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第31話 勝てるんじゃねえか?

「それじゃあ一局……お手合わせ願おうかな!」


 メラルカの右腕に彫り込まれた、炎を思わせる黒い刺青が、やおら赤みを帯びて輝き出す。初めは炭火のように赤々と――次第に焚き火のごとく煌々と、陽炎を立ち上らせて輝く。

 やがて刺青から火の粉が噴き上がり、本物の炎が噴出した。噴き出した炎は、主であるメラルカの右腕に絡みつき、螺旋を描いて指先へと進む。そして――ボワッ! 人差し指の先まで行き着いた瞬間、渦巻く炎が解き放たれた。首環を外されるなり、獲物めがけて一直線にすっ飛んでいく猟犬のように。

 以前、コンスルミラであの神様が放つのを見た、炎の渦。それが今また火の粉を振りまき、唸りを上げてサーラに迫る。

 石の壁を易々と打ち崩し、壁石を溶岩みてえに溶かしちまう、魔法の炎だ。


「望むところよ……お願い、チャパシャ様!」


 だが、サーラが呪文を唱え、水の女神(チャパシャ)に祈るのも早かった。青く輝き出した杖の先端をメラルカに向け、荒れ狂う激流をどっと噴き出させる。

 つまらねえ小細工なしの、真っ向勝負。魔法によって呼び出された炎と水が、正面からぶつかり合った。両者の境目を中心に、火の粉が狂ったように四方八方へ乱舞し、水飛沫が激しく方々へ散る。

 勝負の結果は――引き分けだ。メラルカの炎とサーラの水は、互いに相手の力を削り合い、打ち消し合い、やがて双方とも消滅した。あたりに濛々と漂う、黒い煙と白い湯気を残して。


「……ふうん。やるじゃないか。すごいね、キミ」


 空飛ぶ金床の上に座り込み、頬杖ついた姿勢で、メラルカは唇の端をつり上げた。


「ルカリコンが手にした〈焼魔の杖(メラルテイン)〉の火ばかりか、このボクの炎まで防ぎきるなんて」

「これくらい、まだ序の口よ。今度はこっちから行くわ!」


 言うが早いか、魔女っ子が仕掛ける。杖の先端から再度噴き出した水の奔流が、一気呵成にメラルカの許へと攻め寄せた。

 ズドドドドッ! 今までの激流とは勢いが違う。半年前、〈樹海宮〉の地下で魔法使いカリコー・ルカリコンを瞠目させた、あの大激流だ。さすがの火の神も、これにゃ白旗を揚げるんじゃねえか……?

 なんて思った俺が甘かった。そう思い知らされたのは、その直後。目前に迫った激流を見て、メラルカが口許に意地の悪い笑みを浮かべてみせたときだった。


「ああ、本当にすごいね、キミは。そんなにすごくちゃ、ますますしたくなるじゃないか……ボクのしもべにさ!」

 メラルカが右手を一振りすりゃ、ボワッと巻き起こる紅蓮の炎。迫る激流を主の一歩手前でせき止め、そのままじりじりと押し返しにかかる。


「くっ……!」

「今度はボクの番だよ、マイムサーラ」


 右手で放った炎にサーラの激流を足止めさせておいて、火の神が反撃に出た。空いた左手を掲げて、その周囲に右手と同じ、真紅の炎を巻き起こしたんだ。

 ボウッ! 右手が放った火の渦に、左手から放たれた炎の渦が加勢すりゃ、サーラの激流が一気に押し戻されて、形勢逆転。今度は魔女っ子が守勢に立たされる。


「サーラ!」

「来ないで、メリック!」


 俺にも何か、手伝えることはねえか。少なくとも、メラルカになんでもいいから投げつけて、気をそらすくらいのことはできるんじゃねえか。そんな思いから前へ出ようとした俺を、魔女っ子が余裕のねえ声で制した。


「あたしは大丈夫だから、あなたは下がってて!」

「……っ! けど……」


 本当に、大丈夫なのかよ?

 さっきサーラが言ってたことが、引っかかって仕方ねえ。「抑え切れなくなる」ってのは、一体なんのことなんだよ?

 脳裏に立ち込める不安の(もや)は晴れなかったが、俺は結局、何もできずに引き下がるしかなかった。

 今、目の前で繰り広げられてるのは魔法の勝負。剣術馬鹿がしゃしゃり出ても、足手まといにしかならねえのは目に見えてるからな。

 ……こんなとき、俺にも魔法が使えたらって、つくづく思う。強大な力を持つ神との戦いで、俺の剣はなんの役にも立たねえ。あまりに無力じゃねえか……。

 そんなことを考えてる間にも、サーラとメラルカの戦いは続く。優勢なのは、さっきからずっと変わらず火の神だ。あの恐ろしいまでに強力な炎の渦を二つ、涼しい顔して両手で放ち続け、魔女っ子を防戦一方の状態にしてやがる。

 けど、サーラは粘り強かった。メラルカに押されながらも、波間に揺れる筏の上で足を踏ん張り、両手で杖を構えて、同じ呪文を繰り返し、繰り返し詠唱する。水の女神様に何度も呼びかけ、さらに力を借りようと必死になってるようだ。


「チャパシャ様、お願い……もっと力を貸して、もっと!」


 幸いチャパシャは、魔女っ子の呼びかけに応えてくれた。サーラの杖が輝きを増して、噴き出す水の勢いがさらに強まる。一時は押されてた激流が巻き返し、炎の渦を見る間に押し戻す。


「ちょっ……(パパ)様、まずいよこれ……!」


 さっきからずっと、空飛ぶ金床の上でメラルカに抱きついたままのラティさんが、あわあわと焦った顔して親父さんを見る。


「ねえ、(パパ)様! このままじゃ、あたいたち……むぐぅ?」

「静かにしてくれないかな、ラティ。でないとボクも、気が散るからさ」


 傍らでうろたえる娘さんの口に、メラルカがぴしっと人差し指を押し当てる。


「それにしても……驚いたよ。チャパシャからここまで力を引き出せる人間がいるなんてね」


 そう言うメラルカの声にゃ、感嘆に加えて賞賛の響きがあった。さすがの火の神も、サーラが全力で繰り出す魔法にゃ舌を巻いてると見えるぜ。


「これは……勝てるんじゃねえか?」


 勝利の予感がして、汗ばんだ手をぐっと握り締める俺。

 今は明らかに魔女っ子が優勢だ。このまま押し切れば、メラルカにあの大激流をくらわせてやれる。いくら神様でも、あれだけの激流に呑まれて無事じゃいられねえだろう。


「サーラ、あと一息だ! もう少し――」


 がんばれ。固く握った拳を振り、声援を送ろうとした、そのときだった。魔女っ子の身に、異変が起きたのは。


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