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第47話 アンタにオレの何がわかる?

「よう、しばらくだなロフェミス。いや、地上じゃアステルって名乗ってるんだったか」


 顔なじみの相手と会ったときみてえに、海賊の大将は軽く右手を挙げてみせる。それから、アステルの肩越しに俺とデュラム、それにサーラを見て、口許に皮肉っぽい笑みを浮かべた。


「はん。やっぱりアンタ、見た目だけじゃなくて、お人好しなところも昔と全然変わってないみてェだな。その様子じゃ、今はその三人のことが気がかりで、あれこれ手助けしてやってるんだろ? ったく、人助けなんざ何百年も続けて、よくもまァ飽きねェもんだぜ」

「……お久しぶりです、シュフィックさん」


 一方のアステルは、シュフィックの皮肉を受け流し、そう挨拶を返したものの、その表情は強張ってて口調も硬い。二人はどうやら顔見知りみてえだが、過去に何かあったんだろうか。


「あなたこそ、まだあきらめてないんですね。ワガンさんへの――いえ、神への復讐を」

「ったりめェよ」


 と、シュフィックはすかさず返してくる。


「古の賢王曰く『目には目を、歯には歯を』ってな。俺は必ず、あの海蛇野郎を追い詰めて、ぶち殺す。そして、あいつを従えてるザバダも殺してやる。どれだけかかっても、どんな手を使ってでも、いつか必ずな……!」


 どうもこの海賊の親分は、海神ザバダとあの大海蛇――ヘッガ・ワガンに怨みがあるようだ。そう言えば、先日の夜に〈波乗り小人号〉の甲板(デッキ)で聞いた船乗りの歌――あの中にも、こんな歌詞があったっけ。



 ――南の海の海賊王、海神(ザバダ)に仕えし海蛇に、妻を殺され、息子を食われ、挙句に船をも沈められ、怒りに燃えて復讐誓う。



 あれはひょっとして、今俺の前にいる海賊の船長、シャー・シュフィックのことを歌った歌なんじゃねえか。この前海賊たちと戦ったとき、シュフィック自身もあの歌と似たようなことを言ってたし、あり得る話だぜ。

 あのとき、この海賊船長は確か、



 ――海神ザバダと、その眷属――オレから家族を奪った海蛇野郎に、復讐するためによ!



 とか言ってたはずだ。

 この海賊の大将、俺たちとは違うやり方で神々に挑もうとしてるのか。けど……本気かよ? 地上の種族が、神やその眷属を殺めるなんて。

 神殺しなんて大それたことを、この人は本当にしでかすつもりなんだろうか……?


「シュフィックさん……」


 アステルの表情が、憂いに翳る。


「……やっぱり、思い止まってもらうことはできませんか? 今ならまだ間に合います。復讐は復讐を生むだけだって、地上でも昔から言われてるじゃないですか。それに、神に復讐するとか、まして神を殺すなんて、無茶です。ぼくは、あなたにそんなことをしてほしくて助けたわけじゃありません。このままじゃ、ぼくがあなたを止めないと……」

「うるせェよ。神がごちゃごちゃ言ってるんじゃねェ」


 冷たい拒絶の言葉が、その場の空気を凍りつかせた。二人の間――何もねえ宙に、ピシリと亀裂が走ったように見えたのは、気のせいだろうか。


「そんなことだと……? きれいごとほざいてンじゃねェぞ、きらきら光る星屑が頭ン中までぎっしり詰まってる、苦労知らずの坊ちゃんがよォ!」


 それまで余裕のある態度を崩さなかった海賊のお頭が、いきなり怒りをぶちまけた。なんの前触れもねえ突然の激昂に驚いたのか、アステルがびくっと震え、後ずさる。

 ……人間が、神に恐怖を感じさせるなんて。


「自分も親父もお袋も、家族そろって不老不死。大切なもんを失ったことなんざ一度もねェ。そんな幸せ者のアンタに、オレの何がわかる? 『復讐は復讐を生むだけ』だァ? そういう安っぽいきれいごとを言えンのは、本当に大事なもんを奪われたことがねェ奴だけだ!」


 真ん丸に見開き、血走った目。こめかみに浮き上がった青筋、剥き出しの歯。まさに、鬼気迫る表情だ。これは……ただの怒り、一時だけの感情の昂りじゃねえ。もっと根深くて、暗い情念だ。俺も以前、シルヴァルトの森で思いがけず親父の仇と会って、あんな激しい憎しみに駆られたことがある。けど、目の前の海賊――シャー・シュフィックのそれは、あのとき俺を衝き動かした憎悪よりも、ずっと強くてまがまがしい。

 一気呵成にまくし立てた後、シャー・シュフィックは肩を大きく浮き沈みさせ、腹の底から息を吐き出した。それからまた、目の前に立つ神をきっとにらみつけ、話を続ける。


「――アステル。アンタにゃ一応、借りがある。あの海蛇野郎に船をぶっ壊されて、一人波間を漂ってたオレに、神々の中でアンタだけは、救いの手を差し伸べてくれた。愛想のいい漁師の爺さんに姿を変えて、たまたまその場を舟で通りかかったふりして、オレを助けてくれた。けどなァ……!」


 ぎりぎり。拳を強く、固く握り締める音が、こっちまで響いてきた。離れてるはずなのに、確かにはっきりと聞こえてきたんだ。


「オレたち地上の種族に、ろくでもねェ運命を押しつける神々の一人である以上、オレにとっちゃアンタも、海蛇野郎やザバダと同類、いや同罪だ! 邪魔をするなら、アンタでも容赦はしねェぞ。痛い目見たくなけりゃおとなしく引っ込んで、指でもくわえてなッ!」

「シュフィックさん……」


 アステルの顔が、悲しげに歪む。シュフィックはそれを見ると、いら立たしげに舌を打ち、神の足元に唾を吐き捨てた。これが決別の印だ、とでも言うように。


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