ブリッツォはメリルに説教される
本当やんなるわよね?
リディが皇帝になってから薬室医療室に予算がろくに下りやしない。
それもこれもあの女、メリルとかいう魔術師のせいよ。
「今日はポーションを作るわよ。陛下が我等にもポーションを作るようにと、おっしゃられたわ」
「え?し、しかし、我々にはあのような形でポーションを作る事など出来ませんよね?」
「は!あんな物はポーションなどではないわよ。あんな形状のポーション、私は見たことも聞いたこともないわ。きっと陛下と民を騙したに違いないわ」
私達が正しい物を陛下にご提示して目を覚ましてあげましょう。そして研究費をもっと増やして頂くのよ!!
「たのもーーーーー!!!」
バァアアアン!!
シーーーーーーーーーン。
「誰?講義中よ?」
子供?見たこともない顔だわ。
一体どうやって部外者がここに?
「貴方がブリッツォ?ちょっと言いたい事があるんだけど?」
私の医療講義中に無礼にも乗り込んで来るとは何処の命知らずなのかしら?私の鼠の餌にでもなりたいのかしら?
「ん?何?この配合式。ポーションのつもり?うげぇ。なんじゃこりゃ」
「お前は何者なの?ここがこの宮廷の医療教室だと分かっているのかしら?」
「分かってるわよ。貴方クリオルに出来の悪いポーションを与えたでしょ?それだけじゃなく、そのまま放置したわね?その所為であの子の中グチャグチャになってたから私が綺麗に治しておいたわよ」
は?このちびっ子、さっきから何を言っているの?
そもそもアンタ何者?
「さっきから訳のわからないことを・・・誰かこの女追い出して。牢屋にでも入れておきなさい」
「貴方馬鹿なの? まさか、私が言っている事が理解出来ないのに医療官長とか勤めてんの? 呆れた! ここは無能の集まりなの?」
ざわり。
小娘。お前命が惜しくないようね?
「お前。今すぐ私に殺されたいのかしら?その生意気な口を閉じなさい?」
「私は事実を言ったの。大体誰なの?こんな足りないものだらけの配合式をポーションだと言った奴!!」
「は?コレは魔法医学書に・・・・」
バァアアアン!!
な!何?この女突然。塗板を破壊するつもりなの?
ちょっと誰か兵士を呼べ!!
「ココ!!まずこの数式が違う!ここはこう!そしてこんな式は要らない!!つまり、最初から書き直すと正しい配合式は・・・・・・」
カッカッカッカッカカカカカッ!!ドン!
「こうなる!!黙ってこの通り作ってみなさい!!」
「「「な!?」」」
え・・・・・・・・え? ちょっと待ちなさいよ?
この配合式・・・え? 確かに理屈はコレで合ってるわね?
で、でも、こんなの初めて目にしたけれど?
ちょっと試しに作ってみるわよ?
あ、あら?なんでこんな簡単に?
しかもコレは・・メリルとかいう女が作ってたものと同じ・・・・。
「凄い・・・俺にも簡単に作れた・・・」
「わ、私も。今まであんなに時間がかかったのに・・・」
「あったり前よ! わざわざ無駄に遠回りした挙句、最終的に水に戻してたんだから。アンタら無駄な事して、そんな楽しい?」
な、なんですって!!ポーションだと思って作っていたものがただの水?栄養剤ですらないと?あり得ないわ!
「あ、アンタなんなの?一体・・・ハッ!クリオル?」
ちょっと待って?私、確か数日前にクリオルにメリルから薬を貰って来いと命令してたんだったわ。すっかり忘れてたけど・・・え?ちょっと待って?じゃあ・・・・タラリ。
「どいつもこいつもちゃんとした魔力を保持してるのに全く活かしきれてない。役に立たない教材で薬草をドブに捨てるその行い・・・・許すまじ!!」
「メ、メリル様!! お、落ち着いて下さい! 皆、状況が把握できておりませんので!」
「貴女がメリル?アンタみたいなもやし女が?」
「ブリッツォ! 何をやっている! メ、メリル様! 申し訳ありません! 何があったか分かりませんが、お怒りをお納め下さいませ!!」
え?宰相様が何故ここに?
あら?私もしかして大ピンチかしら?
「コレもコレもコレモォー!!! 全部デタラメじゃない!! 何年前の医療書だコラ! こんなもん使うくらいなら薬草を直接肌にのせた方がまだマシだアホがーーー!!」
え?そこまで酷い?
でも今までこの教材と魔法で人を治療してきたけれど?
その中身が全部嘘だったと?
スンッ
「馬鹿らし。時間の無駄だった。私部屋に帰ろ。それで調合の続きしよ」
え!?貴女帰るの?ちょっと待ちなさいよ! ここまで言ったなら最後まで処理して行きなさいよ!
この本どこまで間違ってるのよ? 他は?
「ま、まさか放置して帰るの? 貴女薬師なのよね?」
「・・・・そうだよ。でも納得した。なんでクリオルの体がおかしくなってたか。ちゃんと出来てるって疑わないで渡してりゃ、ああなるわ。救いようがなさすぎる」
物凄く馬鹿にされていると分かっているのだけれど、何故かしら?私、なんだか胸の動悸が治まらないわ。
「この国の宮廷の薬室長ともあろう者がその程度じゃ、この国は駄目ね。残念すぎる」
なんて冷ややかな侮蔑の眼差し。
「医療に従事する者は進化の手を止めてはならない。アレをおかしいと疑わなかったアンタ達と、まともな話なんて出来はしないわ。私、無駄な事はしたくないの」
「メ、メリル様お待ち下さい!」
「ちょっとメリル様〜?勝手に突入して勝手に帰るッスかぁー?知りませんよ?どうなっても〜」
「す、すみませんブリッツォ様。後でちゃんと報告に参りますので!メ、メリル様〜!!」
バタン。
「・・・・・・・・」
「あ、あの?ブリッツォ様・・・お気を確かに」
「な、なんなの・・・あの、女・・・」
突然私の講義に乗り込んで来て・・・あんな、あんな美しい配合式を見せつけて・・・散々人を罵倒して。
「す、素晴らしいわ。なんて女・・・ほしい」
「「「は?」」」
こ、こんな気持ち初めてだわ!
あんなチビでひょろひょろで、女らしさのかけらもないガキんちょに・・・・。
トキメキ度マックス!!
「ちょっと私用事があるからアンタ達はこの配合式でポーションを作ってなさい! この後の講義は自習!!」
「お待ち下さい! 駄目ですよ? あの方は絶対手を出しちゃ駄目ですからね? ブリッツォ様」
煩い! 私決めたわ。あの子が欲しい!
私メリルを手に入れるわよ!




