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銅馬が征く  作者: 大田牛二
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 紀元22年


 正月、王莽おうもうは九廟が完成したため神主を納めた。。


 大駕を率いて六馬が牽く車に乗り、五采の毛で龍文衣を作り、長さ三尺の角をつけた。


 また、九重(九層)の華蓋(黄帝が蚩尤と涿鹿の野で戦った時に作った)は高さ八丈一尺あり、四輪車に載せられた。輓者(車を牽く者)が皆、「登仙」と叫び、王莽が外出する時は前を進ませた。


 しかし百官は秘かに、


「これは輀車(輭車。喪(霊柩)を載せる車)に似ている。仙物ではない」


 と言った。


 二月、赤眉(樊崇はんすうら)が討伐にきた新の太師犧仲・景尚を殺した。


 それを受け四月、王莽が太師・王匡おうきょう、更始将軍・廉丹れんたんを東に向かわせた。都門の外で祖(餞別の祭祀と酒宴)を行ったが、大雨が降って衣服を濡らしたため止めた。


 長老が嘆いて言った。


「これは泣軍を為しているのだ(大雨が降ったのは軍のために泣いているのだ)」


 それに対し、王莽が言った。


「思うに陽九の阸(厄)が害気と会うのは去年に究められている(陽九の厄災と害気が遇うのは昨年で終わっている)。しかし枯旱(旱害)・霜・蝗によって飢饉がいまだに至り、百姓が困乏して道路で流離し、春が最も甚だしかったため、私はこれをとても悼んでいる。今、東岳太師・特進・襃新侯(王匡)に東方の諸倉を開かせ、窮乏を賑貸(救済)することにした。また、太師公が通らない道には大夫と謁者を分遣して諸倉を同時に開き、こうして元元(民衆)を全うする。太師公はこれを機に大使五威司命・位右大司馬・更始将軍・平均侯・廉丹と共に兗州に向かい、管轄下の者を鎮撫せよ。青・徐に及んでは以前から法に従わない盗賊がまだ解散し尽くしておらず、また、後に再び屯聚した者もいるため、全て完全に消滅させて、兆黎(民衆)を安んじることを期待する」


 こうして太師・王匡と更始将軍・廉丹が東征に向かった。


 それに対し、樊崇らは青州・徐州一帯で移動しながら略奪を繰り返していたが、引き返して太山に至り、南城に駐屯した。


 これ以前の樊崇らは困窮のために寇(略奪)を為すだけであり、城を攻めたり領地を占領する計はありませんでした。


 しかししだいに勢力を拡大したため、簡単な法を作り、互いにこう約束した。


「人を殺した者は死ぬ。人を傷つけた者は傷害の罪を償うとする」


 但し樊崇らは言辞による約束を設けるだけで、文書は作らず、旌旗、部曲、号令もなかった。


 集団の中で最大の尊号を三老(樊崇)とし、次は従事、次は卒吏と決めた。お互いには「臣人」と称した。


 樊崇らが領袖を「三老、従事、卒史」と称すだけで大号(帝王や将軍の号)を使わなかったことに関して、天下を狙うつもりがなかったから敢えて大号を称さなかったとする説もあるが、『資治通鑑』の注釈を行った胡三省はこう書いた。


「三老、従事、卒史は全て郡県の史(吏)である。樊崇らは民伍から起きたため、その知識はここで止まっている。後に党衆が日々盛んになり、気勢が日々張るようになると、長安を攻めて劉盆子を後には天子まで立てているのだから開始時に敢えて大号を為さなかったのではない。三老、従事、卒史程度の官名しか知らなかったからである」


 また、「卒吏」と「臣人」に関しては、『後漢書』の注釈では、「卒史」と「巨人」が正しいとしている。


 新の太師と更始将軍が討伐に来たと聞き、樊崇らは戦いを望んだ。しかし自軍の衆と王莽の兵が混乱する恐れがあるため、皆、眉に朱(丹砂等の顔料)を塗って識別した。ここから「赤眉」と号すようになる。


 東方に向かった新の太師と更始将軍は合わせて鋭士十余万人を率いていた。ところが通った場所で好き勝手に振る舞ったため、東方の人々はこう言った。


「赤眉に逢ったとしても、太師には逢うな。太師はまだいいが、更始将軍は我々を殺害する」


 前年、田況が語った通り、朝廷が大臣を派遣した事が逆に民衆の苦しみになってしまったのである。


 この年、飢饉などがあったため、王莽が多数の大夫と謁者を派遣し、各地に分けて民に「酪」という食物を教えた。これは「草木を煮た物」、「木を煮た物」と書いている。


 王莽が民に教えた「酪」は食べられた物ではなく、しかも逆に手間と浪費を重ねることになった。


 王莽はこの時、このような書を下している。


「民の困乏を思うと、たとえ諸倉を遍く開いて賑贍(救済)したとしても、まだ足りないことを恐れる。よって暫く天下山沢の防(禁令。六筦に山沢の産物に関する規定がある)を開き、山沢で採取できる物でしかも月令に順じている場合は季節に合った産物ならば、全て民の自由にし、税を出させないことにする。地皇三十年に至ったら元に戻す。これ(地皇三十年)は王光上戊の六年である(「戊は土を表し、王莽が作った暦の名で、「王光上戊」は未来に予定している年号、または「王光」が年号で、「上戊」は暦の名だとされている。かつて王莽は六年ごとに改元するという決まりを作っており、本年は地皇三年)。もし豪吏や猾民に独占させて、小民が利を蒙らなくなるとしたら、それは私の意ではない。『易』はこう言っているではないか。『上を減らして下を増やせば、民の悦びが無限になる』また、『書』(『尚書大伝(第三)・洪範五行伝』の言葉)』はこう言っている。『言っても従わない、これを不治という』ああ(咨虖)、群公よ、政令が徹底できないことを憂いずにいられるか」















