銅馬が征く

河北へ

クウガっていいよね。

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　更始帝は洛陽に入ってから、親近する大将に河北を巡行させようとした。

　それを受け、大司徒・劉賜が進言した。

「諸家の子（南陽諸宗の子を指す）では、文叔だけが用いることができます」

　これを聞いて朱鮪らが劉賜の意見に反対したため、更始帝は狐疑（疑って躊躇すること。狐は疑い深いため、「狐疑」という）したが、劉賜の懇切な推薦によって、更始帝は劉秀（りゅうしゅう）を破虜将軍のまま行大司馬事（大司馬代理）に任命し、州郡を鎮慰（鎮撫）するために符節を持って黄河を北に渡らせることにした。

　その命令を劉秀へ伝える使者を出した後、大司徒・劉賜を丞相に任命し、先に関（函谷関）に入って宗廟、宮室を修築させることにした。これは長安を都にするためである。

「河北へ……」

　命令を受けて劉秀は眉をひそめる。

「これは好機だ」

　朱祐（しゅゆう）の言葉に劉秀は頷きつつ複雑な感情を抱く。

「私のことはお構いなく」

　陰麗華（いんれいか）がそう言った。

「私は実家に戻ります」

　劉秀はその言葉に寂しさを感じる。

「すまない……」

「謝ることはありません。あなたの志のためです」

　彼女はそう言うと周りに河北へ行く準備をするように指示を出す。

「さあ、動く時には早くです。時は有限なのですから、無駄遣いする暇はありません」

「う、うん」

「あとは人数も増やさなければなりません。その人員についても考えてください」

「わ、わかった」

　劉秀は言われた通りに準備を行っていく。すると彼の屋敷の門を叩く者が大勢現れた。故郷に戻っていた王覇（おうは）、傅俊（ふしゅん）が戻ってきた。因みに馬成（ばせい）は劉秀から離れずに内政を担っている。

　他にもやってきた者たちが四人いた。

　一人目は賈復（かふく）。字は君文という男である。彼は若い頃に県の掾となった人で主に『尚書』を学ぶなど学問を好んだ。また、河東から塩を運搬する帰途で一人塩を守り抜いてきたことから県の信頼を得たことがあるなど剛毅なところがある人である。

　ただこの男の欠点は彼自信はなんでもできる人でできない人に対してなぜできないのだろうかと思うことが多かった。そのため同僚からは好かれないところが欠点である。

　そんな彼は新王朝への反乱が起きると自分も数百人を率いて自立して将軍を称した。その後、更始政権に降ると劉嘉の元に配属され校尉となった。

　その劉嘉の紹介で劉秀の元に送られたのである。

「よろしく」

「はっご名声はかねがねから聞いており、お会いできて嬉しく思っております」

　賈復は敬礼した。

（評判よりも真面目そうだけどなあ、本当に同僚への態度が悪いのかなあ？）

　そんなことを思いながら劉秀は彼を迎え入れた。

　二人目は祭遵（さいじゅん）、字は弟孫である。

　彼は潁川郡潁陽県の人で若くして経書を好み、家は富裕であったが、それを誇らずそれどころか慎ましく粗末な衣服を着て生活を行った。

　経書を好んだことからわかるように彼は儒教を好み、親思いであった。母を亡くした時、土を担いで自ら塚を作った。本来であれば、それほど高位にある者でなければこのような塚は作らない。それでも儒教を学ぶ者としてその考えを貫いた結果がころであろう。

　彼は地方の小役人に侵害されることがあった。理由は不明であるが、彼の家が裕福であることから彼の父か先祖があまり良いことで裕福になったのではないのかもしれない。

　元々県中の者たちは祭遵のことを温和な人であると思っていた。小役人も同じ印象を持っていたために彼へ嫌がらせを行ったのであろう。しかしながら彼は血の気の多い人で彼は賓客と結託して虐めてきた小役人を殺害した。このことを知った人々は誰もが彼をはばかるようになった。

　祭遵にとってこの県は居心地の悪い場所になった。

　やがて新王朝への反乱が起きるようになると県は新王朝側となり抵抗するようになった。そう彼の地元である潁川郡一帯を制圧に派遣されたのが劉秀である。

　劉秀はここでの戦闘の中、祭遵の戦いぶりとその容姿端麗さから名のある者であると考え、県を制圧した後、自分に付いて来ないかと誘った。

　居心地の悪い故郷から離れたい思いを持つようになっていた祭遵はこれに同意した。しかしながら劉秀は父城の攻略に向かった後、自らの軍を手放し引きこもったため、同行することができる故郷に居続けることになってしまった。

