リディはメリルと約束を交わす
高い。
それにしても高い。
ここから落ちたら、ひとたまりもないな。
シャミの背に乗り空を飛んでいたら、少しばかり冷静になって来た。このままメリルに会ってなんと言えばいいのか。
「・・・・もし、メリル様が許して下さらなかったら、どうするつもりなのですか?」
「・・・・・・・・・どうするかは、わからない。ただ、一言彼女に謝りたい。彼女に隠し事をしたんだ」
この国から逃げたメリルの姉は、サウジスカルで幸せに暮らしていた。私は会っていないが、デズロ様が教えてくれた。
[ティファ? あの子毎日大好きな料理を好きなだけ作って幸せな毎日を過ごしてるよ? 笑いながら皆を振り回してる。そちらでは考えられなかったんじゃない?]
確かにティファが笑うなど想像出来ない。
ティファはいつも無表情かそれ以外はキョトンとした顔でこちらを見ていた。こちらの言葉が通じないようだった。
[メリルだっけ?その子とも上手くいってなかったみたいだよ? ティファの口からその子の名前聞いた事ないもん]
そんな事あるのだろうか?
メリルの姉に向ける感情は、どう考えても姉が大好きな妹、というイメージでしかない。
仲が悪い所など想像出来なかった。
・・・・・嫌な予感がする。
[ティファ。もしかしたらメリルの事、苦手なのかもね?]
もし、万が一にでもティファがこちらに居たくない原因の一つに家族に会いたくないから、という思いがあるとしたら少し厄介だ。メリルは、ティファは私達の所為でサウジスカルに捕らえられたと、未だに思い込んでいる。
本当は、ティファ自らこの国から脱走したと知ったら、メリルはどうするだろうか?
やはり、これはもう暫く黙っていた方がいいかもしれない。
そう考えた私が浅はかだった。
結果。結局メリルは傷ついた。
「あ! メリルとテットがいたー? 明るいから直ぐに見つけられたね?」
なんだ? 火が燃え広がっている?
火事ではないな。何かを燃やしているのか?
「あの二人・・・ちょっと近すぎやしませんか? 降りたら即刻引き離さねば・・・」
「降りるよ? 捕まってね?」
なんだ?・・・二人の様子がいつもと違う気がするのは気の所為だろうか? さて、メリルになんと声をかけるべきか・・。
「・・・・メリル・・」
側まで来たな。もしかして少し冷静になってくれたのだろうか? いや、そんな事はないな。相手はメリルだ。
おい? 何故私の前で膝をつく? 具合でも悪いのか?
「・・・陛下。数々のご無礼お許し下さい。私はあの時、どうかしていました。どうか今一度、宮廷に戻る事をお許し下さい」
・・・・・・・・・・ナンダコレハ。
「・・・メ、メリル様?・・・」
「私を宮廷において下さる機会を頂けるのであれば、私は二度とあそこから逃げ出そうなどと、考えたり致しません。ただアースポントに魔力を与える、それだけに生涯を捧げましょう。そして、それ以上を求めたりは致しません」
・・・私はメリルに、ずっと望んできた。
余計な事はせずに、ただ、アースポントに魔力を注ぐ。
それだけをメリルに求めた。
それさえ果たしてくれたなら、他はどうでもいいと言った。
「私の魔力が尽きるまで、私の命が尽きるまで、どうぞ私をお使い下さい。この国と、陛下の為に」
それなのに。どうしてなんだ?
どうしてそれを受け入れたメリルが、こんなにも許せないのだろう?
"ここで生きて死んでいく。でも、どう生きて死ぬかは私の自由でしょ!! その自由まで奪うって言うの!!"
「・・・・・ふざけるな。何を言っている?」
「・・・・陛下」
「・・・リディ様」
「そのままの意味です。私は貴方を受け入れようと思います。この国の民の為に私の力をお使い下さい」
お前はそれを受け入れてどうする?
お前の、お前自身の幸せはどうなる?
「なんだその上っ面の口上は! お前は私を馬鹿にしているのか? お前も、私を無能扱いするのか! いつもみたいに嫌そうな顔でそんな事はしたくないと正直に言ってみろ! お前にそんな畏まった態度は似合わない! 気持ち悪いし、気分が悪い!!」
所詮、私には何も出来ないと思っているのだな?
お前みたいな小娘一人の人生を犠牲にする事でしか、この国を立て直す事が出来ない無能な王だと!
ずっと心の中では、馬鹿にしていたのだな!
「お前の力など借りなくても、私はこの国を立て直してみせる! 自惚れるな! 私がここに来たのはお前の姉の事を告げなかった事で、お前に余計な心痛を与えた事を詫びる為だ! そもそもお使い下さいとはなんだ! お前はいつから私の物になったのだ!!」
何故何も言い返さない!
何故・・・私を見ないんだ!メリル!!
「お前は人間だ! 物ではない! カスバールの・・・私の・・・」
「・・・うん。・・ねぇリディ」
「・・・・・・・っなんだ!!」
「私、リディを信じてる。だから、リディの味方になってあげる」
な、なんだ? きゅ、急に。
お前、なんて顔で笑うんだ。
「だから、リディも私を信じて。私が何を言ってもこれから先、側を離れる事があったとしても。必ずリディの所に帰る」
「・・・・メリル」
「ごめんねリディ、八つ当たりして。凄く辛くて、現実が受け入れられなかった。でも、テットがさ? リディは守る為の嘘をついたんじゃないかって。お姉ちゃん、私の事嫌いなんだよね?」
違う。そんな事は聞いてないし分からない。
ただ、分からないから黙っていただけだ。
「私、必要な言葉を上手く相手に伝えられないの。いつも素直になれない。親しくなればなる程、言わなくても伝わってるって勘違いしちゃうの。考えてみたら私、リディに何も言ってなかった」
確かにずっと私は不安だった。
何が不安なのかもわからないぐらい不安だった。
だがメリル。その不安が今日一つ無くなった。
お前のお陰で。
「私はリディとここで生きるよ。リディどうか、私達の国を・・・カスバールを救って欲しい」
「任せろ。お前は私の側で、なんの心配もせずに好きな薬草を調合してればいい。いつか、それだけに没頭出来るくらいの時間と場所をお前に与えてやる。勿論その時は、お前の好きな場所に暮らすがいい」
約束だ。私はその日までお前を決して疑わない。
前だけを見てつき進んで行く。
お前に、自由を返してやるからな!




