表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
環境魔法とはなんぞや  作者: 紅藤
環境魔法について解説している小説
2/4

 

「使う・使わないで思い出したけど、弱点ボーナスってあるじゃん?」

「ああ、上のほうでも言ってたな、そういえば」

「実は、この弱点という概念は、環境魔法と深いつながりがあるのだ」

「そうだっけ?」


 舟長が首をかしげているが、魔法使いは構わず言った。

 ふふふ、という妖しげなほほえみを浮かべて。


「例えば、火山地帯に行くと勝手に炎の属性値が上がるんだけど」

「炎属性の魔法を撃つのに有利な環境が整った、ってことだろ?」

「うん。それと同時に、炎魔法への耐性が上がるんだ」

「なるほど、だから炎属性のモンスターには炎が効きにくいんだな」


 属性値は、高ければ高いほど、属性の威力が高まり、相手の攻撃を軽減する。

 逆に低ければ、属性の威力は出ないし、相手からも手痛いダメージを受けることになる。

 つまり、属性値とは、上げとけば損のないステータスなのだ。


「いくら威力が強いからって、炎魔法を放つんじゃ、全然効率よくないよね。そのために生み出されたのが、弱点という考え方なんだ」

「ふむ。弱点にそんな深い意味があったなんて、いま知ったぞ」

「舟長、ちゃんと勉強しといてよ」

「おまえらは知ってたのか?」

「ううん、初耳」


 舟長がアサシンに飛びかかる。

 剣士が颯爽と避けて、もみ合っているカップルを冷たい視線で見つめる。


 だ、だって、うちでリサーチ持ってるの舟長だけじゃん!

 だけではないだろ! オレが主にその役目を負ってるだけで!

 そ、そりゃあ、ボクもリサーチアビリティは持ってるけど!

 じゃあ、一緒にあとで勉強会な。

 やぶへび!


 ちなみに、このパーティーは全員リサーチ……弱点判明アビリティを持っているので、このあと魔法使いを教師役にして、全員でお勉強会である。

 残念だったね、舟長。

 二人っきりの勉強会で、あんなことやこんなことをしようとしていたんだろう?


「妄想も甚だしいわ!」

「舟長、誰に向かって叫んでるの?」

「あ、うん。いや……なんでもない」


 弱点の話に戻そう。

 弱点となる属性には弱点ボーナスが発生する。

 その効果は補助魔法、環境魔法と併用でき、ダメージを1.2倍に引き上げてくれる。

 たかが20%、されど20%。

 知力・腕力ともに高く、元になるダメージも多いスカイアドベンチャーでは、20%は馬鹿にできない威力上昇だ。


 被検体サンドバッグの攻撃を例にとってみよう。

 ただの無属性魔法の威力が650。

 環境魔法を使っての威力が910。(1.4倍)

 さらに弱点ボーナスで威力が1092。(1.2倍)

 ついでに補助魔法を使うと、4368。(4.0倍)


 200近くのダメージが、増加しているのが分かるだろう。

 どんな人物でも、この200分のダメージを、たかが20%だから切り捨てろとは言うまい。


「だから、火山地帯での理想の戦いかたは、地形を味方につけてモンスターからの攻撃を軽減しつつ、弱点属性の環境魔法を使って最大1.68倍のダメージを与える……ってとこかな」

「1.4 * 1.2で1.6倍、1.7倍近くか。でも使われないんだよな? 弱点って」

「そう。最初のほうで舟長が言った通り、環境は上げる以外にも下げられるんだ」

「下げる……か。相手の環境を変えるんだな?」

「うん。大ダメージを与える手段は二つある。一つは弱点ボーナスで威力の底上げをする方法。もう一つが、相手の属性値を変えてダメージ量を増やす方法」


 敵の環境すら操作して、不利な状態に変えてしまう。

 それが環境魔法のもう一つの顔だ。

 人為的に弱点を発生させる、と言ってもいいだろう。


 人間は基本、弱点を持たない。

 弱点を持つのは、特殊な環境に住み続けたモンスターばかり。

 火山や海にいるモンスターは、常に魔法属性に影響されながら暮らしているため、属性相関に沿った弱点を持ちやすいのだという。

 一方、人間は、危険な場所は避け、安全な場所を探して生きてきた。

 それはすなわち、魔法属性に影響されにくい場所を、永住の地として求めてきたことに他ならない。

 それが、人間に弱点のない理由だと推測されている。


「そうか。冒険者でもなければ、戦う相手はいつも人間だもんな」

「冒険者のほとんどが弱点なんか知らないと思うんですが」

「だって、おまえ……すべての弱点に対応できる魔術師って、エレメントマスターだぞ? だったら、冒険者なんかじゃなくて、もっと偉い地位に着いてるに決まってるだろ」


 九属性のカラフルエレメントマスターである魔法使いは首をかしげる。

 なにを奇妙なことを。ここにいるじゃないか。


「おまえは、最初から九属性使えたんだっけ?」

「ううん。最初は……聖属性だけ、だったはず」

「それから、いろんなモンスターと戦うために、ほかの属性も覚えてくれたんだよな」

「そうだよ。褒めて、褒めてー」

「それは斧戦士に譲るわ。人の寿命とか、良い師匠の出会いとか考えると、普通の魔術師が持てる属性は1~2が限界なのかもな」


 斧戦士にもみくちゃにされる魔法使い。

 きゃあきゃあ、楽しそうな悲鳴が聞こえる。


 魔法使いさんも偉い地位が欲しいの?

