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銅馬が征く  作者: 大田牛二


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呉漢

次回、最終回かもう一話ぐらいあると思います。

 蜀軍を打ち破ることに成功した呉漢ごかんは兵を率いて広都(県城)に還り、劉尚りゅうしょうを残して公孫述こうそんじゅつに対抗させた。


 その後、呉漢は戦況を詳しく報告して深く自分を譴責する文書を劉秀りゅうしゅうに送った。


 劉秀はこう返答した。


「汝が広都に還ったの非常に正しい判断だ。公孫述は間違いなく劉尚を無視して汝を攻めることはできない。もし先に劉尚を攻めたならば、汝は広都から五十里離れた地に全ての歩騎を出して赴けば、公孫述の危困の時に当たることができる。故に必ずやこれを破ることができるだろう」


 劉秀の読み通り公孫述は自ら軍を率いて劉尚を攻めると呉漢は劉秀の指示通りにして、公孫述と広都・成都の間で戦い、八戦八勝することができた。


 戦勝の勢いのまま呉漢軍はついに成都の郭中(外城の中)に駐軍することができた。


「ふっははは」


 輔威将軍・臧宮ぞうきゅうも緜竹を攻略していき、涪城を破って公孫恢こうそんかい(公孫述の弟)を斬った。


 その後、繁と郫を攻めて破り、呉漢と成都で合流した。


「やあやあ大司馬殿。遅れてしまいましたぜ」


「汝は変わらんな」


「さて、あと少しですか。暗殺の刺客でも送っていますかね?」


 追い詰められた以上、例の手段を用いてくるだろうと思っての言葉である。


「いや、その元締めと実行者は死んでいる。それは無いだろう」


 呉漢はそう否定しながら成都を眺めた。


 呉漢に敗北して困窮した公孫述は劉林が死んでいることから頼れる延岑えんしん


「どうするべきだ?」


 と問うた。


 すると延岑は力強く言った。


「男ならば、死中に生を求めるべきです。どうして坐したまま窮せましょうか。財物は容易に集められます。惜しんではなりません」


 彼の意見に従い、公孫述は全ての金帛を投じて敢死(決死)の士五千余人を募り、延岑に配した。


(いつの時も私は漢と戦っている)


 この乱世において、漢軍と戦った回数では自分が一番ではないだろうか。


 そんなことを思いながら延岑は市橋で偽の旗幟を立て、戦鼓を鳴らして戦いを挑んだ。


「攻めろ、攻めて、攻めて、攻め続けろ」


 激しい延岑の軍の猛攻に漢軍は数で上回っているにも関わらず、押され始めた。


「将軍っ」


 更に延岑が秘かに奇兵を出して呉漢軍の後ろに送っていた。背後から呉漢の本陣を襲った。前からも後ろからも激しく攻め込まれ、本陣は崩壊、呉漢は川に転落し、馬の尾につかまってなんとか危機を脱するという有様であった。


「負けましたな」


 劉隆りゅうりゅうがそう言った。


「軍は立て直せるか?」


 呉漢が問いかけると劉隆は頷きつつも言った。


「しかし、連中によって大量の食料を失ってしまいました」


 残っている食料を数えると残り七日分しかなかった。


「これでは戦をするのは難しいと思います。一度引き上げるべきかと思いますが?」


 腹が減っては戦はできないのである。呉漢も同じ意見なのか船をそろえて遁去(撤退。逃走)しようとした。


 するとそれを聞いた蜀の人々を招降・懐柔するため蜀郡太守となっていた張堪ちょうたんが走って呉漢に会いに行き、公孫述は必ず敗れるため、退師(撤兵)の策は相応しくないと説いた。


 彼は劉秀の長安留学時代の学友でもある人で、幼年で「諸聖」とまで称えられた人である。地方の政治を行うことを得意とし、各地の平定した後の地での政治運営を任されることが多い。


 呉漢はこれに従うことにした。


「敵は我らに勝利したことで奢りがあるだろう。それを利用して短期決戦をもって、敵を破る」


 彼はそう言って、わざと劣勢を見せて敵を徴発した。その後、臧宮を咸陽門に駐軍させた。


 勝報を聞いていた公孫述は自ら数万人を率いて呉漢を攻撃し、延岑に命じて臧宮を防がせた。


 両軍が大戦して延岑は三戦三勝した。戦いは朝から日中(正午)に及び、軍士は食事も得られず、全て疲弊するようになっていった。


「今だ」


 呉漢は護軍・高午こうご唐邯とうかんに鋭卒(精鋭)数万を率いさせ、蜀軍の側面を攻撃させた。


 公孫述の兵はそれによって大いに乱れ、高午は陣内を走り回っていると、


「あれは」


 やけに豪華な服装の男が馬に乗っているが見えた。周りの護衛の兵も精兵ばかりである。


「公孫述だ」


 彼は矛を振るいながら護衛の兵を蹴散らしていく。そして馬の乗っている公孫述に向かって矛を突き出した。公孫述は胸を突かれて落馬し、左右の者に担がれて城に退却した。


「陛下が」


 公孫述が撤退したことを知った延岑はあと少しでと思いながら自分は引き上げた。


 引き上げるとそこには青ざめた表情の公孫述がいた。


「延岑よ」


「陛下」


 延岑は彼に駆け寄る。


「汝の武に支えられたからこそ、私は天子としての誇りを保ち続けることができた」


「私こそ、陛下のおかげで素晴らしい地位に至ることができました」


「汝に我が軍の兵、全てを統括させることとする」


「陛下っ」


 公孫述は全軍の兵を延岑に属さることを決定したその夜に死んだ。蜀の地で天子にまでなった男のあっさりとした死であった。


「劉隆、降伏を伝える使者になれ」


「お許しになるので?」


 からかい混じりに劉隆は聞いた。


「許すのではない。降伏しろと伝えれば良い」


「わかりました」


 劉隆は降伏勧告を成都城に述べた。


「陛下もいない以上は……」


 明旦(翌朝)、延岑は城を挙げて投降した。


「降伏しましたよぁ」


「では、やるか」


 呉漢は陣幕から出て、成都城に入っていった。


「やれ」


 呉漢の後ろにいた兵たちはその言葉を受けて一斉に剣を抜き駆け出した。


「間引きの時だ」









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