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最強薬師は絶対誰にも恋しない  作者: 菁 犬兎
第3章 翔ける想い
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ラシェンの記録

あの寄生虫を見つけたのはベルシャナの祖母にあたる人物で、彼女は寄生された者を哀れだから殺してやれと言った。


しかし、彼女はもうずっと王宮の外には出ておらず、気迷い事だと相手にされなかった。


しかしその数日後、彼女が名指ししたある村で大量に人が殺される事態が起こった。


村一つ滅ぼされたのじゃ。

当時の皇帝は直ぐその村を調べさせた。


すると、その村には生き残った者がいた。


それは1人の少女じゃった。

彼女は保護されて別の村で暮らしていたが事情を聞く為宮廷に連れて来られた。

そこで聞かされた衝撃的な事実。


彼女は、人間では無かったのじゃ。


あの村の人間を殺したのは彼女が寄生していた本体の少女じゃった。


彼女の本体は、とても陰気で影が薄く村の人々から辛く当たられていたらしい。


ある日彼女は、東にある大きな果物の実がなる森へ連れて行かれ籠一杯になるまで戻って来るなと置いて行かれたのじゃ。


彼女の父親は亡くなっており母は病弱でその村にとって彼女達は厄介者だったのじゃろう。


彼女は泣きながら森の先に進み霧の深い奥まで辿り着くと小さな沼を見つけそこで呟いたそうじゃ。


"いっそ生まれ変わりたい。何故誰にも愛されないの?"


彼女はそのままその沼に身を投げた。

そして、その石に触れた。


彼女でない者はこう言った。


「私達を寄生させた者は、本来の能力を際限なく発揮出来る様になる。本来なら抑えられているその力を使う事で、本体の人間の寿命を縮める事が出来るからだ。だが、それは全て本体が望んだ事。それに、私を寄生させて壊れるのは一部だけだ」


だが実際問題その壊される部分が人として生きる上で必要な場所じゃった。この話をお聞きになり、陛下は焦った。


もしかしたら、自分の妃も壊れているかも知れないと疑ってしまったからじゃ。

そこから秘密裏に寄生虫に関する調査が開始された。


儂はその頃から、あの東の沼について調べ監視している。


当時は儂も若く、陛下のお言葉ならばと黙って従った。

もっと考えて行動するべきじゃったと思っておる。


あの沼の寄生虫をあそこから持ち出すと仰った時に。


「もう何年もあの蟲は皇女を産む事で引き継いで来ている。つまり、彼の声を私達は聞いていないのだ」


始祖を継承する争いはずっと昔からあったのだろうな。

誰だって自分の体に自分とは違う者を寄生させたいなどとは思わない。だが、始祖は普通の寄生虫とは違い寄生させても何処も傷付いたりはしない。


ただ人よりも、優れた能力を発揮出来る様になる。


それが分かった時、その役目を自分の娘に与えて来た彼等の態度は変わった。始祖を我が者にしようと企み始めたからじゃ。


ベルシャナ様達はそれに巻き込まれた。


気付いたかのぉ?そう、本来ならばこの国の皇妃はベルシャナ様の姉で、皇帝陛下は彼女に選ばれた男がなる筈だったのじゃ。それに応えるように、ディムレムの子は必ず最初に女児が産まれる。始祖を受け継いだ子供が。


だが、それを良く思っていなかった者も多くいたのじゃ。


いつかカスバールが真実救われる、その日の為に彼を引き継ぐその使命が、まさかそんな風に歪められるとは始祖も思っていなかったじゃろう。


ベルシャナ様の姉君はアトレイア様がお生まれになる前に殺された。だが、それを発見したベルシャナ様が直ぐに始祖を自分に寄生させ彼女の身体からアトレイア様を助け出した。アトレイアとは、本来女性に付ける名前なのだ。だが助け出された赤子は、男だった。ベルシャナ様の姉君が女子を産むのを拒んだのかもしれぬ。その後ベルシャナ様は自分とアトレイア様以外の皇族全員を皆殺しにされたのじゃ。



そして、カスバールの闇の時代は幕を開けた。



「数が多過ぎて・・・浄化が間に合わないわ。それに、恐らく禁呪は既に発動している。供物が捧げられたのだから意味が無いのでは?」


「困ったのぅ。禍々しい雲がどんどん厚くなっておる。城下の者達に避難命令を出したが、間に合わぬかものぉ」


「呑気ね? 貴方本当に腕利き魔術師なの?」


煩いの?

後その言葉使い何とかして貰えんか?

期待して振り向いたら長身の男でガッカリじゃ!


儂はな? ぷりんぷりんを求めておるのじゃ!!


「・・・・アレは?」


アレ? 何の事じゃ?


「空に虹色の幕がかかっているみたいです。あんなの始めて見ましたです」


確かに、西側から徐々にこちらに広がって来るの?

しかし、悪いものでは、なさそうだがのぉ?


「アニラ殿! 無事でしたか?」


「・・・・はい。ですが、遅かったようだ。術は完成している。止めようにも、術者にも、もうどうにも出来ぬ様です」


古い本じゃのぉ。

流石は元尚書官。記憶力は抜群じゃな?


「アレを創り出す為にメリル様の力を奪ったと? 一体何が生み出されるのです?」


[・・・・人、ではないのか?]


「「「は?」」」


[いや。人と呼ぶには、歪だが。チェシャの知識を借りるとそう結論付けられるが? これは、死人を蘇らす術では?]


そんな事出来る筈なかろうに。

そもそも媒体になる器が・・・・。


「え? いや、まさか。でも、何の為に?」


仕方がないのう。

儂も向かうか。


「すまんの。ここで出来る事はこれ以上はないのぉ。儂はちょいと様子を見て来るとする」


「ラシェン様? 危険ですよ?」


「アニラが無事帰って来れたのじゃ、魔物は殆どお客人が倒したのじゃろ? お前達は引き続き宮廷内の浄化を行うのじゃ。今更逃げても手遅れじゃからな?」


輝く虹色の幕がこちらに近づいておるの?


アレは果たして何を意味するのか。


「全く。この歳になってこれ程こき使われるとはの?これも天命かのぉ?」


儂の言葉を全く聞き入れないベルシャナ様に、儂は諦めここを出た。そのツケが回って来ているのかものぉ?

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― 新着の感想 ―
[一言] アトレイアさまの名前、実は気になってたんですよね。そういうことか、と…。甥っ子には新しい名じゃなく、用意されていた名を贈ったんですね。名前は最初のギフトですもんね(*´-`)
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