　その後、劉秀が河北に行くという話しを聞き、参加するために劉秀の元へ出向いたのである。

「来てくれて嬉しいよ。よろしく」

「はい」

（いやあ綺麗な顔した男の人だなあ）

　と思いながら彼の迎え入れた。

　三人目は陳俊（ちんしゅん）、字は子昭である。

　この人も賈復と同じく劉嘉の推薦によってやってきた人である。元々南陽郡の郡吏であった人である。

「よろしく」

「はっ」

（文官と聞いていたけど、結構いい体格した人だなあ）

　そう思いながら劉秀は彼を迎え入れた。

　最後の四人目は臧宮（ぞうきゅう）、字は君翁である。

　彼とは下江が漢軍と連合した時に劉秀は会っている。彼は新王朝への反乱が起きた時に下江へ数百人を率いて参加した。このことから新王朝への反感を昔から持っていたことがわかる。

　そのため度々一緒に戦うこともあった。

「一緒に来てくれるとは、嬉しいです」

「敬語は結構、これよりはあなたの臣下となるのですからな」

　寡黙だが、勇敢な彼が来てくれたことに劉秀は喜びながら頷いた。

「これほどの者たちが付いて来てくれるとはね。嬉しいねぇ」

　劉秀は喜びながら陰麗華に言う。

「ええ、素晴らしいことです。いいですか。皆さんのお言葉をしっかりとお聞きし、従うのですよ」

　彼女はくどくどと小言を言う。

「最後に……どうかご無事で……」

「ああ、必ず帰ってくるよ」

　劉秀一行は河北に向けて出発した。

「その前に行きたいところがあるんだ」

　そう言って彼は頴川へ向かうと言った。

「おい、まさか」

「うん、父城に行くよ」

　父城では未だに攻防戦が行われていた。つまり父城は陥落していないのである。

「やはり私たちを騙していたのだろう」

「いやいや、騙すような人がここまで戦い続けるわけないでしょ」

　朱祐の言葉に劉秀は首を振りながらそのまま父城へ近づく。

「あ、旗を掲げておいてね」

　劉秀の旗が掲げられているのを城門の上から馮異（ふうい）は見つけた。

「あの旗は劉将軍の旗です。戻ってきたのです」

「おお、誠か」

　苗萌（びょうほう）は涙を流す。一方、相変わらず馮異は無表情である。

「さあ、降伏の準備を」

「ああ」

　劉秀たちは旗を掲げながら父城へ向かっていた。

「おい、これ以上近づくと危なくないか？」

「大丈夫だって」

　朱祐が止めるのを振り払いながら劉秀は父城の城門まで近づいていく。

「開門」

　劉秀は叫んだ。するとなんと城門が開き始めた。これには父城を包囲していた漢軍は驚き騒ぎ始める。

「劉文叔は一声で門を開いた」

　城門が開かれ、自らを縄で結んだ馮異と苗萌たちが現れた。

「いやあ我慢強い方々だ」

　劉秀がそう言うと馮異は無表情のまま肩をすくめて言った。

「中々に頭を垂れる方に出会えず、ここまでの時間まで戦うことになりました」

「じゃあ僕と一緒に来てくれるかな。河北に行くんだけど？」

「ここの土地の者たちを治めていただきたいのですが、いずれ戻ってくることを願い、承知しました」

「よろしい。では行くとしよう」

　こうして劉秀は馮異らを一行に加えた。

「あと、推薦したい男がいるのですがよろしいでしょうか？」

「誰だい？」

「銚期（ちょうき）、字は次況と言う男で、真面目で剛勇の持ち主でもあります。彼を同行させれば将軍の良きお力となりましょう」

「わかった。その彼も加えるとしよう」

　劉秀の河北遠征を前に多くの人物が集まった。彼らは未だ天下に対し無名と行ってよかったが、後に「河北の難」と呼ばれるこの旅において劉秀と苦難を共にしていくことで彼らの名は星の如く輝くことになるのである。

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劉秀と共に同行することになった愉快な仲間たち紹介。

冷静なる狂戦士・賈復。

大樹将軍・馮異

風紀委員長・朱祜

闘将・祭遵

蹕の人・銚期

闘争本能・臧宮

いると便利・馬成

将の中の将・陳俊

いぶし銀・傅俊

雑草魂・王覇