表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銅馬が征く  作者: 大田牛二


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/98

綺麗な復讐

 劉秀りゅうしゅうは北に向かい、元氏で尤来、大槍、五幡と戦っていた。


 破れた尤来らが逃走する中、彼は追撃して北平に至り、連破していった。


 勢いのまま劉秀は順水の北でも戦った。ところが勝ちに乗じて軽率に進軍を続けたことにより、軍全体が伸びきってしまった。そこへ乾坤一擲の奇襲を受け、劉秀軍は逆に敗北してしまった。


(うん、久しぶりに負けたなあ)


 そう思いながら劉秀は護衛の兵からも離れ、逃げに逃げた。そして高岸から跳び下りるとそこに突騎兵の一人である王豊おうほうが劉秀に気づいた。


「王、こちらへ」


 彼は馬から降りて劉秀に譲った。そのため劉秀は危うく難から免れることに成功した。


 劉秀の散兵は戻って范陽を守った。しかし軍中に劉秀の姿が見えなかったため、


「王は既に殺された」


 と言う者も出てきた。そのため諸将は混乱し、どうすれば良いのかわからなくなっていた。


 その時、真紅の外套を身にまといながら諸将が集まる中、呉漢ごかんが大声を出した。


「卿らは努力せよ。王の兄の子が南陽にいるのだ。なぜ主がいないことを憂いると言うのか」


(主上は生きておいでだ)


 呉漢は何の心配もせずにそう信じている。因みに劉秀の兄の子とは劉縯りゅうえんの子・劉章りゅうしょう劉興りゅうこうのことである。


 その後、劉秀が帰ってからも劉秀軍の将兵は破れたことによる被害が大きかったため、未だに混乱が続いていたが、数日してやっと安定した。


 一方、尤来らの勢力は劉秀に戦勝したが、劉秀の威名を懼れていたため、夜の間に兵を率いて去った。


「助かった」


 劉秀は一息ついてから再び進軍を始めた。


(それにしても難しいものだ)


 難しいとは将を成長させるということである。劉秀は敗北したことに関しては特には思わない。勝敗は兵家の常である。それ以上に劉秀が問題だと思ったのは自分がおらずに呉漢が締めたとはいえ、混乱したこと。自分が戻ってきてからもその混乱が続いたことである。


馮異ふういがいてくれれば……いや……)


 少なくとも彼ならば敗戦を無くせたかもしれないが、諸将の混乱までは抑えられないだろう。


(はあ、難しい……)


 こういう混乱を行っていては、今後の遠征を任せる大将選びに苦労することになる。


 劉秀軍は安次に至って連戦し、尤来らを破った。


 尤来らは退いて漁陽に入り、通る場所で虜掠(略奪)を行った。


 それを知った強弩将軍・陳俊ちんしゅんが劉秀に進言した。


「賊には輜重がありません。軽騎が賊の前に出るように命じ(軽騎を賊の前に進ませ)、百姓にそれぞれ壁を堅くさせることでその食を絶ちましょう。こうすれば戦わずに殲滅できましょう」


 劉秀はこれに納得し、陳俊に軽騎を率いて尤来等の前を進ませた。人々の状況を視て、保壁(堡塁の壁)が堅完(堅牢)な場所では固守するように命じ、郊野に分散している者がいたらこの機に人や物を奪い取り、安全な場所へ案内した・


 その結果、尤来らの兵が至っても得る物がなく、ついに散敗(壊滅分散)した。


 焦土作戦の攻撃側で行った例である。


 劉秀が陳俊を称えた。


「これらの虜を困窮させたのは将軍の策である」


 陳俊を称えつつ劉秀は今回の戦の反省を行った。


(一番の問題は諸将の成長だな……)


 そんなことを考えている時に馮異から書簡が届いた。


「へぇ面白いことしてるね……」


 その書簡の差出人は李軼りいつである。しかしながら劉秀の元へ出されたものではない。また、この書簡とは別に馮異からの書簡も届いている。


 李軼は兄を殺した憎き敵である。


「復讐か……」


 劉秀は目を細めながらそう呟いた。









 孟津将軍・馮異は洛陽の李軼に書を送って禍福について述べ、蕭王・劉秀に帰順するように勧めていた。


 李軼は長安の更始帝政権が既に危ういと考えていたが、劉秀の兄・劉縯りゅうえんの死に関わっていたため、心中で不安を抱き、馮異に書を送ってこう答えた。


「私は元々蕭王(劉秀)と漢を造る(建てる)ことを首謀した。今、私が洛陽を守り、将軍が孟津を鎮め、共に機軸(中枢。要地)を拠点としております。これは千載一遇の好機であり、二人の心が重なれば、金(金属)を断つこともできましょう。ただ蕭王に深く伝えていただき、私の愚策を進めて、それによって国を輔佐して民を安んじることを願います」