 できれば!

 よーし、分かった。斧戦士さん張り切っちゃうぞー!

 あれ、斧戦士さん、どこ行くの?

 ちょっと王宮行って、現役の魔術師長拉致ってくる。

 ……殺さないだけましか。


 ちょっと目を離したすきに、不穏な雲行きになっていた。

 舟長は、玄関から出ていこうとする斧戦士を止めようとした。


「ちょ、ちょっと待て!」

「もう、舟長うるさい!」

「ぎゃー!」


 悲壮感たっぷりの悲鳴に、残りの三人が玄関に集まった。

 そこにはきれいに真っ二つになった舟長が転がっていた。

 驚いて、目を背ける魔法使い。

 剣士は覗き込んで、きれいな切り口だなと、感心している。

 アサシンは、怨嗟の声を上げんとする舟長の霊を見て、身体だけ治してやる。

 動けない舟長を玄関に残したまま、三人はリビングに戻った。


「どうせ、ホントに拉致ってはこないでしょ」

「あっちも相当な実力者だろ? ほっといて大丈夫だ」

「冒険者(戦士)に負けたとあっては名が廃るしね、うまくやるんじゃない?」


 おい、こら、蘇生しろ! 蘇生してください!

 舟長の霊がそう叫ぶが、誰もが聞こえないふりをする。

 そうこうしているうちに、斧戦士が帰ってきた。

 ワープで魔法使いのそばに現れたので、これまた舟長はスルーされる。


「あ、おかえりー。どうだった? 相手の魔法は」

「なんか、今日休みでいなかったみたい」

「なんだ、残念。本職の環境魔法がみられるかと思ったのに」

「いや、こいつ見た目戦士だし、環境魔法も撃たずに、ワンパンじゃね?」


 好き放題言われつつ、斧戦士は魔法使いの隣に座った。


「ごめんね、まずは現職の排除かと思ったんだけど」

「いいよー。わたし、まだ冒険者してたいし」

「そっか。じゃあ、まだ温存しておく」


 ついに何もしゃべらなくなった舟長と、サンドバックの視線が合う。

 オレの駒になるなら蘇生してやっても……ぐえ。

 最後まで言えなかったサンドバッグである。

 彼のお腹には黒い矢印のようなものが刺さっていた。


 もちろん、犯人は斧戦士である。

 サンドバッグの前に仁王立ちした彼は、非常に機嫌が悪そうだ。

 険悪なムードで見つめあう二人は放置して、三人は舟長のもとへ。


 今日のおやつをお供えしてる場合か! 頼む、助けてくれ!

 わめく舟長はもちろん、スルー。

 三人は舟長の死体のそばに座って話し始めた。


「そういえば、聖と闇だけ、属性値の状況が違うんだっけ」

「厳密には、日陽と月陰もだね。こっちは見えないから、どういう風になってるのか、想像することしかできないけど」

「そういえば、ステータスには表示されないんだったな」


 剣士が確認すると、魔法使いはコクリと頷いて説明を始めた。


「聖属性と闇属性は、環境魔法の使用に注意が必要な属性だよ」

「注意?」

「聖属性と闇属性は相反する属性同士だから、聖属性を強めれば闇属性が弱くなるし、闇属性を強めれば聖属性を弱めるんだ」



挿絵(By みてみん)



「聖属性の弱点は闇、闇属性の弱点は聖だよ」

「すると、闇属性のモンスターが出たときが、環境魔法の出番か」

「待って、環境魔法って属性の耐性も上げたり下げたりするんだよね?」


 アサシンが何かに気付いて声を上げた。

 霊体の舟長も難しい顔で考え込んでいる。


『それって、下手に聖属性だけ高めると、敵の闇属性攻撃で即死しかねなくないか?』


 闇属性のモンスターは、当然、闇属性攻撃を放ってくる。

 威力を高めるために聖属性の環境魔法を使うと、闇属性に対する耐性が減少してしまう。

 1ターンで倒せるならまだしも、のんびりやっていてはこちらの命が危ないのだ。


「舟長、大当たり!」

『一等賞の賞品は蘇生でいいです』

「もー、そんなに生き返りたいの? えい、リバイブ!」


 床に突っ伏していた舟長が、よろよろと起き上がる。

 魔法使い印のリバイブ――蘇生魔法は、体力を全快にする。

 舟長は五体満足に戻った。


「はあ、助かったぜ。魔法使い」

「どーいたしまして!」


 にっこり笑う魔法使い。

 ほどなくして、向こうのにらみ合いも決着がついたようで。

 壁に飛び散った血痕を斧戦士が拭いている。

 サンドバッグの死体はすでになく、いつも通り牢屋に転送されたらしかった。


「さて、全員集まったし、弱点に関する勉強会でもやるか?」

「さっきので十分でしょ」

「魔法使いさんが疲れてるので却下」

「ねーわ」

「……魔法使い、おまえは?」


 誰も協力者がいないなか、舟長は残った一人に問いかけた。

 魔法使いは目をぱちくりさせている。


「おやつ食べたい」

「そうか。じゃあ、おやつの準備するか」


 予定は未定。

 諦めた舟長は、まず台拭きを取りに台所へ向かうのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