エピローグ 冥界への招待
「――貴殿が、イグニッサの先王フランメラルドがご子息、冒険者フランメリック殿にございますな?」
見上げた星空に甘い夢を思い描いてた俺は、突如響いたその声によって、現実の世界へ引き戻された。
「お初にお目にかかりまする。このような高みからのご挨拶、どうかご無礼をお許しくださいますよう――」
はるか東方の国チャナタイで、死者を弔う際に鳴らされるという鐘の音を思わせる、不吉な声。その主はどこかと周囲に視線を走らせりゃ、
「フランメリックさん、上です! 神殿の、屋根の上に……!」
俺より先に、アステルが気づいて指差した。目の前にそびえる神殿の、傾斜の緩い切妻屋根。その上に立つ、四つの人影を。
アステルが言ってた、ウォーロにヒューリオス、ザバダ――先日コンスルミラで会った三人の神かと思ったが、違う。聞こえてきた声は俺の記憶に残る三人の、いずれの声とも似てねえ。それに、人影の数は四つ――一人多いじゃねえか。
「アステル、あんた……この神殿にゃ今、七人の神がいるって言ってたよな?」
「え? あ……はい。そうです、七人です」
軍神、風神、海神――あの三人じゃねえとすりゃ、考えられるのは残る四人。
「それじゃ、あいつらが――」
俺やデュラム、サーラがまだ会ったことがねえ、四人の神なのか。アステルにそう問うと、いつも柔和な表情をしてる神は、らしくもねえ硬い面持ちでうなずく。
「気をつけてください、フランメリックさん。あの四人は――」
気のせいだろうか。星の神様の声は、心なしか震えてるように聞こえた。
同じ神であるアステルが、緊張してる。
あいつら一体、何を司る神様なんだ……?
俺が抱いた疑問に対する答えは、速やかにもたらされた。神殿の上に並んで立つ、四人の神から。
「我らは、命刈り取る収穫者」
と、四人のうち一人が言った。
その後に続いて、二人目、三人目が言う。
「我らは、現世と冥界を隔てる大河の渡し守」
「我らは、冥界の王ヴァハルに仕えし忠実なるしもべ」
冷たい戦慄が、背筋を突っ走る。
乾いたのどを震わせ、かすれた声を絞り出した。
「あ、あんたたちは……まさか」
「然様」
最後の一人――四人目が、一際気味の悪いしわがれ声で告げた。
「我らは――死神にございます」
夜風が強まり、四人が身にまとう黒い長衣をはためかせた。目深にかぶってた頭巾も横殴りに吹きつける風にあおられ、下に隠れてた素顔が見える。
四人そろって血の気がねえ、青ざめた顔。端整だが表情の変化に乏しく、どこか仮面じみて見える細面。酷薄そうな青白い唇が開き、こんな言葉を紡ぎ出す。
「我らの主――ヴァハル神が、貴殿とお近づきになりたいとお望みにございます。なにとぞ、我らとご同行くださいますよう……」
言葉遣いは丁寧だが、その声はぞっとするほど冷たい響きをともなってた。しかも話の中身にいたっちゃ、死の宣告――あの世への招待に他ならねえときた。
神々が定めた運命に抗うなんて、生意気なことを言い続けてきたからだろうか。どうやら俺は、とんでもねえ連中に目をつけられちまったらしい。
神は神でも、命ある者にとっちゃ一際恐ろしい神。
人間だけじゃねえ。妖精に小人、鬼人、巨人――地上に住むあらゆる種族が恐れる、冥界の神々に。