 この年まで劉秀りゅうしゅうは土いじりに精を出したりして過ごしていた。そんな彼を義兄である鄧晨とうしんに誘われ、蔡少公さいしょうこうという有名な卜者の元に出かけた。


 蔡少公の屋敷に入ると既に多くの人が中にいた。そしてその奥に蔡少公らしき人の姿が見えた。蔡少公はしわくちゃな顔をした老婆に見えた。


「これは驚いた蔡少公は老婆であったようだ」


 鄧晨は劉秀にそう囁いた。そのまま二人は席に座った。


 蔡少公は図讖を開いた。図讖は一言で言えば、預言書である。蔡少公はそれを見ながら言った。


「劉秀が天子になるだろう」


 人々はざわめいた。そんな中、ある人が、


「それは国師公・劉秀(劉歆)ではないか」


 と問うた。


 因みにここにいる者たちは劉秀がいることを知っている。そのためざわめいていたが、その言葉が出て、ああそうであったかと納得する空気が生まれた。


 すると劉秀が戯れて言った。


「どうしてそれが僕ではないと分かるんだ」


 その場に坐っていた者は皆、大笑した。しかし、鄧晨だけは心中で喜んだ。


(やっぱり文叔も伯升の弟なのだ。これならば……)


 彼は一人目を細めた。


 






 蔡少公の屋敷から劉秀らを始め、男たちが出て行く。それを眺めている男がいた。


「やっぱ英雄には見えないよねぇ」


 厳光げんこうは呟いた。


「全くだ」


 同意するように彊華きょうかも言った。


「あれから本当に人の本性ってわかるのかねぇ」


 やれやれと仮面をつけたまま肩をすくませる厳光に彊華は内心、ため息をつく。


 ()()はその時、屋敷から出てくる蔡少公の後ろ姿が見えた。


「有名な卜者と聞いていたけど、老婆とは知らなかったなあ」


 その時であった。ぐるりと蔡少公の首が回り、こちらを見てきた。その異様な光景に()()は驚いた瞬間、厳光の付けている仮面を覆うばかりの手でいつの間にかこちらに近づいていた蔡少公が覆い、そのまま地面に倒し、叩きつけた。


 彊華は鋭く、蔡少公を睨みつけるや思いっきり、蔡少公の腹を蹴り上げた。


 それにより、蔡少公は離れる。そして、目を細めると言った。


「ふうん、()()なのね」


 老婆とは思えない美しい声が聞こえた。厳光は仮面を外し、彊華は蔡少公を睨む。


「一体、何者だ」


「あら、あの馬鹿に聞いてないの?」


 蔡少公はそう言って口が裂けるかの如く、口を三日月型にすると体がぐにゃりと歪んだ。


「最近、小さい格好してたからこの服、きっついわねえ」


 彼女は老婆の姿から背が伸び、胸や肌に張りが生まれ、美女の姿となった。


「化物か」


 彊華の言葉に蔡少公は笑った。


「あんたらの後ろにいるやつに比べれば、普通よ」


 彊華は後ろを振り向くとあの黄色い服の男がいた。


「久しいな……今は蔡少公というべきかな?」


「はっあんたに名前を覚えてもらうなんて、反吐が出るわね」


「お前の反吐は汚いからなあ」


「それを手に持って、大地に巻いたりしたのはあんたでしょ」


 互いに互いを罵り合うのを厳光は仮面を付けながら呆れたように言った。


「一体、二人の関係はなんなの。この化物みたいな姉さん何?」


 彼の言葉に蔡少公は睨みつける。そのため厳光はさっと黄色い服の男の後ろに隠れる。それを見て、彼女は言った。


「あんたこの()()を使って何する気よ」


「別に何も……人の本性とは何かを英雄を通じて、学ばせているところだ」


 男の言葉に蔡少公は笑った。

 

「くっだらない。本当にくだらない。人の本性、あんな孟子と荀子が語ったことをなんで蒸し返すのよ。人の本性なんて、善悪なんてものに割り切れないのに、そんなものに何になるってのよ」


「それを決めるのは()()だ。それ以上でもそれ以下でもない」


「全く、話にならないわね」


 蔡少公は手を大きな剣のようにすると男たちに向かって、振るった。


「そっちこそ話にならん」


 男は大きな布を広げ、自分と()()を包み込むと姿を消した。


「逃げ足だけは、速いわね」


 忌々しそうに蔡少公はそう呟いた。


「全く、こんな進歩の無い人どもの本性なんてどうでもいいじゃない。それにも関わらず、あんな……」


 彼女は目を細めるとため息をつき、その場を去っていった。



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