 この内容を馮異は劉秀の元へ送ると劉秀から返信が送られてきた。


「そのまま進めよ」


 という返信が届いた。


 馮異と李軼と文通を続け、彼のことを信頼した李軼は馮異と争わなくなった。


 これにより、馮異は北の天井関を攻めることができるようになり、上党の二城を攻略した。その次に南へ向かって河南成皋以東の十三県を落とし、投降した者が十余万に及んだ。


 更始政権の武勃ぶぼつが一万余人を率いて背反した者を攻撃したが、馮異が士郷(士郷は亭の名で、河南郡に属す)で戦ってこれを大破し、武勃を斬った。


 馮異の戦の特徴は相手の攻撃に対して、捌きに捌き、相手が疲れたところから逆転するというものである。名将にしかできない戦であり、彼が名将であることは疑う余地さえ与えないほどのものを彼は見せつけた。


 この戦の最中、李軼は門を閉じたまま武勃を援けに行かなかった。


(さて……)


 馮異は李軼の態度を見て改めて、劉秀に詳しく報告を行った。劉秀は馮異に返書を送った。


「季文(李軼の字)は詐術が多い男で、人にはその要領を得ることができない(何を考えているのか分からない)。これからその李軼の書を送り、守・尉(郡守や都尉)で警備に当たっている者に告げよ」


 これは裏を返せば、重要な内通者を告げる行為であるため、この行為は疑問に思うものも多くなかった。


 やがて、洛陽にいる更始政権の朱鮪しゅいが李軼の書信の事を聞き、人を送って李軼を刺殺した。この後、洛陽城中が更始帝から乖離し、多くの者が劉秀に降っていくようになった。


 一人の内通者を告げたことで多くの者をこちらへ得ることができた。それが今回の策の本質かと多くの者が思ったが、馮異と劉秀の間では少し違う。馮異は劉秀の復讐を手伝ったに過ぎないのである。


 馮異の目には河北の難において、劉秀が枕席で涙を流している姿が思い浮かんでている。


 王道を行く者としての姿と復讐をする姿は相容れない部分があるが、だからといって復讐をしないというのも馮異からすれば違うと考えている。


 そのため少しでも綺麗な復讐にしたかった。劉秀に少しでも復讐を行い、気持ちが軽くなってもらいたいと思ったのである。


 さて、朱鮪は劉秀が北征したため河内(黄河の北の郡)が孤立していると判断していた。そこで将である蘇茂そも賈彊かきょうに兵三万余人を率いさせ、鞏河(鞏県の北を流れる黄河を鞏河と言う)を渡らせた。蘇茂らは北上して温(河内郡に属し、黄河の北にある)を攻めた。


 朱鮪も自ら数万人を率いて平陰(河南郡に属し、黄河の南にある)を攻撃し、黄河の北岸にいる馮異を牽制して足止めしようとした。


 案外、朱鮪の戦略眼は中々にある。だが、馮異は既に先手を打っていた。


 檄書(恐らく温県が救援を求める文書)が河内の治所に至ると、河内太守・寇恂こうじゅんはすぐに軍をまとめて疾駆し、同時に属県にも書を送って出兵させ、温下で兵を合流させるように告げた。


 軍吏が皆諫めた。


「今、洛陽(更始軍)の兵が渡河して前後が絶えません。衆軍(属県の兵)が集結し終るのを待つべきです。そうすれば出撃できましょう」


 全軍を持って相対するべきという意見である。寇恂はそれに対して言った。


「温は郡の藩蔽である。温を失えば、郡が守れなくなる」


 寇恂は現状動かせる車馬を駆けさせて温に向かった。


 翌日、寇恂はまだ全軍揃っていないにも関わらず、蘇茂・賈彊の軍と合戦した。


 最初は数が揃っている蘇茂・賈彊の軍が優勢であったが、そこに馮異が先手を打って先行させていた援軍と諸県の兵が到着した。


 寇恂は士卒に命じて城壁に登らせ、戦鼓を敲いて喚声を上げさせた。士卒が大声で、


「劉公の兵が到着した」


 と叫んだ。


 劉秀の名は天下に鳴り響いている。そのためそれを聞いた蘇茂の陣が動揺した。寇恂はその機に急襲して蘇茂・賈彊軍を大破した。


 同じ頃、馮異も河を南に渡るや朱鮪を撃った。戦略眼のある朱鮪と馮異では将軍としての手腕に差がある。


 朱鮪は敗走した。馮異と寇恂は朱鮪を追撃して南下し、洛陽に至って城外を一周してから河内に帰った。


 この後、洛陽は震恐(震撼)して昼でも城門を閉じるようになった。それほどの敗戦であった。



 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