謝罪のその先は
シオン少年の劇的な勝利から一日。
とりあえず、当座の憂いがなくなったシオン少年は、のんびりしていた。
場所は、魔法課の訓練所。
ほかの生徒が鍛錬に勤しむ姿を見ながら、一人日向ぼっこ。
そんなシオン少年に声をかける存在がいた。
「あ、あのさ」
「うん? 君は……昨日の試合の?」
ディネ・ニール。
昨日の模擬試合で、打ち負かした相手だった。
彼は、どこか所在なさげな感じで立っている。
シオンは不思議に思う。
僕が謝ることはあれど、逆はないだろう、と。
「どうかしたの」
「昨日、おまえのこと馬鹿にして、ホントごめん!」
「……そんなのあったっけ?」
シオン少年は、昨日の試合を振り返った。
馬鹿にされた記憶はない。
強いて言うなら、大したことないヤツって言われたぐらい。
だが、シオン少年は、これが中傷だとは思っていなかった。
日陽と月陰。
相反する魔法属性を使える資格があるだけで、シオン自身は大したヤツでもなんでもないからだ。
「おまえ、すっごく強かったから。やっぱり二属性使えるのはかっこいいな」
「そんなことないよ。ただ両方とも適性があっただけで、まだ勉強中だし」
「そうか? だって、ファイアスを打ち消したってことは、あれは階級の高い魔法なんだろ? まだ習ってないはずじゃんか」
そう、ムーンディレイとミッドナイトは、一年生のうちに覚えられる魔法ではない。
二年生、三年生と上がっていくうちと、やっと高度な魔法を扱えるようになるのだ。
教師の目のもとで。
今回、一年生相手に、学習前の第二級魔法と第三級魔法を使ったことで、シオン少年はしこたま怒られた。
一方で、研究熱心な態度を褒められもして、シオンは思ったのだ。
苦手だった日陽属性の勉強も始めてみようかな、と。
「僕こそごめんって言わないとね」
「え?」
「怖かったでしょ? ミッドナイトは命中率の高い魔法だから」
「最後の魔法か? うーん、まあ、怖かったけど、オレは降参したから」
「こうさん?」
「え、ほら、試合中に降参っていうと、保健室に転送されるやつ」
ディネ少年が身振り手振りで説明する。
知ってるだろ? と横を見るが、シオン少年はきょとんとしている。
初めて知ったよ、その言葉にディネ少年が崩れ落ちる。
心配したシオン少年は、彼に隣の椅子を勧めた。
よろよろ立ち上がり、ディネは座る。
「ええー。やけに粘るなーって思ってたけど、まさか知らなかったなんて」
「君が消えた理由は、そういうシステムがあったからなんだね」
「じゃ、じゃあさ。いままでどうやって戦ってたんだよ?」
「普通に。HPギリギリまで頑張る」
「あのさ。魔術師って相性があるから、負けそうな試合はパスするのが普通だぜ?」
「そうなんだ」
淡々としたシオン少年の応答に、ディネ少年は不安になってきた。
そもそもこのシステムは、初回の授業で紹介されたもので、たぶん、全生徒が知っているはずである。
隠れシステムでもなんでもないのだ。
ついでに言うと、学園の掲示物として、あちこちの壁に貼られている。
『ダメだと思ったら、即、降参!』
スタジアムの扉にも貼ってあるのだから、これを見ていないはずはないのだが。
「命、第一! ってポスター見たことない?」
「学園のあちこちに貼ってあるね」
「よく見たことは?」
「ないね」
簡潔すぎる。
ディネ少年は心配になって尋ねた。
「もしかして、怒ってる?」
「え? なんで? 僕、いつもこんな風だけど」
「あ、そ、そうなんだ。いや、オレの家族にそういうヤツがいてさ……」
「ふーん、お姉さん?」
「いや、兄貴もそうなんだよ」
謝罪から弾む会話。
ディネ少年とシオン少年は、時間が来るまで目いっぱい話し続けた。
またね、またな。
手を振りあう少年たちのなんと和やかなことか。
美しい青春であり、友情だった。
やがて二人が仲良くなり、果てには、伴だって同じ仕事に就くことになろうとは。
いまは誰も知らないのである。




