賈復
蛇足伝の方も更新しました。
劉秀の元に呉漢を大将とした尤来討伐が成功したことが報告された。
その後、呉漢たちが凱旋すると劉秀は彼らを称えた。また、討伐の際に呉漢による独断専行による烏桓や貊人との交渉については不問とした。
(何より、王覇の器量が大きくなったのだから良い)
一目見て、劉秀は王覇の器量が大きくなったのを感じた。王覇はどこか荒削りの部分があったが、そこに上手く磨かれ、成長している。
(人の成長とはどのような場所でも起きるものであろう)
また、この時嬉しい報告があった。都護将軍・賈復が回復して戻ってきたのである。
呉漢を派遣している一方で劉秀は河北の強力な敵対勢力の一つである五校の討伐を行っていた。
その際、先陣を賈復と陳俊として出陣した。
五校は軍がやってきたことを知ると真定で防備を固めて戦うことにした。
「銅馬帝の配下に賈復という男がいるそうだ。その男は常に相手の攻撃を避けないそうだ」
既に賈復の戦い方は有名になっていたそのため彼らは矢に毒を塗ることにした。避けないというのであれば、毒を持って殺そうというのである。
さて、賈復はいつもの通りの戦い方を行い、相手の剣を受けても避けることなく、受け止めて相手を斬っていく。すると彼に向かって多くの矢が放たれた。
流石に目へ来る矢は剣で払うが彼は基本、矢を受ける。しかしながら矢が完全に鎧を貫通することは少ない。実は彼の鎧は戦の度に強化されており、諸将の中でも一番金がかかった鎧であるため、そう簡単に貫通しないのである。
もちろん限度はある。剣で何度も叩きつけられれば、どんな鎧でも凹み、脆くなる。ただでさえ相手の攻撃を避けない男なのである。さて、そんな男が矢を肩に受けた。鎧を貫通し矢が肩に刺さった。
いつものことである。賈復はいつもどおり剣を振るいながら前進しようとした。その時、膝から崩れ落ちた。
「こ、これは……」
動悸が激しくなり、両手を付きながら倒れる。
「将軍っ」
それに気づいた賈復の配下たちの動きは素早かった。彼らは倒れた賈復の元に駆け込むとすぐさまぐるりと囲み、盾を構え包み込む。そして数人の兵が賈復の体を触り状況を確認、危険な状態であると判断すると彼の鎧を素早く脱がし、そのまま抱えると囲みを解き、素早く前線からの脱出を行う。
同時に副将へ連絡し、先陣を勤めている陳俊とその軍の後方で備えている臧宮へ賈復が倒れたことを伝え、指揮権を一時的に二人の下に入ることを伝えさせる。
指揮権の移行が完全に成されるまでに副将を中心に敵軍の攻撃を耐える。
指揮官を失ったにも関わらず、彼らの対応は素早くかつ的確であった。彼らは賈復の奇行に慣れており、万が一の場合、特に賈復の戦い方から今回のような場合を想定していたための動きである。また、運んでいる最中に彼らは応急処置まで行っている。万が一の場合のために医者から知識を得ていたのである。
さて、本陣の劉秀の元に賈復が倒れたことを伝えられた。劉秀は大いに動揺しながら言った。
「私が賈復を別将(一方面の将)にしなかったのは敵を軽んじていたためだ。果たして私は名将を失うことになってしまった。彼の婦人は妊娠していると聞いている。もし女子が生まれたら我が子に娶らせることにしよう。男子が生まれたら我が娘を嫁がせよう。彼の妻子を憂いさせることはしないことを誓う」
さて、戦況は賈復が前線から離れたとはいえ、劉秀の軍は崩れなかった。
「賈復の兵は良き兵だ」
臧宮は指揮官が不在にも関わらず、前線を維持させている彼らを称える。
「あとは我々に任せよ」
彼はそう言うと騎兵を持って、敵陣営に切り込んでいき、崩していった。
一方、陳俊も敵陣営を切り崩していた。
「大将旗だな」
彼は敵軍の大将旗を見つけると馬から降りた。
「さて、少しは驚いてくれるかな?」
陳俊はそう呟くと短剣を持って、向かう敵をことごとく破っていった。
「まさかやつが生きていたのか」
五校の大将は動揺した。毒矢によって賈復が死んだと思っていただけに陳俊の戦い方を見て、彼が生きてやってきたと勘違いしたのである。
大将は動揺しついに逃走を図った。そのため陣形は大きく崩れた。
「ふむ動揺してくれたようだ」
陳俊はそう言って少し笑うとそのまま逃げる敵を追った。二十余里も追いかけ続け、ついに五校の頭目を斬ってみせた。
「やれやれ、賈復の戦い方をやっていると命がいくつあっても足りんわ」
彼は大笑いながら劉秀の元へ大将の首を届けた。
「将軍のように皆がこのようであれば、どうして憂える必要があろうか」
劉秀はそう言って彼を称えた。
賈復は医者たち総出で治療に当たった。その間に劉秀は薊へ戻っていたが、暫くして賈復は目覚め、怪我が治癒したため薊に戻ってきたのである。
「ご心配をおかけしまして申し訳ございません」
「いや、君が無事で良かった」
劉秀は賈復が無事戻ってきたことを心の底から喜んだ。
劉秀は中山へと南下するとそこで諸将が再び、尊号を称することを進言した。
(またか……)
劉秀は断る。しかしながら諸将の思いは止まらない。
その様子を遠くから彊華は静かに見つめ続けた。




