メリルの家族
「テゼール。この子天才だわ。大変よ」
「そうか。君も天才だからな。しょうがないな」
え? 天才? 何が?
私言われた通り薬を調合しただけだけれど?
「しかし、そうなると益々気を付けねば。私達の存在を奴等に知られる訳にはいかない。可哀想だが、あまり外には出せないな」
「そうねぇ?でもあの子大丈夫だと思うわよ?あの子より心配なのはティファよ。目を離すとすぐ飛び出して行ってしまうんだから。最近はデガルドさんが見ててくれるようになったからまだいいけれど。いや、良くないわね?」
「デガルドさんの所に出入りするようになってから、あの子は益々突拍子も無い行動をとるようになった気がするぞ。俺はついていけない。なんであんなにもアイツに似てるんだ・・・はぁ」
お父さんとお母さんって口を開くと最終的にはお姉ちゃんの話ばっかしてるよねぇ?まぁ気持ちは凄くわかる。
あの人一体誰に似たんだろうね?お父さんにもお母さんにも似てないから、お祖父ちゃんお祖母ちゃんかな?
「メリル! こんな所で閉じ篭って無いで私と外に行きましょう? そうしましょう! 光合成しましょう!」
しないよ!
私は人間だから太陽を浴びなくても生きて行けるわ!
本当にウザい。
ほっといてって言ってるのになんでこんなに絡んで来るのかなぁ? 調合で忙しいって言ってるのに・・・。
「ティファ! メリルの邪魔をしないで頂戴。あの子今とても大事な薬を調合している所なの、あちらに行ってて」
「でも、もうずっと部屋に篭りきり・・・」
「いいのよ、それで。メリルも嫌がってないしティファも少しは大人しく出来るといいのにねぇ」
それは無理。お姉ちゃんはジッとしてられないタチだもん。気付いたらいなくなってて朝から晩まで族長と狩りをしてるよね?この前、野生のシカ丸々抱えて帰ってきた時はちょっと引いた。そんなの担いで持って帰ってきたの?ゾッ!
「お前は本当に大人しくて助かる。女の子は普通おとなしいものではないのか?あれでは息子を育てている気分になる」
「もういっそ息子だと開き直ればいいんじゃない? 」
「そんな訳には行くか! あの子は女の子だ! 大怪我でもされたらかなわない」
うーーーん。でもお姉ちゃん強靭的な体を持ってるからなぁ。多分大丈夫じゃない?お姉ちゃんの体の組織凄いよ?
「ご飯出来ました〜」
「あれ?お姉ちゃんがご飯作ったの?」
「はい! 族長の奥様に教わりました! 初めてにしては上手だと言われました」
ふーん?お姉ちゃんが料理ねぇ?
お父さんが作ってるんだから無理して作らなくてもいいのに。効率が悪いじゃない。
「あら? 本当に美味しいわティファ。上手に出来てるじゃない」
そういえば、私お姉ちゃんがあんな顔したの、その時初めて見たな。お姉ちゃん滅多に笑わないし、いつも怒られてるイメージだったから。ちょっと驚いた。本当に、嬉しそうな顔で笑ったよね。
だから、ついあんな事口にしちゃった。
「そう? 私お父さんの作った料理の方がいい。別にお姉ちゃんが無理して作らなくても、いいでしょ?」
本当に素直じゃない。私捻くれてる。
どうして、あの時素直に美味しいって言わなかったのかな?あれ以来お姉ちゃん私に構って来なくなった。
私っていつもそう。
大事な相手に優しく出来ない。
人って本当に面倒くさい。
家族なら尚更。
お姉ちゃんなら何をしても許してくれるって思ってたんだよね?阿呆だ。
「ティファが家を出て行った。宮廷の兵士になったらしいが、メリルは決してティファに会いに行っては駄目だ。あそこは危険過ぎる。母さんの事も知っているな? 私達は追っ手に追われている。聞き分けてくれ」
気がついた時には全て手遅れだった。
お姉ちゃんいつもみたいに家を飛び出して帰って来なくなっちゃった。
私がお姉ちゃんと行動してればこんな事にならなかったのに・・・・・。
「すまないメリル。私の所為だ。私が、あの子の話を真に受けなかった」
多分、お姉ちゃんはずっと前から私達が嫌いだったんだと思う。だって、1日の殆どをお姉ちゃんは族長のデガルドさんと過ごしてた。それで、あの人が死んでしまったから、ここにいる理由がなくなっちゃたんだ。
「お姉ちゃん。ここでは毎日沢山の人が死んでいる。一々落ち込んでたら体が保たないよ? わかってるでしょ?」
デガルドさんが亡くなって、塞ぎ込みがちなお姉ちゃんが心配で、ついイライラしながらそんな事を口にした。
「・・・・メリル」
あの時。きっとあれがお姉ちゃんの心を引き止める最期のチャンスだった。私は、それを自らぶち壊したのだと思う。
「仇はとったんでしょ?ならもういいじゃない」
後に、お姉ちゃんがデルガドさんを殺した相手をどんな方法で殺したのかを知った。
それを知った時、私は自分がかける言葉を間違えたのだと初めて気が付いた。
デガルドさんはお姉ちゃんにとって生きる希望だったんだ。
普通、年頃の子供が外で遊ぶのは当たり前だ。
カスバールはとても危険だけど他の町の親は時間をとって子供と一緒に遊んでくれる。
だだでさえ不自由な子供を思って愛情を注いでくれる。
家は、よそのお家とはちょっと事情が違っていた。
母親が宮廷の人間から追われていたから。
人があまり住まない山奥の集落でひっそりと人に知られないように暮らしていた。そういう人間が集まる集落だった。
お母さんは元宮廷の薬師でとても優秀な人間だったけど、あまりの悪政に宮廷から逃げ出してきたらしい。
お父さんとはその時出会った。
私はお母さんに似て何日でも部屋に閉じ篭って薬を調合する事が出来る性格だった。
姉は逆に全く薬師の才能が無く、その代わり人並み外れた身体能力を持つ人間だった。
今、改めて考えても、そんな姉にじっとしてろと言ったって聞くわけがない。宝のもちぐされだ。
宮廷の兵士になってから、あっという間に皇帝陛下に仕える騎士まで登りつめ、最強の騎士だと言われた姉をコッソリ見に行った事がある。
サウジスカルとの戦争で凱旋する姉と目が合った。
「・・・・・お姉・・・ちゃん」
今でも忘れられない。
まるで、地面に転がる石を一瞥したかのような、感情が一切こもっていないあの瞳。
その時まで、私は全く気付いてなかったんだよね。
あの人はもう私達を家族だとは思っていないんだと。
あの人は、私達を完全に見限ったのだと。




