナシェスに希望を抱いていた。


祖父の悪政に疲れ果てた官僚達は、劇的な変化、改革を父に望んだ。しかし現実はそんなに甘いものではない。


ベルシャナに虐げられて来た領主達は私達を恨んでいる。

そして、自分だけは助かろうと自領の民に重税を課す者もいれば領地を捨て逃げた者も大勢いた。


残された民は自力で自分達の生活を立て直して行くしかない。だが、土地は荒れ、実りも少なく賊によって奪われ誰の助けも得られない民は次々と死んで行った。


宮廷に残っていた者も自らの保身や、名誉や、金を手放したくないそんな者しか残っていなかった。


彼等は言った。私達にはもうナシェス様しかいないのだと。


ナシェスは皆に甘やかされ、おだてられ持ち上げられて勘違いした。自分はこの国に必要とされている。だから、何をしても許されるのだと。


本当に舐めきっている。お前の勝手な我儘でまた無駄に人が死んだ。死ぬ必要のない人間が・・・・。


ナシェスは自らが背負っているものが何なのか、結局最後まで理解出来ていなかった。自分の一声で尊い命が消え去るのだという事を、この国全ての命を自らが背負っているのだと。だが、私はその愚かな兄を不思議と憎いと思った事はない。嫌いではあるが、どうでもよかった。


私が憎んだのは父だ。


アトレイア・ディムレム。


お前は最初からこの国の皇帝になどなるべきではなかったのだ。自分が背負うべき責任を放棄し、いつまでもデズロ・マスカーシャに依存して、この国を更に追い込んだ。お前が最初からしっかりとこの国と向き合う事をしていたら少なくとも、これ程まで国民の数が減る事も、メリルをこんな形で軟禁する事も必要なかったかも知れないのだ。


「・・・・リディ? 大丈夫?」


「・・・大丈夫だ。話は理解した。つまり、この国の為に兄が必要なのだな?」


「うん。そしてリディ、貴方もよ。今、少しずつ各領地の再建が進んでるって言ってたよね? 実はさ、エルハド様が魔物のライスベガを食材としてサウジスカルに貿易品として輸出してくれないかって言ってくれてさ。カスバールは大地には魔力が無いけど、大抵の人間は魔法を使えるでしょ? 凍らせて運ぶ事が出来ると思うの、それをすれば国庫の足しになるんじゃないかな? それでね、その魔物狩りの仕事を国の兵士ではなく、一般の魔物狩りの人々に頼めないかな?」


「・・・・成る程。こちらは人手を割かなくてすみ、あちらは生活していくのに困らなくなる。運搬も別で雇えば民が潤うという事か?」


「任せる相手は慎重に選ばなきゃいけないけど、人手不足だからね。あまり贅沢は言ってられないかも」


「じゃあ俺伯父さんに聞いてみましょうか?商売人だし、信用出来そうな奴紹介してくれるかも知れないッス!」


「あ、そっか!その手があったね? テット頼んでもいい?」


「勿論ッスよ。リディ様、この事はまだ誰にも言わないで下さいッス。古参の官僚どもには特に」


やはり気が付いたか? 中に数名不審な行動をとっている者達がいるな。私に従う振りをして勝手な行動をとっている者が。


「分かった。仕事を請け負ってくれる相手が見つかり次第私に知らせてくれ。デズロ様に新たに二つ、アースポントを用意して頂いた。そこに魔力を貯める者も雇おうと思う。経過を見て、順調であればメリル、お前の外出許可も出そうと思う」


「・・・・・え?」


「ここに来て、お前はずっとここに閉じ込められていたからな。城下町くらいなら気軽に行けるよう考えている。今はまだ許可出来ないが・・・いずれそれが出来るようにと考えている。もう少し辛抱してくれ」


デズロ様がここに来て私は気付いてしまった。

このままだとメリルは本当にデズロ様の身代わりになってしまう。


デズロ様にはエルハド様がついている。


あのお二人は強い絆で結ばれている。

だからこそデズロ様は、その重責を未だに請け負う事が出来るのだと思う。そして、そんなデズロ様をエルハド様が全てを賭けて守ってらっしゃるのだ。


だが、メリルは?メリルは誰が守る?


私がどんなに彼女を守ると息巻いた所で、私が出来る事など、たかが知れている。私と彼女の間にはあの方達のような強い繋がりはない。メリルは、私を頼らない。


彼女が、この国の為に命を賭けなければならない理由がない。彼女は、この国に暮らす平民に過ぎないんだ。


「兄の事も、無理だと思ったら手を引いて構わない。最初に言ったがメリルにはアースポントの魔力を貯めるそれだけを望んでいる。勿論今回の様に私を助けてくれるのはとても助かる、だが、覚えておいてくれ」


「リディ?」


「お前はあくまで私が守るものの一つだ。お前は私の部下ではない。私や兄の為に危険な真似だけはしないで欲しい」


なんだ? 何故黙る?

ちゃんと私が言った事を理解しているのか? おい?


「・・・・いやだよ」


は? 何が嫌なんだ。何故ムスッとしているんだ?


「そこはもっとこう、私を褒め讃えなさいよ。よくやったメリル! やはりお前は天才だ! これで少しはこの国も安泰だ! くらい言いなさいよ。もっと喜ぶかと思ったのに」


いや、確かにお前の助言や手回しはとても助かっている。

だがそれよりも心配の方が優ってそんな風にはとても喜べないんだ。私はお前を心配しているんだぞ!!


「チェシャ! チェシャーーー!」


「なんだ! 煩いな・・・私を口頭で呼びつけるとは図々しい奴め!」


「実はね? かくかくしかじかで、これを私が考えたんだけどどう思う? 労力を使わないでお金は常に入ってくるし国民も多少なりとも潤うと思わない?」


「・・・・・お前。お前もまさか、天才だったとは! やるなメリル! 少し見直したぞ!!」


「・・・・ぐらいのお気楽さを私はリディに求めている」


無理だ!! そいつは阿呆だ!参考にならない!

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