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銅馬が征く  作者: 大田牛二


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奇々怪々

前半生が無いと自由にかけるねっていう後半の話。

 八月、劉秀りゅうしゅう、自ら諸将を率いて五校討伐を行った。羛陽で五校を大破してその衆五万人を降した。


 一方、彭寵ほうちょうを討伐するために、游擊将軍・鄧隆とうりゅうを派遣して彭寵の攻撃を受けている薊の朱浮しゅふを助けさせた。


「陛下の援助感謝する」


 朱浮は鄧隆を潞南に、自らは雍奴に駐軍し、官吏を朝廷に送って状況を報告を行わせた。


 しかし檄書(上奏書)を読んだ劉秀は怒って使吏(使者になった官吏)に言った。


「営が互いに百里も離れているが、これではどうして助け合うことができるか汝が還った時には、軍は必ず敗れることになる」


 劉秀の予想通り、彭寵が軽兵を出して鄧隆軍を撃ち、大破した。


 朱浮は遠く離れていたため鄧隆を救えなかった。


(体がもう一つ欲しい……)


 劉秀は苛立ちながらそう思った。


 その頃、蓋延がいえんが睢陽の劉永りゅうえいを包囲して数カ月が経ち、やっと攻略に成功した。しかしながら劉永は厳重な包囲から逃走することに成功してしまっていた。


 この責任は明らかに蓋延にあるのだが、劉秀はこの報告を受けても彼への処罰は行わず、継続して劉永討伐を行うようにと述べた。


「まあまあそれ以上、いじめてやるな」


 馬武ばぶ劉隆りゅうりゅうの肩を叩く。


「何のことですかな?」


「ああ見えて、あの男にもいいところがある。嘘をつかないという良いところがな」


「あなたは嫌われていましょう。それにも関わらず、擁護すると?」


 その言葉に馬武は苦笑する。


「擁護というわけではないさ。俺は嫌われ慣れているんでね。それに……」


 目を細めながら言った。


「お前が包囲を緩めたなんて告げ口するつもりもないしな。じゃあな」


 舌打ちする劉隆から離れ、馬武は肩をすくめる。


(やれやれ、餓鬼の下にいる連中も癖のあるやつが増えてきたもんだ)


 だが、馬武にとってはどうでもいいことである。彼はこの戦場にいられるのであれば、なんでもいいのである。


 さて、当の劉永だが、彼は虞に走った。しかしながら虞の人々は劉秀軍の存在を恐れて、反逆すると劉永の母や妻を殺した。


 劉永は麾下数十人と共に譙に奔った。


 そこへ蘇茂そも佼彊こうきょう周建しゅうけんが三万余人の軍を集結させて劉永を助けた。


「ふん、どれだけ集まろうとも雑魚よ」


 そこへ蓋延が軍を率いて、襲撃を仕掛けた。劉永は沛西でこれを迎え撃った。


「なかなか崩せないな」


 蘇茂の軍が強力で崩せない。


「こういう時に使うのは馬武か……」


 忌々しそうにしながらも蓋延は後方に置いていた馬武に突撃を行わせることにした。


 馬武が突撃を仕掛けるとそれに蘇茂が対応を行う。この辺は歴戦の将としての強さが見れたと言っていい。しかし、ここで蓋延は笑った。


「ふん、馬武は囮よ」


 馬武の突撃に蘇茂が対応したところで、王覇おうはを後方に回し、突撃させた。意外なところからの突撃に劉永軍は崩れた。


「虚名も使いようだ」


(こういうところが好かれないだろうなあ)


 馬成ばせいが近くで聞いていてそう思った。


 劉永、佼彊、蘇建は湖陵に走って守り、蘇茂は奔走して広楽に還った。


 蓋延はその勢いのまま沛、楚、臨淮の三郡を平定していった。


 劉秀りゅうしゅうはこれを受け、伏湛ふくじんの息子である太中大夫・伏隆ふくりゅうを青・徐二州に派遣し、符節を持って郡国を招降させていった。


 青・徐の群盗は劉永が破れたと聞き、皆、恐れて投降を請うていった。


 張歩ちょうほも劉永の輔漢大将軍となっていたが、自分の掾・孫昱そんいくを派遣して投降を請い、伏隆に従って上京させた。孫昱は宮闕を訪ねて上書し、鰒魚(鮑)を献上した。


