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銅馬が征く  作者: 大田牛二


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銅馬帝

 呉漢ごかん耿弇こうえんによって的確かつ素早く更始帝の勢力を駆逐したため、北州は震駭(震撼驚愕)して各郡がそれぞれ劉秀りゅうしゅうのために兵を動員した。


 一方、劉秀は軍を率いて北上していた。


「更始帝らが北上する可能性がある」


 と反対する者もいたが、劉秀はその反対を退け出陣した。それにしっかりと備えは行っている。更始帝の使者と現在、邯鄲にいる尚書令・謝躬に賊を討伐するために軍を動かすと伝え、呉漢たちはそのための兵を集めるために先行させているとした。


 そのため彼らはこれらの行動が地盤を強固にする行動であるとは気づいていない。例え気づいたとしても長安側は赤眉ら敵勢力の存在があるため動けず、謝躬らが動くのであれば、その時は彼を殺す理由になる。


 殺すための大義名分をもって彼は始末したいと考えている。


 出発前、劉秀は馬武ばぶを高台に登らせ、共に話をして、酒を飲んだ。


「王様に酒を注いでもらえるとは光栄至極だな」


 皮肉った言葉に劉秀は苦笑する。


「僕は上谷と漁陽の突騎を得ております。これをあなたに率いさせたいと考えておりますが、どうでしょうか?」


「俺はとろくて臆病であり、方策も持っていない男だから断る」


 馬武は誘われていることを理解している。そのための言葉である。


「あなたは熟達された方だ。僕の属官たちとは比べ物にならない」


 馬武は盃を起いて言った。


「そうやってころっと旗を変えるやつをお前は信じるか?」


 劉秀は無言になる。


「まあ、そういうこった」


 彼は再び酒を飲んだ。


(できれば、こちらについて欲しかったけど、仕方ない……)


 馬武という人はどのような旗の下でも変わらないが、そう簡単に旗を変える人ではないということである。


(だからこそ来て欲しかった)


 そう思いながら劉秀は出発したのである。










 劉秀が鄡(県名)で銅馬を撃った。ほぼ奇襲に近い攻撃であった。


 そこで呉漢と耿弇が突騎を率いて清陽で合流した。


「二十騎で敵を斬ったとか。豪胆にして苛烈だね」


 呉漢は、


「王のご期待に答えたまで」


 と答えて、全ての兵簿(兵士の名簿)を莫府(幕府)に提出し、改めて配属するように請うた。この行為は私心が無いことを表し、諸将は呉漢の態度に感嘆した。


 劉秀は幽州の動乱が静まったと判断し、偏将軍・朱浮しゅふを大将軍・幽州牧に任命して薊城を治めさせることにした。


「さあ銅馬を破るとしよう」


 劉秀はそうは言いつつ、銅馬がしばしば戦いを挑んでも営塁を堅めて守るだけで戦おうとしなかった。


 しかしながら銅馬の兵で陣から出て鹵掠(物資の略奪)する者がいると、必ずそれを撃って物資を奪い、銅馬の粮道を絶った。


 そういったことを一月以上続けたことで、銅馬の食糧が尽き、銅馬の兵達は夜の間に遁走していった。


「よし今だ」


 劉秀はその様子を見て追撃を行い、館陶で大破して見せた。


 投降した者の受け入れがまだ終わらないうちに、高湖と重連が東南から来て銅馬の余衆と合流した。


「いちいち回って破る前にまとまってくれた」


 劉秀はそう喜びながら再び蒲陽で激突した。


 この戦いでも賈復かふくは相変わらず、一人で敵陣営に突っ込みながら相手の攻撃を一切避けることなく戦っていた。


「ふん」


 敵兵を斬った時である。次の敵兵を斬ろうとした時、妙に剣が軽く感じた。


「ふむ、折れている」


 剣が折れていたのである。


「さて、どうしたものか」


 首を傾げ、腕を組んで考え込んだ。戦場のど真ん中で、である。


「しょ、将軍を守れぇ」


 賈復旗下の兵たちは彼の奇行には慣れているが、これは予想外である。皆、必死に守りに行く。


 このような相手を逃す敵兵ではなく、一斉に賈復の背中に斬りかかる。


(剣が折れてしまったどうしたものか……)


 背中を斬られながら賈復は悩む。


「何やってるの、あの人は」


 これには報告を受けた劉秀も驚く。そこで彼は堅鐔けんたん杜茂ともを賈復援護に回す。


 堅鐔は河北攻略時に推薦を受けて劉秀に仕えた男で、事務能力に長けて守りの戦を得意にしている人物である。


 杜茂も河北攻略時に仕えた人で、武勇に秀でた人である。しかしながら性格に金銭欲が強いという難点を抱えている。


「しょ、将軍、剣を拾ってください」


 配下の兵が賈復に言うが、


「落ちているとはいえ、人の物である。盗人になってしまう」


 と言って首を振る。


「では、私の剣を使ってくだされ」


 配下が剣を差し出そうとする。


「その剣は君の物だ。無ければ困るだろう」


(なら、そこで立ってないで後退しましょうよ)


(そもそも将軍が一旦、後退すればいいのではないのか?)


 兵たちはそう思いながら賈復を守るために剣を振るう。


「仕方ありません」


 賈復は両手を見ながら呟くと、敵兵に向かって飛びかかり拳を叩きつけた。何度も叩きつけると相手は血を吐き、倒れる。


「拳で戦うしかありません」


 彼はそのまま次々と敵兵へ殴りかかっていった。


「おいおい、あの人。殴り殺しながら前進してるよ」


 堅鐔と杜茂は急いで駆けつけてそのような光景を見せられたため唖然とした。


 諸将の活躍もあり、劉秀は銅馬ら全て破って投降させた。帰順した渠帥(首領)は列侯に封じていく。


(これで死なないとか怖い……)


 賈復の治療に当たる医者たちが思っている中、劉秀は彼の様子を見ながら大丈夫そうなのに安心した。


「王、此度の戦いで彼らを下しましたが、彼らはまだ安心はしていないでしょう」


 賈復の言葉に劉秀は頷く。劉秀旗下には元々豪族の者も少なくない。賊への嫌悪感を持っている者も多い。そのことは銅馬らをわかっている。


 劉秀は投降した者に命じてそれぞれ営に帰らせ、兵をまとめさせた。その後、劉秀が自ら軽騎に乗って各部の陣を巡行していった。


 この態度に投降した者達は互いにこう言った。


「蕭王は誠心誠意をもって我々に接して下さった。どうして命をかけないでいられようか」


 こうして投降した者達は皆、劉秀に帰服した。劉秀は彼らを全て諸将に分配した。兵衆が数十万に達したという。


 関西の人々は劉秀を号して「銅馬帝」と呼ぶようになった。称えたというよりは畏怖を込めたものであると思われる。


 劉秀の名は天下を震しつつある。


 


劉秀の愉快な仲間たち


傲慢官吏・朱浮

真の能吏・馮勤

堅実・堅鐔

がめつい人・杜茂

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