環境魔法の使いかたはひとつじゃない
国唯一の職業学校、通称“学園”。
そこには、冒険者になるため、国に仕えるため。
様々な目的を持った人物が集まる。
もちろん、特別な目的はなく、入ってから決める人もいる。
今回、お話に出てくる二人の少年たちは、そうだった。
名門の生まれ、ディネ少年。
月陰と日陽の使い手、シオン少年。
なんの接点もなかった二人が出会ったのは、授業の模擬試合。
スタジアムのなかであった。
学園のスタジアムは大きい。
昼休みに開催された模擬試合は、観客でいっぱい。
見に来たのは、同じ授業を受けている生徒たち。
それから、担当教員と、暇な教師たち。
特に同じ学課でもないけれど、戦闘が好きな生徒。
とにかく、スタジアムの観客席はほとんど埋まっていた。
「ファイアス!」
「うう、スターシール!」
戦っているのは、魔法の術を極める魔法課の生徒たち。
双方の撃った魔法がぶつかり合い、相殺される。
遠距離から放たれた魔法は、相手に届くことなく地に落ちる。
スタジアムの床にクレーターが並ぶこの状況は、膠着しているといえる。
だが、素人目に見ても、どちらが優勢か分かるぐらい、生徒の士気は違った。
「日陽と月陰を使うからって、ちょっとビビったけど」
「ぐ……スカイシールド!」
「大したことないな、おまえ!」
そう言って挑発するのは、ディネ・ニール。
ニール家の三男で、親に言われて入学した彼には使命があった。
半年以内に、生徒同士の対戦で五回勝つこと。
本当は学園初日の対教師戦で勝ってほしかったようだが、彼の入学年にはスカイアドベンチャーと言う冒険者一行が大暴れしており、教師の対応が厳しめになっていた。
ディネ少年は、かなりガチで攻撃してきた担当教師に勝てず、追加の課題を頂いたのだ。
家庭から。
もうすぐ三ヶ月。
勝った試合は二つ。
そろそろ三回目の勝利を飾らないと、自宅で身の危険を感じることになってしまう。
「えい、ホットフィールド!」
「炎属性の環境魔法……。なら、僕も……ダークフィールド!」
「この空の下なら、オレの炎のほうが強い!」
シオン少年は空を見上げる。
太陽が燦然と輝き、雲はない。
シオン少年の得意とする魔法は、月陰属性。
月と星夜の下で最大の力を発揮する月陰属性は、日中の今、あまりにも頼りなかった。
「ファイアス!」
「スターシール! ……だめか」
相殺を狙って魔法を放つが、シオン少年のスターシールは火球に飲み込まれる。
目前に迫った魔法攻撃を避けられるほど、魔術師というジョブは機敏ではない。
火の玉はシオン少年にぶつかり、シオン少年はスタジアムの壁まで追い詰められた。
もう、あとはない。
それに、シオン少年のHPも限界だった。
よろよろと立ち上がって、土ぼこりの向こう側をにらむ。
意思ぐらいは負けないでいたい。
淡い願いが聞き届けられたのか、スタジアムが急に暗くなる。
雲が太陽を隠したのだ。
いまなら、さっきより月陰の威力は強くなる。
シオン少年は、詠唱を始めた。
「やりすぎちゃったかな……?」
盛大な土ぼこりの向こう側では、ディネ少年が年相応の心配をしていた。
しかし、それが勝者のおごりであったことを、少年は知らなかった。
油断した一瞬、魔法陣が飛んでくる。
それは、環境魔法の魔法陣。それも上昇させるほうの環境魔法だ。
ディネ少年は、それが自分に飛んでくる理由が分からなかった。
色まで判別できていたら、その混迷はなお深まったことだろう。
飛んできた環境魔法は、日陽属性。
この薄曇りの天気のなか、太陽を力とする日陽属性を上げたって仕方がない。
それに、ディネ少年は日陽属性魔法を扱えない。
かくして、まったく意味をなさない環境魔法が発動し、ディネ少年の日陽の属性値を上げた。
ディネ少年の日陽属性の威力が上がり、耐性も強化された。
「はあ、はあ……。行け、ムーンディレイ!」
戸惑うディネ少年を、月陰、第二級の魔法が襲う。
ディネ少年はファイアスで対抗するが、残念、ファイアスは第一級魔法。
威力の弱いファイアスは、白い光を放つ三日月みたいな衝撃波に飲み込まれた。
慌てて魔法防御を上げる補助魔法を唱えるが、間に合わない。
ディネ少年は壁際まで吹っ飛んだ。
「今行くしかない!」
シオン少年が壁を蹴り、目を回すディネ少年に突撃していく。
唱えている魔法は、追撃の月陰魔法だろうか。
観客の一人が、シオン少年を応援し始めた。
波は広がっていく。
雰囲気も変わる。
そして、天気すらも変わった。
太陽にかかっていた雲が動いて、ディネ少年のほうにだけ日が差す。
シオン少年が足を止めた。
足元は暗く、空は曇っている。
月陰属性にとっては、最高の天気だった。
「ミッドナイト!」
月陰属性、第三級の魔法が放たれた。
黒い靄がディネ少年を包み込む。
ディネ少年にはもう、迫りくる暗闇を退ける手段がなかった。
ファイアスでは絶対に勝てないし、第二級以上の魔法はまだ習っていない。
月陰属性の威力を軽減する環境魔法は使えないし、空からの光と、さきほどの環境魔法が日陽属性の属性値を押し上げ、月陰の耐性を著しく下げている。
じわじわと距離を縮めるミッドナイトは、ディネ少年を囲んでおり、いまさら動いても気絶するタイミングを早めるだけ。
「ああ、また負けちゃった……」
負けを悟るディネ少年。
小さく「降参」と唱えると、ディネ少年は転送された。
「あ、あれ?」
ミッドナイトが消えたあと、対戦相手も消えてしまったシオン少年は驚いた。
きょろきょろと辺りを見回し、不思議がっている。
実は、シオン少年、いつも気絶するギリギリまで粘るので、降参システムを知らないのだ。
途方に暮れるシオン少年の肩を誰かがたたいた。
振り返ると、そこにいたのは授業の先生。
まだ、現状が理解できていないシオン少年に、教師は言った。
「よく頑張ったな。授業は合格だぜ」
「え……。あ、僕、勝ったんだ……」
吐息のように呟いて、シオン少年はほのかに笑った。
全履修生92名のうち、36番目の合格者であった。




