テゼールは白旗をあげる
「さぁさぁ遠慮せずに食べてね? ティファも偶には人の作った料理食べたいでしょ? 私、久し振りに張り切りすぎてご飯作り過ぎちゃったわぁ」
「はい! あの、でもセシリアさん起きたばかりで身体は大丈夫なんですか?」
「それはもう! メリルちゃんが私の身体を治療してくれた時直ぐに動けるようにしてくれたのよ〜メリルちゃん本当に凄いわ! こんな可愛くて優秀な娘さんを二人も持つご両親が羨ましいわ〜」
今、私達はティファの婚約者のハイトの屋敷に招かれもてなされている。
何故こんな事態に陥ったかといえば、メリルがハイトの母親セシリアを治療し完治させ、オマケに日常生活を問題なく過ごせるようにしたからだ。
そんな訳で私達はその御礼にと招かれたのだが。
「でも、デズロ様をお呼びできなくて、とても残念だわ。セルシス様の体が治癒したとはいえ、まだ皇族の方との不用意な接触は避けた方が良さそうだもの。御免なさいね?」
「あはは! 構わないわよ。デズロが来たら五月蝿くて敵わない。ねぇ? テゼール?」
「そうだな。迷惑になるから、結果的には良かったのだろうな」
「すみません。母も強引に誘ってしまって。動けるのが嬉しくてたまらなかったみたいで。どうぞ寛いで下さい」
ハイトの母親が私達を食事に招いたのは、まぁしょうがないとしても、これではまるで、本当にお互い家族同士の顔合わせをしているようで私は全く落ち着けない!
私はまだティファとハイトの結婚を認めた訳じゃないぞ!
「メリルさんもそんな緊張しないで、どうぞお好きな物を食べて下さい? メリルさんは食が細いと伺ってますので、残しても大丈夫ですよ?何か取りましょう」
「え? いや、お、お構い無く・・・・」
メリル・・・・お前自分がした事が結果ティファとハイトの結婚を早めた事にさっき気付いたな? それまで全く頭になかっただろ? 完治ハイになってたからな?
しかもセシリアさんと仲良くなっただろ?
お前、いくらなんでもうっかりしすぎじゃないのか?
「メリルさんには本当に、どんなに感謝しても、感謝しきれないですから。さぁ、皆さんもどうぞ」
「そうね。美味しそうだわ、頂きましょう?」
「はい! 頂きます!」
なんだろうな。
とても歓迎されているし終始笑顔のハイトのご両親だが、その裏に秘められたものをヒシヒシと感じられるのは、私だけでは無いはずだ。特に、ハイトの父親に関してはそれが顕著に現れている。笑顔が、怖いんだ。
メリルも狼狽えさせる強引さだぞ?
ハイトさては、実は父親似ではないのか?
「あ、コレ美味しいですね? 私こんな味付けした事がないです。コレはどうやって作ったんですか?」
「お? 流石ねティファ。実はコレこの国の料理じゃないのよー?」
この二人もとても相性が良さそうだな?
まるで、本当の母娘のようだ。
いいのかマリオーネ。お前母親として負けてるぞ?
「ん? テゼール食べないの? コレ美味しいわよ? テゼールも作り方教わって私に作って? 」
そうだな。マリオーネはそうだな?
お前、実は自分の事以外はどうでもいいんだろう?
分かってた。分かってたが、悲しい。
「すごい。昔食べたのと同じ味だ。何年も経つのに、味付けを覚えてたんだ? 母さん」
「そりゃね? コレは全部ハイトの為のものだもの。忘れる訳ないわよ?」
この女性が、この国の大樹をずっと守って来た一族なんだな。カスバールから運んで来た大樹をずっと見守り続けた血族。本来なら、マスカーシャの役割だった大樹を守る使命。
「テゼールさん? どうしたの? お口に合わなかったかしら?」
「いえ、とても美味しいです。私にも作り方を教えて頂いても?」
「あら? では、レシピをお持ち帰りになりますか? テゼールさん達は明日此方を出られるのですよね?」
そうなんだ。
私達はメリル達より先にここを出る。
メリルが此方にいる間怪我人が出た時マリオーネが居れば安心だからな。
「いえ、わざわざその様な物を用意して頂くのは手間になります」
「いえいえ? そんな手間ではありませんから。手元にあるレシピを差し上げますわ。私全てのレシピは頭の中にありますので、ティファには後で私が教えます。お気になさらないで下さい。あ、でもお急ぎでないなら彼方にお送りしましょうか?荷物になりますものね?」
メリル。さり気なく私を睨みつけるのは、やめてくれ。
しょうがないだろう? コレは完全にそういう空気だ。
ハイトの両親の中でティファは既に自分の娘として認識されている! そして、私達は隣の国の親戚だな? そうなんだな?
「で、では。お言葉に甘えさせていただきます」
「私、テゼールさんには負けません! セシリアさんの料理を見事に再現してみせます!」
「あら? 嬉しいわ〜ハイト良かったわね? ティファが私の料理を覚えてくれるから、いつでも私のご飯食べられるわよ? いい奥さんだわ〜」
「ひょえ?」
何処から声出した? ティファ。お前まさか、今声をかけられるまで気付かなかった訳じゃ、ないよな?
「母さん。まだ奥さんじゃないよ? ティファ真っ赤になってるから、揶揄うのやめてあげて」
「あら? そうなの? ティファの家族が来るって言うからテッキリそうなのかと。早とちり?」
「ふふふ。ティファに顔合わせをして欲しいと言われてたから構わないわ。こちらこそ御免なさいね? 初めての体験で約3名挙動不審なのは気にしないでもらいたいの。私達も、カスバールでは普通の生活を送っていなかったものだから、普通に家族が嫁ぐなんて考えた事もなかったのよ」
「・・・・そうなのね。やはり・・・私達の所為で」
ゼクトリアムは、大昔カスバールから大樹の種を此方に持ち帰ってしまった先祖だと聞いている。だが、だからと言って責める気にはなれないな。
「誰の所為でもないんじゃない? だって、誰も知らなかったんだから。それに、それに見合うだけ皆、苦しんで来た。解決したなら、それでいい」
「・・・メリル」
「ハイトさん、私に感謝してね? 私が妖精を無視したお陰でお姉ちゃんと出会えたんだから。もし、そうでなければ、ここに来たのは私だったかも知れない。きっとそれでは、駄目だったから」
お前、そんな事考えていたのか?
そんな事、ないと思うぞ?
お前もティファに負けず劣らず可愛いからな!
ム?それはそれで気に入らないな!