 東方に順調さが見えた頃、南方で一つの反乱が起きた。













 反乱が起きた場所は宛である。


 反乱が起きる気配も兆候もなかったにも関わらず、その反乱は起きた。


 反乱を起こした男の容貌はまるで子供のような顔を持ち、女物の服と男物の服を縫い合わせたような服を着ながらも違和感をもたらせない。


 その笑みはまるで獣のようでありながら所作には色気があった。


 この男は堵郷の人で、名は董訢とうきんという。


「ふふふ、あはは」


 彼は笑いながら宛城の城下を歩く。段々と宮殿へと近づいていく。しかしながら誰も彼を気にしない。一目見るような風貌でありながらも彼はまるで影のようで誰も気にしない。


 門に近づくとさすがに門兵が止めに入った。董訢はくすくすと笑うと長い袖から剣が伸び、門兵の一人の首を飛ばした。首が離れた体から大量の血が噴き出す。唖然とする周りに吹き出した血で染まった自分の服を見て、


「ばっちぃ、ばっちぃ」


 そう呟きながら剣で何度も、何度も斬り殺した死体に向かって振り下ろしていく。


 唖然としていた周りもようやく冷静さを取り戻し、人を呼ぶと彼を囲んでいき、襲いかかった。


「遊ぶの? やったあ」


 董訢は舞った。


 軽やかに踊るように舞った。


 そして、兵たちの首もまた、空に舞った。


「わあ、玉遊びだあ」


 けらけらと笑いながら、その状況を董訢は笑う。


「て、敵は一人だ。囲め、囲め」


 多くの兵たちが囲んでいく。


 するとどこからか、顔を布で隠した一団が、董訢の後ろに現れた。


「何を望む?」


 その一団の一人が董訢に聞いた。


「うんとね、うんとね」


 董訢は城を指さした。


「あれが欲しい」


「よかろう」


 一団は一斉に剣を抜くと宛城の兵たちに襲いかかった。


「は、反乱だあ」


 その声が城中に響き渡った。それは正規兵たちの登場を意味する。だが、城中に響き渡ったのは悲鳴であった。正規兵が一方的に董訢らによって殺されていったのである。


 淡々と一団によって宛城の兵たちは殺されていく中、ただただ笑顔なのは董訢だけであった。


 彼らはそのまま南陽太守・劉驎を捕らえた。


「貴様ら、何が目的だ。このようなことをして、ただで済むと思っているのか?」


 劉驎の言葉にふくろうのように首を傾けながら董訢は、


「こいつ嫌い」


 その瞬間、劉驎の首は一団の一人によって飛ばされた。ころころと転がる首を見ると董訢はその首を持った。


「これは好き」


 首を抱えながら董訢は寝転がった。


「眠い」


 彼はそう呟くと寝息をたて始めた。


「寝てしまったか……ちっ……扱いづらい餓鬼だ……」


 一団の一人がそう冷えた声で呟いた。


 宛城の反乱について瞬く間に伝わった。


「反乱を起こしたのは誰だ?」


「董訢という男らしい」


「その男は何者だ?」


「わからない。出身が堵郷らしいとのことだが?」


 董訢という男について誰も知らなかった。他の群雄の一人という話もその勢力下の者であるということもわからなかった。ただただ宛城で反乱を起こしたという事実のみがあるだけであった。しかしながら董訢は宛城を支配下に入れたというのに、沈黙した。


「反乱の経緯はわからないが、素早くこれを鎮圧せねばならない」


 この事態に対し、揚化将軍・堅鐔けんたんが右将軍・萬脩ばんしゅうと共に決死隊を集め、夜間に宛を攻めた。そして、あっさりと陥落した。


「なんだ?」


 首をかしげながら堅鐔は宛城に入るが董訢らしき男を見つけることができなかった。


「はて、逃げられたのか。それにしても反乱を起こして、支配したというのに、こうもあっさり手放すのか……」


 一体、どんな男だというのだろうか。そう思いながら堅鐔はとりあえず、奪還に成功したことにほっとした。




 董訢は一団に守られながら、城を脱出し、堵郷に還った。


「くそ、この餓鬼、強いのがいいが一度眠るとなかなか起きねぇ」


 苛々していると董訢が起きたため、苛々していた男は慌てて布を被り、笑いながら話しかける。


「せっかく、得た城を取られてしまった」


「取られちゃったの?」


「そうだ、劉秀という大悪党が率いる者たちによって取られてしまったのだ」


「悪い人なの?」


 董訢が首を傾げると、男は頷いた。


「そうだよ」


「へぇ、そうなんだ。おじちゃんよりも?」


 男は少し驚きながらも頷く。


「そ、そうだとも私なんかとは比べ物にならない。大悪党さ」


「わかった。じゃあ頑張って戦うね」


 董訢は笑う。そして、ふくろうのように首を傾ける。


「でも、どうしようかなあ。どうしようかなあ?」


(相変わらず、不気味な餓鬼だぜ)


 男は董訢を見ながらほくそ笑む。


(だが、この化物を使って復讐してやるのさ、劉秀にな)


 男……劉林りゅうりんはそう呟いた。






 



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