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銅馬が征く  作者: 大田牛二


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さらば、友よ

投降できずすみません。

 34年


 広い草原の風を感じながら男は馬に乗って進んでいる。草原の先に漢の文字が書かれた旗が大地を覆い隠さんとしていた。


「敵の大将は?」


「大司馬・呉漢ごかんだそうです」


「呉漢か……」


 盧芳ろほうの将・賈覧からんは呟いた。


「以前勝利されております。敵ではありますまい」


(勝利とはなんだろうか……)


 確かに以前、呉漢との戦いでは負けることはなかった。しかし勝てたとも思っていない。前年での杜茂ともとの戦では勝てたという自負はあっても呉漢との戦いでは無い。


「皆は自分の勝利で、銅馬帝に勝てると思っているようだが……」


 確かに自分は銅馬帝の軍に勝ててはいる。しかし、馮異ふういに負けたこともある。そのため必ずや勝てるとは思えなかった。


「それでも勝つのが私の仕事か……」


 賈覧は敵軍を見据えながらそう呟いた。


 大司馬・呉漢は再び捕虜将軍・王霸おうは王常おうじょう朱祜しゅゆう侯進こうしんの四将軍と共に六万人を率いて高柳に出撃していた。


「敵は強敵だが、数ではこちらが上だ」


 呉漢は真正面から賈覧と戦った。


「単純だが強い戦い方だ」


 不必要な策はいらないという意思を感じる戦だと思いながら賈覧は呉漢の攻撃に耐え続ける。


(呉漢は余計な策を持ち込まないだけに戦いづらいな)


 しかし、ここで策を弄するような真似をすれば一気にこの単純な力勝負で押し込まれることになるだろう。


「賈覧様、何か策は?」


 配下の言葉を聞こえた。


(策……)


 前年の杜茂との戦いでは騎馬兵で相手の後方に回り込んで打ち破ったものである。


「ここは耐え続けよ」


 賈覧は相手の攻撃を耐え続けた。するとそこに匈奴数千騎が賈覧を援けに来た。


「救援感謝致します」


「お前ならば呉漢如き、破ることができよう」


 兵を率いてきた男がそう言った。


「呉漢は容易ならざる相手故……」


 賈覧はそう言うが援軍としてやってきた諸将を含め、


(賈覧将軍は慎重過ぎる……)


 と思った。そのため一部の諸将が以前、杜茂の時のように呉漢の軍の後方に周り襲撃を仕掛けようとした。その際に平城城下から回ろうとした。その時、平城城下から一軍が飛び出し、彼らに襲撃をかけた。


 男が指で銭を天高く飛ばし、落ちてきたところを掴む。


「賭け事で勝利する時は負けることも大切なんだぜ」


 杜茂はそう笑いながら突撃をかけた。


 勝手に出撃した諸将から救援要請を受け、賈覧は救援を行いに向かった。その動きは当然、呉漢に察知されており、呉漢も同じように動き、呉漢と杜茂の挟撃によって賈覧の軍は大敗を喫することになった。


 その後も呉漢と杜茂の追撃を受け続け、賈覧は敗走することになった。


「負けたか……」


 賈覧はそう呟きながら退却していった。













 夏、征西大将軍・陽夏節侯・馮異ふういらは前年から隗純かいじゅんとそれを助ける公孫述こうそんじゅつの将である趙匡ちょうきょう田弇でんえんと戦い続けていた。


「硬いな……」


 馮異は趙匡と田弇の陣を眺めながら呟く。


「まるで将軍の戦のようです」


 部下がそう言った。


「私の戦か……」


 趙匡は元々文官であったはずであり、彼にそこまで兵術に長けている部分も経験も無いにも関わらず、ここまで大した結果を出せてはいなかった。


(隗純を打つためにも趙匡と田弇を討たねばならない……)


 そう思い、優先して攻めていることは相手にもわかっているのだろう。馮異はそう思いながら趙匡の戦が自分の戦に似ているということを思い始めた。


「ならば……」


 趙匡という男は元々文官であった。しかし、現在の戦においては馮異と互角に渡り合っていた。馮異も元文官であるということから戦を行う思考を寄せることができたのかもしれない。


