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就活オブザデッド—祈りの弾丸—  作者: ぺたへるつ
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第4話 "ありがとう"を喰らうモノ

「一足遅かったですね」


 歓喜に満ちた内定者達の作る花道を通って、女が私の方へと歩み寄ってくる。その笑顔は面のように硬直して、崩れない。若く、美しい女だった。所作も艶やかで、色町にでもいそうなオーラをまとっている。


「遅かった、とは?」

「この場にいる方々は、今し方わたくしが残らず救済して差し上げました。もう、あなたの出る幕はありませんわ」

「残らず……全員……?」

「ええ。病める者、苦しむ者、そして夢を持つ者には誰にでも救済の手を差し伸べるのが我が社の方針ですもの」

 女の言葉を聞いて、周囲の内定者達が快哉を叫ぶ——素晴らしい会社、会社はこうあるべき、こんな会社をもとめていた、ありがとうありがとう。私はゾッと背筋に寒気を感じた。だがそれは、異質な集団に対する怖れではない。既視感に由来する、罪悪感にも似た震えだった。


「何者だ、君は」

「わたしは、光を与え、《ありがとう》を集める者の代行者。夢を追い求める者に、自己研鑽の場を与える……そんな素晴らしい会社の使いですわ。ここには、そんな我が社の理想に賛同してくださった方々がこんなにいましたの」

 何の説明にもなっていなかったが、周囲の内定者達は彼女の言葉に逐一頷いている。

「たいしたもんだ……しかし、いったい、どれだけの聖苻を使ったというんだ」

 ざっと見ただけでも百体は超えているだろう。おそらく、二百体に迫るはず。

「さあ?忘れましたわ」

「忘れた?これだけの眷属を新たに再生させるなんて、どんな会社なんだ?」


 いくら景況が上向いているとは言え、未だ先行き不透明なご時世である。よほどの大企業であっても、これほどにも聖苻を大盤振る舞いすることなどできはしない。

 女は迷いなく答えた。


「もちろん、一部上場のアットホームな成長企業ですわ」


 ああ、そうなのだ。

 やはり、そうなのだ。

 私の胸の奥で、古い記憶が痛みをともなって目覚めた。

「見たところ、あなたは一枚しか聖苻をお持ちでないよう。成長を止めた会社にお勤めなのですね。ああ、なんて嘆かわしい。たった一人しか救うことのできない会社になんの価値が?ねえ、みなさん!」


 女は振り返って、彼女を崇め奉らんとする内定者達に叫んだ。


「我が社は、このご時世にこれだけの方々を救うことができる成長企業。そして、成長している会社とは良い会社なのです。あなたたちは、こんな我が社で働くことができるのです。こんなに、素晴らしいことはありません!我が社は、みなさんの力を得てさらなる成長をとげるでしょう!ああ!我が社を選んでくれてありがとう!ありがとう!」


 ありがとう、ありがとう——その言葉が、無限のリピートを開始した。終わることのない、大合唱。ありがとう、ありがとう。ありがとうを全身に浴びて、彼女が私の方を向く。そして、勝ち誇る。


「どうです?」

「ああ、たいしたもんだ。だが、これだけの維持費をどう賄う?眷属を使役すると言っても、対価は必要だろう」

 すると、彼女が微笑んだ。それは、それまでの作り物の笑顔とは違った。彼女は満面の笑みで言った。

「我が社は、夢を叶える場所を提供するのです。夢に対価が必要ですか?」


 目眩がした。


 彼女はまさに、私の過去を映した鏡だった。

何の為に就活し、何の為に働くか。

かつての私には何もなかった。

ただ、会社に命じられるままに採用するだけの機械……


次回、就活オブザデッド

第5話「コヨーテ」


過去の栄光が、蘇る——。

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