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環境魔法とはなんぞや  作者: 紅藤
少年たちが環境魔法でバトルする話
3/4

環境魔法の使いかたはひとつじゃない

 

 国唯一の職業学校、通称“学園”。

 そこには、冒険者になるため、国に仕えるため。

 様々な目的を持った人物が集まる。

 もちろん、特別な目的はなく、入ってから決める人もいる。

 今回、お話に出てくる二人の少年たちは、そうだった。

 名門の生まれ、ディネ少年。

 月陰と日陽の使い手、シオン少年。

 なんの接点もなかった二人が出会ったのは、授業の模擬試合。

 スタジアムのなかであった。




 学園のスタジアムは大きい。

 昼休みに開催された模擬試合は、観客でいっぱい。

 見に来たのは、同じ授業を受けている生徒たち。

 それから、担当教員と、暇な教師たち。

 特に同じ学課でもないけれど、戦闘が好きな生徒。

 とにかく、スタジアムの観客席はほとんど埋まっていた。


「ファイアス!」

「うう、スターシール!」


 戦っているのは、魔法の術を極める魔法課の生徒たち。

 双方の撃った魔法がぶつかり合い、相殺される。

 遠距離から放たれた魔法は、相手に届くことなく地に落ちる。

 スタジアムの床にクレーターが並ぶこの状況は、膠着しているといえる。

 だが、素人目に見ても、どちらが優勢か分かるぐらい、生徒の士気は違った。


「日陽と月陰を使うからって、ちょっとビビったけど」

「ぐ……スカイシールド!」

「大したことないな、おまえ!」


 そう言って挑発するのは、ディネ・ニール。

 ニール家の三男で、親に言われて入学した彼には使命があった。

 半年以内に、生徒同士の対戦で五回勝つこと。


 本当は学園初日の対教師戦で勝ってほしかったようだが、彼の入学年にはスカイアドベンチャーと言う冒険者一行が大暴れしており、教師の対応が厳しめになっていた。

 ディネ少年は、かなりガチで攻撃してきた担当教師に勝てず、追加の課題を頂いたのだ。

 家庭から。


 もうすぐ三ヶ月。

 勝った試合は二つ。

 そろそろ三回目の勝利を飾らないと、自宅で身の危険を感じることになってしまう。


「えい、ホットフィールド!」

「炎属性の環境魔法……。なら、僕も……ダークフィールド!」

「この空の下なら、オレの炎のほうが強い!」


 シオン少年は空を見上げる。

 太陽が燦然と輝き、雲はない。

 シオン少年の得意とする魔法は、月陰属性。

 月と星夜の下で最大の力を発揮する月陰属性は、日中の今、あまりにも頼りなかった。


「ファイアス!」

「スターシール! ……だめか」


 相殺を狙って魔法を放つが、シオン少年のスターシールは火球に飲み込まれる。

 目前に迫った魔法攻撃を避けられるほど、魔術師というジョブは機敏ではない。

 火の玉はシオン少年にぶつかり、シオン少年はスタジアムの壁まで追い詰められた。

 もう、あとはない。

 それに、シオン少年のHPも限界だった。

 よろよろと立ち上がって、土ぼこりの向こう側をにらむ。

 意思ぐらいは負けないでいたい。

 淡い願いが聞き届けられたのか、スタジアムが急に暗くなる。

 雲が太陽を隠したのだ。

 いまなら、さっきより月陰の威力は強くなる。

 シオン少年は、詠唱を始めた。


「やりすぎちゃったかな……?」


 盛大な土ぼこりの向こう側では、ディネ少年が年相応の心配をしていた。

 しかし、それが勝者のおごりであったことを、少年は知らなかった。


 油断した一瞬、魔法陣が飛んでくる。

 それは、環境魔法の魔法陣。それも上昇させるほうの環境魔法だ。


 ディネ少年は、それが自分に飛んでくる理由が分からなかった。

 色まで判別できていたら、その混迷はなお深まったことだろう。

 飛んできた環境魔法は、日陽属性。


 この薄曇りの天気のなか、太陽を力とする日陽属性を上げたって仕方がない。

 それに、ディネ少年は日陽属性魔法を扱えない。

 かくして、まったく意味をなさない環境魔法が発動し、ディネ少年の日陽の属性値を上げた。

 ディネ少年の日陽属性の威力が上がり、耐性も強化された。


「はあ、はあ……。行け、ムーンディレイ!」


 戸惑うディネ少年を、月陰、第二級の魔法が襲う。

 ディネ少年はファイアスで対抗するが、残念、ファイアスは第一級魔法。

 威力の弱いファイアスは、白い光を放つ三日月みたいな衝撃波に飲み込まれた。

 慌てて魔法防御を上げる補助魔法を唱えるが、間に合わない。

 ディネ少年は壁際まで吹っ飛んだ。


「今行くしかない!」


 シオン少年が壁を蹴り、目を回すディネ少年に突撃していく。

 唱えている魔法は、追撃の月陰魔法だろうか。

 観客の一人が、シオン少年を応援し始めた。

 波は広がっていく。

 雰囲気も変わる。

 そして、天気すらも変わった。

 太陽にかかっていた雲が動いて、ディネ少年のほうにだけ日が差す。

 シオン少年が足を止めた。

 足元は暗く、空は曇っている。

 月陰属性にとっては、最高の天気だった。


「ミッドナイト!」


 月陰属性、第三級の魔法が放たれた。

 黒い靄がディネ少年を包み込む。

 ディネ少年にはもう、迫りくる暗闇を退ける手段がなかった。


 ファイアスでは絶対に勝てないし、第二級以上の魔法はまだ習っていない。

 月陰属性の威力を軽減する環境魔法は使えないし、空からの光と、さきほどの環境魔法が日陽属性の属性値を押し上げ、月陰の耐性を著しく下げている。

 じわじわと距離を縮めるミッドナイトは、ディネ少年を囲んでおり、いまさら動いても気絶するタイミングを早めるだけ。


「ああ、また負けちゃった……」


 負けを悟るディネ少年。

 小さく「降参」と唱えると、ディネ少年は転送された。


「あ、あれ?」


 ミッドナイトが消えたあと、対戦相手も消えてしまったシオン少年は驚いた。

 きょろきょろと辺りを見回し、不思議がっている。

 実は、シオン少年、いつも気絶するギリギリまで粘るので、降参システムを知らないのだ。

 途方に暮れるシオン少年の肩を誰かがたたいた。

 振り返ると、そこにいたのは授業の先生。

 まだ、現状が理解できていないシオン少年に、教師は言った。


「よく頑張ったな。授業は合格だぜ」

「え……。あ、僕、勝ったんだ……」


 吐息のように呟いて、シオン少年はほのかに笑った。

 全履修生92名のうち、36番目の合格者であった。


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