「そこを突くべきだな」


 趙匡も馮異の陣を見ていた。


「次はどうくるのか」


 夜襲による奇襲も穴を掘っての奇襲も防いだ。


「馮異との戦は下手に戦わなければ良いのだ」


 勝つということもないが時間稼ぎにもなる。


「ふふ、あの方のためにも……」


 すると馮異の陣が騒がしくなり、こちらに向かって、進撃を始めた。


 趙匡はそれを防ぎに向かった。


「いつもどおり相手の攻撃をいなすようにし、後方や側面を警戒」


 彼は慎重に相手が打つであろう手を封じるように兵を動かしていく。しかし、


「なんだ……」


 いつもの馮異の戦とは違い、馮異の兵が前かがみでこちらに向かってきているのである。


 馮異は常に、兵に対して被害を最小限にする戦を行っている。それもまた兵に慕われる理由でもあろう。そのためこのような攻め方は無いはずであった。


「どういうことだ」


 予想外の事態に対し、趙匡は慎重になるように心がけながら迷う。


(どうする後方と側面への備えを前に向けるべきであろうか……)


 しかしこれが策であり、自分が前方に兵を固めたところを側面から来るのではないか。


「このまま耐え続けるしかないか……」


 趙匡はそう決めて兵に指示を出した。


「上手くいきそうだ」


 馮異はそう呟くと馬に乗り、剣を抜いて叫んだ。


「突撃ぃ」


 彼を中心に馮異軍の精兵が一気に趙匡と田弇へと突撃した。


「馮異自らが突入してくるだと」


 敵の総大将が自ら切り込んできたのである。趙匡と田弇の陣では驚きと総大将を討ち取ろうとする者による混乱が起き始めた。


 馮異は剣で敵兵を切り捨てながら趙匡と田弇を探す。


「馮異っ」


 その声の先を見ると趙匡がいた。


「趙匡っ」


 馮異は彼に向かって剣を振り下ろし、そのまま彼の頭をかち割った。


「おのれぇ」


 かち割られた頭から血を噴き出しながら趙匡は剣を投げた。その剣は馮異の肩に刺さった。それによって馮異は馬から落ちた。


「将軍っ」


 兵が駆け寄るのを振り払い、馮異は言った。


「まだ田弇がいる。田弇を斬れ」


 兵たちはその命令通り、田弇を探しこれを斬った。


 二人を斬ることに成功した馮異軍であったが、馮異は重症を負い、まだ隗純が攻略できなかったため、諸将はひとまず撤退して兵を休めることを望んだ。


 しかしながら馮異は諸将の意見に反対して不動(留まること。撤退しないこと)を固持し、諸将と共に落門(地名)を攻めた。しかし趙匡と田弇との無理な戦を行ったことで軍全体での疲労感が強く中々勝利することができなかった。


「将軍、退きましょう。このままではあなた様が」


 傷の治療を完全にできず、馮異は段々と衰弱していた。


「自分の命がもはや短いことを知りつつも結果を出すことが叶わずか……」


 馮異は淡々と家族への言葉を配下に伝えていき、最後に劉秀りゅうしゅうへの言葉を述べた。


「あなた様にお会いできたこと、私の生涯において最も幸福なことでございました」


 暫くして馮異は軍中で静かに息を引き取った。


 歴史上に数多の名将がいるが、馮異ほど優しい名将はいなかったと言える。兵に厳しさではなく優しさをもって接し、他の将と功績を競うことはなく、敵対することもなく、憎み合うこともなかった。誰もが彼に親しみを覚え、彼を慕った。


 馮異の死を知った劉秀は河北の難での出来事を思い出しながら泣いた。


 各地で駐屯する諸将、及びその配下の兵たちは馮異の死を知ると皆、一応に馮異が陣没した方向に向かって敬礼を行い、彼の死を傷んだ。


 光武帝・劉秀を天下への高みへと押し上げた。名将・馮異はこうして世を去ったのであった。


 





今年中に光武帝は終わらそうと思っていたら十二月に入る前に終わりそうなんですよねぇ、それでその次は三国志かあって思い初めて段々と怖くなっていくんだよなあ。

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