テットはメリルと約束を交わす
「我儘なのはどっちなの?私は確かに、この国の人間だけど、ここの人間に助けられた事なんて一度もない。今回だって私を助けたフリして本当の目的は違った癖に、まるで保護してやったみたいな言い草だったけど、白々しいよね?奪うだけ奪っておいて、自分達を助けてくれなかった奴等に、なんで手を貸さないといけないの?私は我儘を言ったんじゃない。家に帰せと言っただけ。別に無理して我儘を聞けなんて一言も言ってない」
思い返してみてもメリルが口にする言葉には嘘がなかった。嘘をついていたのはいつも俺達の方で騙そうとしていたのも俺達宮廷の大人達だ。
「では、何故手をお貸しになる事に?」
「だって、リディは嘘、ついてなかったんだもん」
「陛下ッスか?嘘ついてないって?」
「私、嘘付いてる人間ってすぐわかるんだ。逆に本音を言ってる人も。皆、表面上は私に従う振りしてるけど、誰も本気で私の事信用してないの、でも、リディだけは私に助けを求めてる。私を真剣に必要だと思ってるんだよね」
「・・・・それで、リディ様に力をお貸しになろうと?」
「うん。だって、多分あの人が諦めたら、この国滅びるもん。別にそれでもいいかと思ってたけど・・・気が変わったんだよね」
あの時はまだ俺も、メリルの話を話半分で聞いていたのだと思う。だけどこんな子供みたいな奴に一体何が出来るのかと興味はわいた。
「私と歳が変わらない子が必死でこの国を何とかしようとしてるんだよ?ここ数ヶ月様子を見てたけど、駄目だわ。私が手伝ってあげないと、リディ潰れちゃうと思うわ」
「・・・・・え?そんな事考えてたんッスかメリル様? そんな素振り一ミリだって出してませんでしたよね?」
「でも、私がリディに協力するって、ここだけの話にしてくれない?って言うか、バラしたら、その時はここから脱走してやる」
ちゃんとわかってたんだよなぁ。
リディが他の官僚共とあまり上手くいってないの。
この宮廷でリディに真に従う人間が殆ど居ないということも。
「え?脅迫ッスか?また唐突ッスね?」
「だって、あんたの事信用してないもん私。でも、私から離れないつもりなら、どうせバレる。だったら隠しても無駄だし」
そりゃ信用されないよなぁ。そもそも信用して欲しいと思ってなかったしな。それも全部お見通しだったんだよなぁ?俺がお前を全く見てないって分かってたから最初から俺にはあんな態度だったんだな。
お前は、鏡なんだな。
「・・・私はアンタに私の為に死んで欲しいなんて、これっぽっちも思ってないけど?」
「わかってる。これは、俺が決めた事だからメリルは気にしなくていいんだよ。でも、忘れないで欲しい。俺はお前の騎士だ。お前の為に動く。お前が望まなくても、お前が助かるなら俺は命をかける。メリル・・・俺達は簡単に嘘をつくけど、全てが嘘な訳じゃない。嘘にはいくつかの種類がある。人を傷つける為のもの。人を欺く為のもの・・・そして・・・」
リディ様がつく嘘は大体はこれだと思う。
「誰かを・・・守りたい時、そんな時に嘘をつく。お前は人と接することが苦手だと言ってたよな? それは、お前が真っ直ぐすぎるからだ。思った事を全てそのまま口にすれば相手は傷つく。そして、本心を言えなかったりする。そしてお前もそんな相手に本心を言えなくなる。素直になれなくなる。相手に拒絶されるのが怖いからだ。お前は、リディ様を責めたよな? 信じてたのに裏切られたと。確かにそうかもしれない。だけどな? じゃあメリルはリディ様にそれを一度でも伝えたのか?」
「・・・・・・・・え?」
「自分を信じてくれと、リディ様に言ったのか?行動で示しているから伝わってると、思い込んでなかったか?」
「・・・・・・・・っ!」
そうだな。
メリルは実際、陛下の為によく動いてくれた。
悪態をつきながら、それでも助けてくれていたメリルを信じられなかったのは、メリルからハッキリと言葉を貰えなかったからだ。そして、何度も何度も・・・俺達は・・。
「メリルが信用できないんじゃないんだ。リディ様はずっと不安なんだ。また、この国の人間に見限られ背を向けられるその日が来るのだと。あの方は何度もそれを経験してきた。だからメリルが居なくなるのではと疑ってしまう。何度も何度も傷ついて、傷が癒えることがない。それでも、あの方はお前を無理矢理閉じ込める事を拒否された」
「・・・・・・・そう」
「俺は、お前を信じる。お前言ってくれたもんな」
「なによ、なんの事?」
俺さ。ちょっと感動したんだよなぁ。
多分陛下もそうだと思うぞ?
「俺達と一緒に、この国と心中してくれるんだろ?俺痺れたわぁ。それってさぁ、ずっと俺達と生きていくってことじゃん?え? プロポーズ?」
「・・・・おちょくられると腹立つんだけど?」
違う違う。おちょくってない。わかってるだろ?
「お前がここで生きるなら俺はお前が生きる場所で笑いながら過ごせるようにしてやる。お前は、どうしたいんだ?」
好きにしていい。
俺はもう決めた。メリルがどんな選択をしても、俺はお前と一緒にいる。きっとお前がする事は、何であろうとこの国の糧になる。
あ。あれは何処かで見た覚えがある鳥だなぁ?
このタイミングで来るの? 俺まだメリルの返事聞いてないんだけど。
「・・・・・テット」
「おう」
「なら、私の為に死ぬんじゃなくて・・・」
メリル。・・・・・俺本当に、馬鹿だわ。
「私が自分を止められない事態に陥った時は、躊躇わずに私を殺してほしい。約束出来る?」
「・・・・・・・・・・・約束する」
「・・・・・そっか。じゃあ戻ろっかなぁ? あーあー。面倒くさぁ〜」
俺、この期に及んでまだ、お前の事、何処かでまだ普通の17歳の女の子だって思ってたんだな? 本当に阿呆だ。
「シャミこんな遠くまで頑張ったなぁ。褒めてあげないと」
約束はするけど、そんな日は来ない。
お前が何であんな頑なに俺達の協力を拒否してたのか、全てちゃんと理解したからな。お前が無理してそんな事態に陥らないように逐一見張ってやるから大丈夫だ。安心しろ。
俺があの宮廷で、一番最初の最強の味方になってやる。
だから、安心して暴れろよ。とことん付きあってやるからな!




