前
「という訳で、この世界特有の魔法概念、環境魔法についてお勉強していくよ」
とんがり帽子が印象的な少女が、杖を振り回しながら言った。
対抗して、奥のほうで斧使いが斧を振り回している。
「何故、特有だって知ってるのかというとだな」
なんか盗賊っぽい恰好をしたリーダーが、急にしゃべり始める。
リーダーという看板を持っているから、たぶんきっと彼がリーダーなのだろう。
「異なる世界で活躍していた記憶があるからだぜ」
「おい、説明させろよ」
「お、いいぜ」
「いや、もう全部言われたから! 譲られたからって言える訳ないだろ!」
リーダー、こと舟長がわめく。
セリフを横取りしたのは剣士だ。
「とにかく、前の世界にはこんな複雑な概念なかったのは確か」
黒い衣装が特徴的な少女が発言する。
これで、五人そろった。
彼らはスカイアドベンチャー。冒険者のパーティーだ。
いま居る世界では、少し名が知れてきた中堅パーティーである。
「魔法って言えば、攻撃魔法か、回復魔法しかなかったぜ」
「ここじゃ、日常生活や戦闘以外に、魔法を使うことなんて珍しくないからな」
「魔法具っていうアイテムもあるし、結構、魔法に関しては進んでるのかもね」
いずれにせよ、二つの世界を知っただけではいろいろと断定しがたい。
以前いた世界の掘り下げまでしていると、話がそれる。
とんがり帽子の彼女は、やや強引に話を進める。
「環境魔法は、火山や雪山、海などの、魔法属性に影響を与えやすいフィールドを、陸上・室内で発揮するために作られた魔法だよ」
「主に、人間同士の戦い……対人戦に用いられるな」
「効果範囲が、自分と相手だけってぐらい狭いから、戦争には使われないみたい」
「オレたちが生まれてこのかた、戦争なんてないけどな」
そこで四人は、斧使いのほうを見た。
あと、喋っていないのはコイツぐらいであるが。
彼は開始からずっと斧を振っている。
……やっと視線に気づいたらしい。
斧使いは斧をしまって、こう言った。
「まず、存在する魔法属性の話からしたほうがいいんじゃない?」
話はすべて、ちゃんと聞いていた男である。
「そうだねえ。まず、環境魔法のイメージがしやすい六属性があって」
「炎・水・氷・風・土・雷だね。あ、覚えなくていいよ」
「次は相反する属性、聖と闇だな?」
「それから、似ているけど違う、月陰と日陽」
「あと一つは、環境魔法に左右されない無属性!」
「影魔法のことも忘れないであげてください」
全部で十二属性。
四属性プラス光・闇の基本六属性の、ちょうど倍だ。
多すぎると思うかもしれないが、この世界の住民にとっては常識。
そもそも威力の強さは、属性相関ではなく環境によって決まる。
ここでの戦いは、どう環境魔法を使うか、が重点となる。
勝敗は、如何に相手の環境を不利にして、自分の環境を有利にするかにかかっているのだ。
「一応、属性相関による弱点も存在するんだけど、ここの人はめったに使わないね」
「あいつら、環境上げ下げして、魔法でぶん殴ることしか考えてないから」
「ザ・脳筋☆」
「脳筋の人には言われたくないんじゃねーかな」
剣士の余計な一言に、黒装束の彼女――アサシンは一瞬固まった。
誰が脳筋だって?
