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最強薬師は絶対誰にも恋しない  作者: 菁 犬兎
後日談&番外エピソード
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ラットは再会する

エリス→昔ラットと共にナシェスの護衛として側についていた元奴隷。二年前サウジスカルに捕らえられラットと共にデズロに保護された。今はサウジスカルで暮らしている。

別に話しかけるつもりは無かったんだけどよ。

メリルの屋敷を訪れた時、丁度見かけたから無視するのも変だろ?


だから、こちらから声をかけた。


「お久しぶりですね。元気そうで何よりです」


言葉の中に棘が含まれなかったかと言えば否定は出来ない。二年前、ティファをサウジスカルから取り返すために俺達はナシェス様の命令でサウジスカルのサンチコアに潜入させられていた。


あの街を初めて訪れて、街の人間と話した時、俺達は内心驚いた。


俺達が暮らしていた場所とは余りにも違い過ぎて戸惑ったんだ。


彼等はとても朗らかで親切。

余所者にも丁寧に接してくれた。


カスバールなら決して余所者は受け入れられない。

見つかれば捕らえられ下手すると殺される。


俺の知っているカスバールはそんな国だった。


そして、一番驚いたのは見つけたティファが、笑っていた事だった。俺はティファが笑った顔を、その時は初めて見た。


「ここの住人は皆、頭がイかれてるわ。平和ボケもここまで来ると大したものね?」


「本当に、同意見だぜ」


俺達は悪態をつきながら、自分達の中に湧き上がった疑問をかき消した。でも、本当はずっと感じてた。


おかしいのは、サウジスカルの人間じゃない。

俺達なんだと。


「あんた若いのに偉いねぇ? 両親を病気で亡くしてここまで働きに来たのかい? あんただけなら雇ってあげられるよ? 二人はちょっと無理だから、ラットだっけ? あんたには別の仕事を紹介してあげるよ」


俺とサウジスカルに潜入した相棒のエリスはその酒場のマリーという主人にとても懐いた。


その人はご主人と二人で酒場を切り盛りしていた。昔子供を授かったけど亡くしていたようだった。娘だったらしい。


マリーは、エリスの事を自分の子供のように可愛がった。エリスも、マリーの前では本当の娘の様にマリーに接していた。あれは、演技では無かったと思う。


俺は、エリスはこのまま、サウジスカルにいればいいのにと思った事がある。冗談でそんな事を口にすると、エリスは鼻で笑いながらこう言った。


「冗談じゃないわよこんな所。私はサッサと用事を済ませてナシェス様の下に帰るのよ。ナシェス様の命令じゃなきゃ誰がこんな所」


ナシェス様から戦争が始まると連絡が入った翌日、エリスはマリーに別れを告げ、その時絶対に国境には近づくなとコッソリ教えていたのを俺は知っている。


泣きながらエリスを抱きしめるマリーに戸惑いながら、本当はエリスも別れを惜しんでいた事も。


・・・・・・知ってたんだ。




「お前も元気そうだな? もう一人は来なかったのだな?」


「はい。アイツはまだ、無理ですから」


エリス。

お前が帰りたがっていた場所に俺はいる。


「そうか。それで? 何か用か?」


「会ったら、一言だけ言おうと思ってた事があるんです」


あんなに、戻って来たいと思ってたのにな?

来てみたら、ここはもう俺達の知ってるカスバールじゃなかったぞ? エリス。


「なんだ。言ってみろ」



それでも、この人にまた会えて良かった。



「俺達二人を、側に置いてくれてありがとうございましたナシェス様。どうか、御自愛下さいませ」


俺達二人は子供の頃からずっと奴隷として酷い扱いを受けて来た。


俺とエリスがナシェス様の側にいられたのは奇跡に近い僥倖だった。


本来なら俺達みたいな子供で、身分差がある気の利かない奴隷は皇族の護衛などにつくことは出来ない。


きっとナシェス様は邪魔にならない者なら誰でも良かったんだと思う。それでも、何度も命令を達成できない俺達をナシェス様は最後まで側に置いてくれた。


その間、少なくとも俺達二人は飢える事は免れた。

俺は、この人に感謝してるんだ。


サウジスカルに置いていってくれた事も。



「・・・私は謝らない。意味が無いからな。ただ一つだけお前に頼みたい事がある」


「・・・何でしょうか?」


デズロに、この方の事情を教えてもらった時、俺はやっとナシェス様の事が分かった。側にいた時この人はいつも物足りなそうだった。いつも、何かを探していた。


「エリスに"お前の事など忘れた。何処へでも好きな所に行くがいい"と。私は、必要ない事は覚えない。だから、昔の事は忘れた。お前も忘れろ」


良かったなエリス。

お前、ちゃんとナシェス様に、名前覚えて貰ってたんじゃん? 頑張って側に居た甲斐があったな?


「忘れるかどうかは分かりませんが、エリスには伝えておきます」


「あと、もし次に私に話をかけるのなら"チェシャ"と呼べ。私の名前だ。お前は?」


「え?」


二年前は自分がこんな形でまたナシェス様に会いに来るなんて思いもしなかった。


俺は、ここまで生き残れるとは思って無かったから。


「名前を教えろ。次は忘れない。本来の私は、超優秀だからな!」


エリス。

いつかお前もここに連れて来てやる。

だって、俺達この人にいつでも会いに来ていいんだってよ? 遠回しにそう言われたからな?



俺達は、もう望めば何処にだって行ける。

誰にだって、会いに行っていいんだよ。

だから、きっといつか。お前をここに連れて来る。

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