テットは少しウンザリする
「遠路はるばるご苦労様! ゴメンねメリル、何度もこちらの都合で迷惑かけて」
えーと。あ、こんにちはッス。
テットッス。
今、俺達サウジスカルの皇帝陛下に謁見の場に呼ばれて来てるんっすけど、この国の皇帝様、気が抜けるほど気さく。驚く程フレンドリー。エルハド様もそうだったけど、サウジスカルの皇族の威厳ってどこに行ったんすか?
「いえいえ。此方こそ姉がご迷惑をおかけしてます。とても良くして頂いたそうで、本当に有難うございます」
メリル様。
猫、被ってるっすね?
数時間前までティファさんに付きまとってビービー泣いていた人とは思えないッス。
最早別人、二重人格なんですか?
「リディ殿の事はそれ程心配しなくても大丈夫だよ? 俺の兄と弟がそちらに着いたみたいだからね? 君達が帰るまでは彼方に滞在させてもらう事になったから」
「「え!?」」
いやいや? この人何言ってるんすか?
・・・・今、サウジスカルの重要人物二人をカスバールに送ったって言わなかった? そんな馬鹿な。
「あ、あの。そんな恐れ多い・・・殿下にもしもの事があったら、大変な事になりますが?」
「そうだね? それも視野に入れて送ったんだ。まぁ、簡単にはやられないよ? あの二人父様に似て強いから。騎士ほどじゃなくてもね。それに、リディの為になると思ってさ。話に聞いたら彼方にはまともな大人がいないんでしょ? 国を一から立て直すのにその知識は必須だよね? だから、それを教えられる者に行ってもらった。カスバールの国宝を貸してもらうんだから、当然の処置だよね?」
国宝? え? メリル様が? なんだかとても大袈裟な話になってるッスね? まぁ確かに、それぐらいの価値はあると思いますけど。
「あとメリル。いつも通りでいいよ? 此処では皆基本敬語は使わないんだ。俺の父の代からだけど、他国の賓客でもない限りは皆タメ口だよ?」
「え? そうなの? それは、大丈夫なの?」
「メリルはティファの妹で、デズロ様の姪だからね? カスバールともいい関係を築きたいと思っているし、仲良くして欲しいな?」
懐が広いッス。
リディ様もそうだと思ってたっすけど、サウジスカルの人達って皆本当に穏やかッス。それなのに戦闘モードの途端豹変するッスから、油断大敵ッス!
「私、本当にただの庶民なんだけど、それでもよければ。そういえばセルシス様お体はもう大丈夫ですか?」
「アレ?もしかして、俺が大樹に操られてた事聞いた? そうなんだよ〜まんまとこの国の精霊にはめられてさぁ? あ、でももう大丈夫だよ?」
「もしよかったらチャチャっと触診してみます? 悪いところはついでに治しておきますけど?」
「え? いいの? 貴重な能力なんでしょ?」
「?使わなければなんの意味も持たない特技なので。あ、無理にとは言いませんが?」
メリル様、心臓強いッス。
流石に周りの官僚達ざわついてるッスよ?
そこまでは、信用されてなさそうッス。
「よいしょっと。じゃ、診てもらおうかな? そちらに降りればいい?」
「あ、はい。ここで診察しても大丈夫なら」
本当に玉座から降りて来たッスよ?
メリル様なんで診るなんて口にしたんすか!
「少し、おでこに触ります」
「うん? 構わないよ?」
ウォンッ!
わざわざ触診しなくてもここにだって、ちゃんと医療官はいるのになぁ。その人達に目を付けられるッスよ?
ただ、診たいだけだとは、思いますけども。
「・・・・・・セルシス様・・・」
「うん?」
「私、天才なんです」
おーーーい! ちょっとメリル? また自画自賛? 他国の皇様の前でもそうなんっすか? やめて下さいよ。そういうのは身内だけでお願いします!
「ありゃ? もしかして、分かったの? 俺もよくわかってないんだけど? 俺病気?」
「「「え!?」」」
「・・・・はい。原因は分からないけど、生命力が徐々に削られてる・・・直ぐにここの医療官を呼んで下さい。あと、ハイトさんを呼んで来て」
やっぱメリルだなー!相手を見ただけで病人を判別するのやめないッスか? そんなに病人を治したいッスか?
「セルシス様? 一体、先程から、なんの話されてるんです?」
「私が一目で原因が分からないって事は、恐らく大樹が関係してるのかも。このまま放置してたらセルシス陛下は近い内に動けなくなる。あと、もしかして陛下以外に大樹の影響を受けてる人はいない? 僅かにだけど、陛下の体から細い糸みたいなのが出てる。誰かに繋がっているのかも」
俺、のんびりしたかったんだけどなぁ。
これは、ちょっと無理っぽいッス。
「失礼します。メリルどうしたの? さっき別れたばかりなのに」
「ハイトさん大樹の生まれ変わりなんだよね? セルシス様の体多分大樹の影響で弱ってるみたいなんだけど、何か思い当たる事ないかな?」
「「「え!」」」
「・・・・それ、本当に? いや、大樹の枝もちゃんと消えたし、それ以外は、特には」
あ、そういう事か。
この人人外でしたっけ?
「ハイトさんの一族って確か大樹の核を守ってたんだよね? 大樹がなくなってそれを守っていた人って今元気?」
「いや。核を守ってたのは僕の母なんだけど、数年前眠りについたまま目覚めてないよ。大樹が、無くなった今も」
「ふん? 成る程・・・・もしかして、その所為かも」
「どういう事ッスか?」
「レインハートとゼクトリアムの事は詳しく聞いてないから確信は出来ないけど、大樹と繋がりがなくなったハイトさんのお母さんの体を、セルシス様が守ってるんだと思う。だって、いくらなんでも何年も寝たきりで生きてられるなんて、普通じゃないもん」
皆さん驚愕で固まってるッスよ?
ハイトさんも、流石に驚いてます。
「え? でも、なんでセルシス様? ヴァンディルではなく?」
「さぁね? 兎に角急いでハイトさんのお母さんの所に連れてって?」
「うちに来てどうするつもりなの?」
いや。この流れは、分かるでしょう?
この人自分の事天才って公言しましたからね?
「え? そんなの起こすに決まってる。じゃなきゃ本当に私の考えが正しいって証明出来ないでしょ?」
いや。
そうなりますよ。そうなんです。俺もこんな感じでこの人に散々振り回されてるッス。
ティファさんがその場に居なかったのが、残念でしたね?
俺、ハイトさんの事よく知らないですけど、アレは多分もう二度と見れない表情だと思うッスよ?
本当に、起こしちゃうんだから。
この人とんでもないッスよ。カスバールに帰れなかったらどうしてくれるんすか。勘弁して下さいッス。