確かめたい気持ちをぐっと抑える。
アサシンは精神年齢が高い女の子なので、我慢することなど造作もない。
たとえ、射殺しそうな目で仲間を見ているとしてもだ。
「あ、アサシンちゃん、落ち着いて」
「うふふ、後で覚えとけよ」
「アサシン、相手も脳筋だ。気にすることはない」
「それフォローしてるつもりなの?」
アサシンは一つため息をつくと、椅子に座りなおした。
目線を剣士と舟長にやる。
この二人の幼馴染ときたら、本当に遠慮がない。
ボクだって、年頃の女の子なのに。
「そ、それでね。影魔法を除くすべての魔法属性には環境魔法が存在するの」
「影魔法は、名前こそ魔法とついているが、実質スキル扱いだからな」
「ダメージも素早さ依存だし。どこが魔法なんだろうね」
実に名ばかりの影魔法である。
影魔法は習得が難しく、世界中を飛び回っているこの冒険者たちでも、使用者にあったことは一度しかない。
見せてもらった訳ではないので、信ぴょう性は微妙なところだ。
「魔法使いちゃん、実際に環境魔法を使ってみようよ」
「オッケー! 斧戦士さん!」
「はい、被検体は用意しておきましたよ」
斧戦士と呼ばれた青年が、懐から何やら丸いものを取り出す。
それは魔法具だった。
青い宝石のように光るそれを、容赦なく床にたたきつける。
魔法具は割れ、中に込められていた魔法が炸裂した。
白い煙がもくもく。
向こうの壁が見えないほど白い。
白いもやの向こうで、黒い影が現れた。
人の形をしているようだが、動かない。
「サンドバッグです。殺しても生き返るサービス付き」
「生きてるサンドバッグとは珍しいな」
「ついでに喋りますが、耳を傾ける必要はありません」
煙がすっかり晴れると、だいたい大人サイズのサンドバッグがいた。
うつろな視線をしている。寝起きのようだ。
「まずは、普通に一発。エナジーフォース!」
とんがり帽子の魔術師は、杖を突きつけ、魔法を唱えた。
胸のあたりで停滞していた白い風が、サンドバッグまで飛んで行って弾けた。
658。
まずまずのダメージだ。
「あれ。あんまり痛くないな?」
「今日は補助魔法使ってないので」
そういいながら、斧戦士は言葉を話すサンドバッグを槍で突き刺した。
この斧使いは、腕力の高さに定評がある戦士だ。
サンドバッグのHPがゴリっと減った。
「いたーい。キャハ!」
男性の声でそんなこと言われても、まったく嬉しくない。
だいたい、キャハとかそっちのキャラのほうがずっと痛々しい。
斧戦士はそっとサンドバッグから離れると、彼女にサインを出した。
ゴーサインだ。やっちまえ!
「いっくよー! ノンレス!」
ノンレスは魔術師の彼女、魔法使いが編み出した環境魔法だ。
影魔法を除くすべての魔法には環境魔法がある。
この言葉が正しければ、無属性魔法用の環境魔法だってどこかにあるはずである。
しかし、無属性はマイナーでしかも、人気がない。
彼女が通う学園でもなかなか教えてくれなくて、待ちきれなかった魔法使いは、自作の環境魔法を作ってしまったのだ。
「よーし、もっかい! エナジーフォース!」
足元が異空間みたいになっている魔法使いは、さっきと同じように魔法を唱えた。
すると、どうだろうか。
909。
サンドバッグは倒れた。
「属性値が50から70になったから……」
「ダメージ値からしても1.5……じゃないな。1.4倍ぐらいか」
「まあ、環境魔法を使うと、補助魔法使わなくても威力が出るよ、ってお話なのね」
魔法使いが言った属性値とは、魔法攻撃の威力増強や軽減に役立つステータスである。
0から100%の一本のバーで表すことができ、炎~風の六本と、日月一本、聖闇一本の計八本あるとされている。ただし、日陽と月陰の属性値は解明されておらず、ステータスで表示されるのは七本のバーだけだ。
ちなみに無属性がどこのバーにあるかというと、これがややこしくて、炎~風の属性値のなかに一つずつ存在する。
詳しくは図を見たほうが早いだろう。
このように、普段、無属性の威力と言うのは固定で変わらない。
のだが、世の中には無属性への耐性を失ってもいいから、魔法ダメージをあげたいという人のために、とある環境魔法が存在する。
その名は、エレメンタルフィール。
エレメンタルフィールドじゃないのは、文字数の関係とかなんとか。
そんな裏話は置いておいて、この環境魔法は、ほかの環境魔法より威力が上がる。
しかも、一属性ではなく六属性すべての威力がぐーんと上がるのだ。
SP消費が100と重たくても、使いたくなるのがわかるだろうか。
ただし、エレメントフィールには致命的なデメリットがある。
無属性魔法攻撃にやたらめったら弱くなるということ。
それは、同じように威力を上げているノンレスでも言えることで。
こちらは、六属性すべての攻撃に弱くなるのだから、とんでもない効果である。
無属性に精通している魔術師はそんなにいないので、この魔法の需要はない。
作成者である一人を除いては。
「要は、ロマンなんだよ。デメリット付きだけど強化されるって」
「バトル漫画の主人公みたいでかっこいいよね!」
「まあ、わたしは使わないけど」
「おい、作成者。しっかりしろ」




